18 憧れのドラゴン
「お、お待ちください!」
王都ギルド支部へ戻り、討伐したオークを次々と出していると、慌てた受付嬢が止めて来た。どうやら、解体場へ運ぶのが大変なので、ギルド内で出さずに解体場で出してほしいらしい。うん。わかってた。
「…またしまうのは面倒だ。そちらで運んでくれ」
さっきの受付嬢の対応に、とうさまも腹を立てていたらしい。意地悪なことを言っている。
オークは体が大きく重い。だから肉は食用で需要もあるのに、丸々1匹を運ぶハンターは少ない。だから大抵、討伐証明部位と、持てるだけの肉しか運ばない。というか、マジックバックや収納魔法がなければ運べない。
ただしギルドに解体場が併設されているので、その距離なら人手を出せば運べないことはない。大変なだけで。
「申し訳ありませんでした!お許しください!」
オークが10匹になったところで、受付嬢は謝った。よし勝った!
本当はまだあるのだけど、あまり1度に出すと値崩れしてしまうので良くない。この辺でやめておこう。
夜は宿に泊まり、翌日は市場で調味料や野菜、果物を色々と買った。大きな街は色々な物が揃うから便利だね。その後は図書館や闘技場、色々な所を見て回った。
あっという間に1日が終わり、ニルスへ戻る日がやって来た。
王都からニルスまでの道程は特になにもなく、平和に過ぎた。まあ、そうだよね。毎回襲われていたら、割に合わない。
「…といわけです」
ニルスギルド支部の受付嬢に、護衛依頼の報告をした。依頼完了確認書には、もちろんA評価をもらっている。
「えぇ、えぇ、依頼主からも聞いています。セシルさん、ご活躍だったそうですね。お1人で盗賊を討伐されたこと、聞いていますよ。すごいです!」
すっかり、受付嬢の態度が変わっている。
実績は大事だよね。
「スキップ申請は受けなかったんですか?」
「わたしは初心者なので、Fランクからのスタートで十分です」
「「「いやいやいや!」」」
ギルドにいるハンター達が、なにやら一体になっている。
「実力があるのに、Fランクなんてもったいないですよ!」
こくこくこく
「パーティとしてそれなりの仕事ができるので、今のままで十分です。目立つと碌なことにならないし………」
「「「ああぁぁぁ……」」」
わたしの容姿は、人に好意的にとられる。銀色の髪はさらさらで、アイスブルーの瞳は大きくぱっちりとしている。背は低いけれど、身体のバランスは良く、ふっくらとふくらみ始めた胸も愛らしい。つまり、愛らしい少女だ。愛らしい少女というのは、それだけで価値がある。愛人とか、愛人とか、愛人とか………実力が認められたら、女騎士にもなれそうだけど。
愛人は興味がない。女騎士にも。わたしが望むのは、とうさまと旅をすること。刺激的で、わくわくする。とうさまがハンターを引退する頃には、わたしも成人しているから、今度はわたしがとうさまの生活を支える番。わたしが、とうさまを助ける。
いつかは結婚もしたいと思うけれど、まだわたしも若いし、とうさまみたいな人に出会えないと結婚はできない気がする。ちょっと………ううん、だいぶ、ファザコンだから。
わたしととうさまは、血が繋がっていない。だから結婚もできる。でもさすがに32歳差ともなると、考えちゃうよね。かなりの確率で、とうさまが先に亡くなるだろうし。残されるわたしは先が長い。残りの人生を1人生きるより、初めからべつの人と生きる方が寂しくないと思うの。だって1人は、寂しいよね。
「とにかく、わたしはこのままで十分ですから」
そう言って、ギルドを出た。
夜は久しぶりに甘えたくなって、とうさまのベッドにもぐりこんだ。男性らしい匂いとぬくもりに包まれて、すぐに眠りに落ちた。
どうやら、とうさまのシャツを掴んだまま寝ていたらしい。朝起きると、とうさまの顔が目の前にあってどきどきした。これで微笑まれでもしたら、顔から火を吹いてしまうに違いない。………そんなことにはならないけれど。なにしろ、無表情を標準装備しているので。
「…おはよう、セシル」
あまり見ないでほしい。なにか、イケないことをしている気分になってくる。
慌てて起き上がった。
「おはよう、とうさま」
宿屋で朝食をとり、ギルドへ向かう。新しい依頼は朝一に依頼ボードへ張り出されるので、まずは依頼の確認。混んでいるので、わたしは依頼ボードが見やすいようとうさまに抱っこされている。
護衛依頼の話が他のハンター達に広まったのか、今日は絡んでくる馬鹿なハンターはいなかった。うん。わたし、その辺のCランクハンターより強いからね。
「う~ん。どうしよう」
先日のクラーケン討伐の報酬があるので、お金には困っていない。食材はすでに買い込んであるから、討伐依頼を受ける必要もないし………かと言って、ドラゴンなんて大物を相手にするには………ん?ドラゴン討伐?
「とうさま、これ………」
指をさすと、とうさまが依頼票を取った。
「話を聞いてみよう」