180 へルメイラ商会4
王都滞在中はへルメイラ商会のお世話になることが決まったけれど、空いている部屋が2つしかなかったので部屋割で揉めた。うん。すごく揉めた。結局、広いほうの部屋にわたしとエステル、フィー、そしてシルヴァとレイヴが寝泊りすることになり、もうひとつの部屋にとうさまとクロード、レギー、ロイが寝泊りすることになった。
へルメイラ商会の人達は、突然訪れたわたし達に驚きはしたものの、行商の旅に出ていたハディットが戻って来て嬉しそうにしていた。
ハディットはへルメイラ商会の跡取り息子で、修行のため行商の旅に出ていたそうだ。大店の跡取りなのに、護衛もいないなんて危険だよね。もし盗賊や魔物に襲われてしまったらどうするつもりだったのか?聞くと、自分の身は守れるくらいに鍛えてあると笑った。たしかに、ハディットの体はたくましく、重い荷物も軽々持ち上げてしまう。動きも俊敏だし、一般人とは違う感じがする。年は23歳。結婚して、子供がいてもおかしくない年齢だ。それを言うと、許嫁がいると教えてくれた。今回の騒動が片付いたら、結婚を申し込むつもりだと。
結婚かぁ。自分が結婚するのは想像もつかないけれど、他人の結婚式は参加してみたい。花嫁さん綺麗だろうなぁ。
「セシルの花嫁姿は可愛らしいだろうね」
突然、シルヴァが話しかけてきた。うっとりとした表情をしている。
「シルヴァわかってる?結婚できるのは成人してからなんだよ。15歳になってからなの」
「それは人間のルールだよね。私は悪魔だよ。年齢など関係ないよ」
「あっそ。こう見えて、わたしは人間なの。だから、人間のルールが大事なの。わかる?」
「くふふっ」
シルヴァは笑って、わたしの頭を撫でた。
いまわたし達は、食堂で他の従業員達と一緒にテーブルを囲んでいた。さすが大店。使用人の数が多いので、食堂も広かった。ヘイラムが本当に信じられる者だけを集めて、食堂に遮音の魔法をかけた上で事情を説明した。秘密を知っている人間が少ないほど安全だけど、問題が大きすぎて、助けてくれる人間が大勢必要だからね。
皆、フィーの姿を見たときはひれ伏した。ア・ムリス国の人にとって、ツァラは神様に近い存在みたいだね。フィーのあとにクロードを紹介したけれど、フィーほど衝撃を受けなかったようで、顔を上げてじっとクロードを見つめていた。
そんな皆も、時間と共に慣れてくれて、こうして一緒に食事をしている。大店の従業員として働いているんだから、上の立場の人と会うこともある。だから、神経が太くなったのかもね。
「そういえば。さきほどセルドリッジ侯爵様のお屋敷から注文がございましたよ。オ・フェリス国のワインをご所望でしたが、私共では取り扱いがないことを説明し、お引き取り願いました」
従業員のひとりが当然のように言った。
「「「「えっ?」」」」
それぞれが、色んな意味で驚いた。
セルドリッジ侯爵といえば、いま、お近づきになりたい人ナンバーワン。クロードの後ろ盾として、なくてはならない人だ。それが、向こうから接触してきたんだから、逃すことはない。
ワインが欲しければ、売ってあげればいい。王都付近の町や村に寄っていないから、まだ十分な量があるはず。
ハディットがヘイラムにオ・フェリス産のワインを売りながら旅をしていたことを説明すると、ヘイラムは納得したようで「そうか」と頷いた。
「そういうことなら、今回だけ特別にオ・フェリス産のワインを売ることにしよう。誰か、急いでセルドリッジ侯爵邸へ使いに行ってくれ。旅に出ていた息子が持ち帰った、今回だけの特別なワインだと言うんだ。常に手に入ると思われてはかなわんからな」
「はい!」
返事をして、従業員のひとりが食堂を飛び出して行った。
よしよし。これで、セルドリッジ侯爵とのつながりが作れる。ワインを持っていくときに、セルドリッジ侯爵との面会ができればいいな。説明する機会さえもらえれば、味方になってもらえると思う。なにしろわたし達には、怪鳥ツァラと王弟がいるんだから。
そういうわけで、誰がセルドリッジ侯爵の邸宅へ行くか相談した結果、ハディットとフィー、クロードの他、とうさまが護衛として一緒に行くことになった。残りのメンバーはお留守番。あまり大人数でおしかけても、警戒させるだけだしね。
セルドリッジ侯爵邸へ連絡に走った従業員は、今日は時間も遅いということで、明日、改めてセルドリッジ侯爵邸へ伺う約束をしてきた。約束がないと平民は貴族と会うことはできないから、ちょっぴり面倒くさい。
約束がなくても会ってくれる、エウレカ教のツヴァイ御子やオ・フェリス国のハンプス国王が珍しいんだよね。
翌日、ハディット達は荷馬車に乗って出発した。御者はハディット。クロードは途中で顔を見られても大丈夫なように、火傷跡の化粧をしてマスクをしている。皆、無事に帰って来てくれるといいな。




