196 地中から現れた者
レギーとロイも空気が変わったことに気づいたようだ。
「セシル様、離れてください」
「ここは危険です」
ふたりしてわたしの前に立ち、警戒するように視線を王城跡地に巡らした。
「わたしは大丈夫。それより、もっと離れて。近すぎて、敵が現れたときに戦いにくいよ」
「あっ、失礼しました」
「すみません!」
言いながらわたしから距離をとり、それぞれが剣を手に取った。
わたしも剣を手に取ろうとして、戸惑った。
ゾクゾクするような嫌な気配が、面白がるような、こちらを観察するような気配に変わったのだ。敵意がない。それに気づいてビックリした。
そして、戦う気満々で楽しそうに歩くシルヴァを目にして、気づいたら叫んでいた。
「シルヴァ!戦わないでーーー!!」
ぼこぉんっ!
地面が爆発したようになり、地中から白いなにかが飛び出してきた。それは、シルヴァの背後と、わたしの目の前に現れた。
「がおーーー!」
よくわからない威嚇の声を上げて、その白い物体はわたしの前に立ちはだかった。
「握手してください!」
思わず、叫んでいた。
初めて見たその白い物体は大きく、身長が2メートルほどあった。そして太く、逞しく、スケスケだった。なんだか、妙に感動したの。これが、体の中にあるんだってことに。そう、その白い物体はスケルトンだった。
「え………握手………?俺なんかと?」
なんと、そのスケルトンは照れた。血管なんてないはずなのに、顔がほんのり赤くなったのだ。
「嫌、ですか?」
差し出した手を引っ込めることができずに困っていると、そのスケルトンは骨ばった手で握手してくれた。
「うわー、感激です!ありがとうございます」
スケルトンの手は細かい骨もしっかりとくっついていて、細かい動きをするのが見ていて面白かった。
「わたしはセシルと言います。お名前は?」
「名前?えっと………そんなこと聞かれたの久しぶりだからな………そうだ!レオポルト・リシャールだ」
「ラドバウト王の騎士団長ですね!お会いできて光栄です」
自分でも妙なテンションになっているのはわかったけれど、止められない。
だって、骨が動いてしゃべるんだよ?こんな不思議なことってある!?声帯もないのに、どうやって声が出ているんだろう?どうして、骨がカタカタ言わないんだろう。どうして骨が宙に浮いているんだろう。わからないことばっかりだよ!
「ふふふっ。そうなんだ。俺は誇り高きラドバウト王の騎士団長!レオポルト・リシャール侯爵だ!さあ、崇めたたえるがいい!はっはっは!」
なるほど。侯爵だったんだね。
「おいおい、なにのんきに自己紹介してるんだよ。そいつ、悪魔だぞ」
そう言いながら現れたのは、おそらくサニー・アローズ。身長は170センチくらい。レオポルト・リシャールより華奢な骨格で、飄々とした雰囲気を漂わせている。
「え!?セシルが悪魔?いやいや、兄弟、そんなわけないよ。こんなに可愛いんだから」
「よぉ兄弟、しっかりしてくれよ。シルヴァがただの人間を連れてるわけないだろ」
「サニー、おまえこそしっかりしてくれ。セシルの他にも人間はいるだろ。明らかにア・ッカネン人の特徴をした奴らが、こっちを見つめているじゃないか」
レオポルト・リシャールが身振りでレギーとロイを示したときに、こちらへ歩いて来るシルヴァと目が合った。
「セシル様の言いつけ通り、サニーには手を出しておりません」
シルヴァの言葉に、サニー・アローズがぴくりと反応した。
「もしかして、シルヴァの契約者か………?」
サニー・アローズがわたしを見つめ、首を傾げた。その様子が、愛嬌があって可愛らしく見えた。
「そうです。わたしがシルヴァの契約者です」
「なにを企んでいる?あの悪魔を使ってなにをする気なんだ?」
あ、これは、一方的にわたし達を敵と決めつけるんじゃなくて、会話によって見極めようとしているんだね。
わたしは、シルヴァが現れたときのことを話した。わたしが、悪魔イヴェントラの子孫であることも。だって、たぶんサニー・アローズはわたしの中のイヴェントラの血に気づいているから。
「ふぅん。イヴェントラの子孫ね。悪魔が子供を作ったなんて聞いたことないけど、確かなようだ。君の中には、悪魔の力を感じるからね。で?俺達になんの用なんだ?」
そう言われて、今のアーカート王が病気に倒れていること、アーカート王がクロードの体を乗っ取って復活しようとしていること、王妃がサニー・アローズ達を利用しようとしていることを話した。
「まったく。カリクステ殿下の子孫はろくでもないな。死期が近づけば、素直に受け入れればいいものを、無様にあがいてるってわけか」
ちょっと待って。クロードまでろくでもないと思われては困るよ。
そこで、今度はクロードがどんなふうに生きて来たか、どういう人物かについて話した。これから、国王になろうとしていることも。
「なるほどね。苦労してきたんだ。だけど、貴族の教育も受けていない奴が、いきなり国王になろうってのは、いくらなんでも無謀じゃないか?」
「あ、それなら大丈夫です。妻になったユリアナ・マーレ公爵令嬢が、幼い頃からみっちり王妃教育を受けて来た人なので、しっかりクロードのことを支えてくれます。政治的にも、貴族派のリーダーであるマーレ公爵と、中立派のセルドリッジ侯爵が後ろ盾になってくれるよう約束を取り付けました」




