183 ユリアナ令嬢
「クロードの存在が国王側にバレた以上、クロードを奪おうと仕掛けて来るだろうね」
クロードだけじゃない。フィーも大事だ。
「ご自分のこともお忘れなく」
「うん?なんでわたし?」
「万が一セシル様を人質に取られたら、クロードもフィー様もセシル様を優先するでしょう。そして私は、セシル様をお救いするためなら、再び王都を火の海に変えようとかまいません」
「え!それはだめ!」
シルヴァなら無茶をしかねない。
「ですから、セシル様はなによりご自分を大事にしてください。特に、私の傍から離れてはいけませんよ」
あ、それが言いたかったんだね。
シルヴァの腕に手を置いて、その美しい顔を見上げた。
「大丈夫。わたしがどこにいても、シルヴァなら駆け付けてくれるでしょう?」
「くふふっ。当然です」
ガチャッ
扉が開き、レイヴが入って来た。エステルもいる。
「こちらにいらっしゃったんですね」
「うん。エステルは片付けを手伝っていたの?おつかれさま」
「レイヴ様にもお手伝いいただいたので、すぐ終わりました。レイヴ様、ありがとうございます」
「あれくらい、どうってことない。それよりセシル、こっちにおいで。もう寝よう」
そう言ってレイヴはわたしを抱きあげると、シルヴァから距離をとった。といっても、狭い部屋の中だから、たいして離れていないけれど。
ベッドを人数分置くほど広くないので、わたし達は床に毛布を敷いて寝ていた。野宿に慣れているから、これくらいどうってことない。雨風を凌げるのでありがたいくらいだよ。
レイヴはわたしを抱き締めたまま横になると、すぐに眠りに落ちた。わたしと同じくらい寝つきがいいのだ。
レイヴが寝たのを確認して、シルヴァがわたしの前に横になった。わたしが片手を伸ばすと、自分の両手で大事そうに包み込んで胸に抱いた。シルヴァのぬくもりが気持ちいい。トクトクというシルヴァの鼓動を聞きながら、静かに眠りに落ちていった。
翌日、目を覚ますと、シルヴァとレイヴに挟まれていた。いつものことだけど、狭い!!おかげで、起きたばかりのときは体が痛いよ。
「おはようございます、セシル様」
寝起きに見る、シルヴァの妙に色っぽい顔も見慣れた。
「セシルおはよう」
シルヴァに嫉妬して、レイヴがぎゅうっと抱きすくめてくるのも。
「ふたりともおはよう」
レイヴの手を軽く叩いて離してもらい、起き上がるとう~んっ!と伸びをする。凝り固まった体が伸びて気持ちいい。
そのとき、ドタドタと走る音が聞こえて扉が開いた。フィーだった。
「セシル起きてたんだね!ユリアナ令嬢が来たんだ。見に行く?」
「もちろん!」
返事をして、フィーの後をついて正面入口から外へ出た。すでに商会中に従業員が入口の前に行列していた、追いかけてきたシルヴァとレイヴと一緒に列に紛れ込んだ。
そのとき、軽やかな足取りと共に一台の豪華な馬車がやってきた。商会の前で停まり、中からひとりの美しい女性が現れた。長い黒髪を背中に垂らし、緑色のややつり上がった目をしている。肌はア・ッカネン国人にしては白く、日差しから守られてきたことを示している。騎士にエスコートされて馬車を降りる彼女は、気高く、気品に溢れた女性だった。
「これはこれはユリアナ令嬢。こんな所までお越しいただきありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
ヘイラムが商人らしい、抜け目ない視線をユリアナ令嬢に向ける。
ユリアナ令嬢は商会の前に並んだ人々を見回し、首を傾げた。
「わたくしを守ってくださった方に、お礼を言いに参りました。あの方はどちらかしら?」
それって、クロードのことだよね!?皆はクロードがすでにフラれたような言い方をしていたけれど、わざわざ会いに来るっていうことは、脈があるんじゃない?
でも、この騒ぎを見守る通行人の中に、諜報部員が隠れているんだろうなぁ。早く、ユリアナ令嬢を商会の中に案内しないといけないよね。
「彼なら、中におります。どうぞ中へおいでください」
誰が聞いているかわからないから、ヘイラムもあえてクロードの名前を出さなかった。
ヘイラムに案内されて、ユリアナ令嬢は応接室へ向かった。入口の前にはユリアナ令嬢を護衛してきた騎士2人が立ち、侍女がユリアナ令嬢に付き添った。
わたしとシルヴァ、レイヴ、フィーは応接室の隣の部屋に潜り込み、わたしはフィーと一緒に壁に耳をつけた。話の内容が気になる~!
少しして廊下を歩いて来る足音が聞こえ、ドアがノックされた。
クロードが来た!?と思ったら、ユリアナ令嬢をもてなすためのお茶だった。
そういえば。昨夜、わたしがクロードに清浄魔法をかけたから、顔の火傷跡の化粧も消えてしまっているんだよね。今頃、慌てて化粧しているのかな?でも、ユリアナ令嬢を味方につけたければ、素顔のままで会うのがいいよね。自分を偽ったままでは、信用されないもの。
そうして待っていると、今度こそクロードが応接室に入って来た。ユリアナ令嬢の息を飲む声が聞こえた、ような気がする。ということは、化粧をしていない素顔のままで現れたのかもしれない。




