179 へルメイラ商会3
「………悪魔を誘惑するとは、すごいですね」
いやいや。ヘイラムさん、それは誉め言葉じゃないよね?
「もしや、セシルさんも悪魔………?」
「じゃないからね!」
ヘイラムの言葉に被せるように否定の言葉を言った。
そんなわたしの肩をシルヴァが抱き、嬉しそうにしている。正直に言って、説得力はない。
そして。フィーがわたしの手を握り、にこにこと嬉しそうにしている一方で、出遅れたレイヴはわたしに触れることができなくて悔しそうにしている。
とうさまはそんなわたし達を見て、ため息をついた。
「それでは、これからの方針を決めたいのだが、いいだろうか」
そう。それが重要だ。
なにしろ、アーカート王が死去して、クロードが次の王になるかもしれないのだもの。もしクロードがこの国に残れば、必然的にレギーとロイも残るよね。3人はかけがえのない仲間だもの。そうなったら、寂しくなるなぁ。
でも、まずはクロードの意思を尊重しなくちゃ。そのためには、クロードの考えを聞く必要がある。
「クロードはこの国との因縁を断ち切りたいと言ったけど、具体的にはどうしたいの?」
「俺は、俺の意思と関係ないところで振り回されるのはもうたくさんなんだ。ア・ッカネン国とは縁を切りたい。それに、俺はすでにセシルに忠誠を誓っている。いまさら、王になんてなれないさ」
「セシルさんに忠誠を誓ったですと?それでは………セシルさんと結婚してしまえば、問題はありませんな!」
ヘイラムの突然の提案に、ほぼ全員が反対の声を上げた。
「問題大ありです!結婚だなんて、クロードの迷惑になるだけですよ!」
「俺はセシル様とは釣り合わない!」
「娘はまだ結婚する年ではない」
「セシルは俺の嫁になるんだ!」
「セシル様は、私を選ばれるはずです」
「僕からママをとっちゃだめ!」
ヘイラムは、なにがだめなのかわからない、という顔をしている。
「そもそも。こう見えて、わたしは11歳なんだから。結婚なんてできません!」
ええええええええっ!!
今度もヘイラムとハディットが声を揃えて叫んだ。
「そ、そうですか。人は見かけによりませんな。ははっ」
「あ、セシル。ハンター証を見せてくれるんですか?この誕生日だと………たしかに11歳ですね」
そう言って、額の汗を拭う父と息子。
「それはともかく。いきなりクロードが王弟だと名乗り出て、誰がそれを信じるんだ?王族侮辱罪とかで、投獄されるんじゃないのか?」
なるほど。レイヴの言う通り。その可能性が高いよね。
そもそも。アーカート王が生きている間に名乗り出たりすれば、黒魔術を使って体を乗っ取られかねない。
できれば、いまから重臣や貴族達に根回しして味方につけておきたいところだけど。どこから手をつけたらいいのかわからない。う~ん。政治なんてまったくわからないし、ア・ッカネン国の貴族なんてもっとわからない。フィーが獣達に命じて貴族の情報を集めることはできるけれど、それだと情報が膨大すぎて情報に埋もれてしまいそう。
ヘイラムは王宮御用達の商人だから、きっと貴族の情勢とかわかるよね。誰が国王派で、誰が貴族派とか。派閥の中でも力を持っている人とか………それは商売する上でも重要な情報だと思う。
「ヘイラムさん、誰がクロードの味方になってくれそうですか?」
「そうですね………中立派のセルドリッジ侯爵が力になってくれると思います」
そっか。中立派が存在するんだ。クロードの味方になってくれるといいけれど。
それから、ヘイラムさんによるア・ッカネン国の講義が始まった。ここからは聞かれても問題ない話なので、とうさまが遮音の魔法を解除した。
まず、ア・ッカネン国の歴史だけれど。800年ほど昔、ひとりの王がいた。目の前で愛する妻を自分の兄に殺され、その恨みから悪魔シルヴァを召喚し王都は焦土が化した。王都を焼いた炎は10日の間消えることがなく、炎が消えたあとも200年は人が住めない土地だった。王兄の子は無事逃げ延びて、その子孫であるアーカート王が王位を継いでいる。
貴族は大きく分けて、国王派、中立派、貴族派の3つの派閥に所属している。中立派のリーダーがセルドリッジ侯爵だ。セルドリッジ侯爵は公明正大で、財力も政治的な知略もあり、王都跡を含む南西部を領地としている。王都跡は忌嫌われている土地だけれど、水脈が発見されたことで農地として活用されているそうだ。
それから、ア・ッカネン国の建物はレンガと石でできている。木は少なくて貴重だからだ。その分、魔石が豊富に採れるので、燃料には魔石が使われているらしい。魔法使いも多くて、生活には魔法が欠かせないらしい。だからか、ア・ッカネンの国民は魔力があって、生活魔法レベルが使えてこそ結婚できると言われているそうだ。
ということは、王族であるクロードも魔法が使えるのかな?そう思って聞くと、「魔法の訓練は受けて来なかったからわからない」と言われた。レギーとロイも同じ。諜報部員として国外に行く予定だった者は、魔法の訓練が後回しになったのかもしれないね。
ちなみに、ハディットは魔法が使える。旅の途中で馬に水を与えていたし、火をおこすときも魔法を使っていた。
わたしは、物心ついた頃には魔法が使えていたからね。ふいに魔法が発動するものだから、とうさまが火事にならないように火を消したり、家が水浸しになった後片付けをしたり、大変そうだったのはなんとなく覚えている。




