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198 景色を楽しんで

「あとは、勝手に私に掴まってください。準備ができたら行きますよ」

「相変わらず、俺達の扱いが雑だなぁ」

「また吐くのか………」

 淡々として冷たいシルヴァに、さっきの飛行を思い出したのか、青い顔のレギーとロイ。

 わたしも、そんなふたりの様子を見て、気持ち悪さが蘇った。うっ。

 レオポルト・リシャールとレギーがシルヴァの肩に掴まり、サニー・アローズとロイがシルヴァの腰に掴まった。その直後、シルヴァは認識阻害の魔法をかけた。これで、王妃一行に見つからなくなる。

 レオポルト・リシャールが握っていた大剣は、彼が地面に突き立てると土に還った。不思議。どういう仕組みなんだろう?でもこれで、大きな荷物がひとつなくなった。わたしのマジックバッグにしまうには禍々しすぎるし、どうしたらいいか困っていたんだよね。よかった。


 シルヴァが地面を軽く蹴ると、全員の体がふわりと浮き上がった。ふわふわして頼りない感じが心もとなくて、シルヴァの服を握りしめた。すると、シルヴァがくすりと笑ってわたしを抱き締める手に力を込めた。

「行きますよ」

 そう声をかけると、シルヴァは空高く浮かび上がった。地面がはるか下になり、地平線が遠くに見えている。さっきはまだ暗かったけれど、今はもう日が高くなり遠くまでよく見通せる。王城跡地を中心として緑の畑が広がる美しい光景に、ため息が漏れた。


 さっきはとにかく恐ろしかったけれど、今度は景色を楽しむ余裕があった。なぜかというと、シルヴァが飛ぶスピードを緩めてくれているから。

 だけど、シルヴァに抱き締められているわたしと違って、シルヴァにしがみついているレギーとロイは必死だ。

「早くこの恐怖を終わらせてください!」

「なんでこんなにゆっくりなんですか~!」

「くふふっ。せっかくの景色を楽しんでください」


 サニー・アローズとレオポルト・リシャールは一度死んでいるからか、落ちても大したことないと思っているのか、余裕そうだ。

「俺が知っている景色とは違うな」

「それだけ時が経ったってことだろうな」

 必死な形相のレギーとロイを横目に、ふたりで話をしている。

「あ、あそこがレジスタンス村ですよ」

 遠くに見えてきた集落を指さしてサニー・アローズ達に教えると、ふたりはゲラゲラと笑い出した。

「あの規模の集落を、いまは村と呼ぶのか?」

「とてもレジスタンス村とは呼べないな」


 たしかに、暗がりで見ても貧相な集落だったけれど、こうして空から見ると、その貧相さがよくわかる。あの規模ではとても人が隠れるなんてできないし、とてもじゃないけれど反政府組織の村とは思えない。村を隠してくれる木もまばらで、畑も小さく住民が食べていくのが精一杯に見える。

 それでも、それが偽装だとしたら?わざと疑われないよう貧相な様相を呈しているとしたら、大したものだ。

 村には人気ひとけがない。わずかな村人は畑仕事を終えて、王都へ働きに出ているのかもしれない。


「とりあえず、村長のプロフェの所へ行こうよ。たぶん、ゴドもいるよね」

「そうですね」

 わたしの言葉にシルヴァが頷き、ふわりと村長の家の前に降り立った。

 地面に足がつくと、すぐにレギーとロイは草むらに駆けて行ってしゃがみ込んだ。さっきあれだけ吐いたんだから、もう吐くものは残っていないと思うんだけど。気分の問題なのかな。

 サニー・アローズとレオポルト・リシャールは空の旅が楽しかったらしく、平気な顔をしている。

 わたしは、さっきよりはましだけれど気持ち悪い。シルヴァの服にしがみついて、吐き気を堪えている。


「では、参りましょうか」

 シルヴァがそう言って、今もシルヴァに触れているサニー・アローズとレオポルト・リシャールを連れて村長の家に入った。ノックしようよ。

 村長は家の掃除をしているところだった。勝手にドアが開いたことにびっくりして、手に持ったほうきとちりとりを剣のように構えた。

 認識阻害の魔法がかかったままだから、今のプロフェにはわたし達が見えないんだよ。そりゃ驚くよね。

「プロフェさん、わたしです。セシルです」

「えっ?………うわあ!!」

 空中から声が聞こえてびっくりしたプロフェだったけれど、シルヴァが認識阻害の魔法を解くと、さらに驚いた。スケルトンが2体もいるもんね、そりゃあ驚くよ。


 けれど、さすがと言うべきか、プロフェは腰を抜かすこともなく、頼りないほうきとちりとりを握る手に力を込めた。

 恐ろしいスケルトン2体を相手に戦う気になるなんて、肝が据わっている。普通は逃げるか、腰を抜かすよね。

「プロフェさん、こちらはサニー・アローズとレオポルト・リシャールです」

 わたしがふたりを紹介すると、プロフェは口をぽかんと開けた。そしてほうきとちりとりを放り投げ、地面に平伏した。

「伝説のおふたりにお会いでき、光栄です!」

 プロフェの態度に気をよくしたサニー・アローズとレオポルト・リシャールは、互いを肘でつつきながらにやにやしている。

 

 



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