181 クロードの恋
「おそらく。セルドリッジ侯爵は後ろ盾になる条件として、ユリアナ・マーレ令嬢との結婚を突きつけてくるでしょうな」
ヘイラムが深刻な顔でそう言った。
「ユリアナ・マーレ令嬢?それは、どんな人ですか?」
「貴族派のリーダーであるマーレ公爵の長女で、いずれは王妃に、と育てられたためプライドが非常に高い令嬢ですね。しかしそのプライドの高さから、陛下に可愛げないと言われ王妃にはなれなかった令嬢です。結局、陛下は見た目の愛らしいヘンリエッタ・ロムシェ侯爵令嬢を王妃に選びましたが、ある意味、このおふたりは似合いのカップルです。おふたりとも贅沢が好きで、我慢するということを知らず、好き放題ですからな。おかげで父親のロムシェ侯爵は宰相にまで昇りつめ、ア・ッカネン国を好きなように動かしております」
そこまで話して、ヘイラムは話がそれたことに気づいた。
「おっと。失礼。ユリアナ・マーレ令嬢の話でしたな。ユリアナ令嬢は王妃教育を受けて育ったせいかプライドは高いですが、博識で、慎ましやかで、礼節を重んじる方です。まさに王妃に相応しい方と言えましょう。クロード殿が王位を目指すなら、パートナーとしてなくてはならない方です」
でも、クロードは王にはなりたくないんだよね。
なにか奇跡が起きて、クロードがユリアナ令嬢に恋でもしなければ、クロードが王を目指すことなんてなさそうなんだけどな。
貴族として育てられたら、政略結婚も受け入れるかもしれないけれど、クロードは違う。過酷な環境で、その日を過ごすのが精一杯の状況で生きてきた。嫌な命令も我慢して耐えてきて、苦しい生活からようやく解放されたというのに、べつの苦しい生活を送りたいと思うわけがない。
そんなことを考えながら過ごしていたら、いつの間にか夕方になっていた。
シルヴァにハディット達を探しに行ってもらおうかと考えたとき、ようやくハディット達が帰って来た。全員、無事に帰って来たことを、ヘイラムも喜んだ。
「フィー様、ご無事でなによりです」
「ちょっと問題が起きたんだ。それで、遅くなっちゃった」
問題ってなんだろう?
ふと、クロードを見ると惚けた顔をしていた。心ここにあらずといった感じ。
「クロード、大丈夫?熱でもあるの?」
クロードの手に触れると、ビクッと体を震わせてクロードはわたしを見た。目がとろんとしている。
「ねえ、大丈夫?」
「はい。恋をしました」
「………」
どうやら、大丈夫じゃなさそう。なにがあったんだろう?
とうさまを見ると、「あとで話す」と言われた。
夕食のときも、クロードはフォークを落したり、様子がおかしかった。
ハディットはセルドリッジ侯爵邸での様子を話してくれた。セルドリッジ侯爵に会うことができて、クロードの後ろ盾になってくれるよう頼んだらしい。すると、ユリアナ・マーレ令嬢と婚約できたら後ろ盾になると言ってくれたそうだ。
結婚よりハードルは低いけれど、それでも越えなければならない壁は高い。まず、どうやって貴族派のリーダーであるマーレ公爵家の娘と会うかだけど。正面から門を叩いても、中には入れてくれないよね。
そして、肝心の後ろ盾の話は後回しになったけれど、ワインの取引は予定通り行ってきたらしい。売上の一部を、とうさまがヘイラムに渡していた。
「………ユリアナ令嬢には会えた。うまくいけば、マーレ公爵とセルドリッジ侯爵の後ろ盾を得られるだろう」
とうさまが、わたしを見ながら言った。
「え?どういうこと?」
「問題は、アレが令嬢の気に入らなかったということだ」
とうさまは、今度はクロードを指して言った。アレというのは、クロードのことだとわかった。
とうさまが話してくれたところによると、セルドリッジ侯爵邸からの帰り道に問題が起きた。荷馬車の前に孤児が飛び出し、道を塞いだのだ。ひとりならまだしも、5人の子供達が互いに手を繋いで壁となった。どこから聞いたのか、ハディット達がオ・フェリス産ワインを運んでいると思ったらしく、通行料として1本譲るように要求した。まだ数本残っていたらしいけれど、それはとうさまのマジックバックに入っている。荷台に積まれた木箱の中身は空だった。子供達の代表者に木箱を確認させるとガッカリしていたけれど、今度は「ガッカリさせたから」と言って金貨1枚払うように要求してきた。見物人も、荷馬車がへルメイラ商会の物と知って、騒ぎを面白がって見物していて、一向に助けてくれる気配がしない。そのとき現れたのが、ユリアナ・マーレ令嬢だった。
「それで?どうしたの?」
「色々あって、クロードがアレになった」
思いっきり省略した!!
「とにかく、クロードはユリアナ令嬢に惚れた。しかし、肝心のユリアナ令嬢はクロードを気に入っていない」
「気に入っていないというより、軽蔑してる感じ?あの冷たい目は、なかなかできないよ」
フィーが面白がっている。ぼーとした様子のクロードを見て、くすくす笑っている。




