178 へルメイラ商会2
「あなたのおっしゃることはわかります。しかし、それでは、私はあなたの味方にはなれません」
ヘイラムはきっぱりと言い切った。
「どうして?僕らの事情はみんな話したのに、どうして味方になってくれないの?」
「フィー様、それはですね………」
不満そうなフィーに対して、ヘイラムは言いにくそうにしている。
「フィー、わたしが教えてあげる。いま、ア・ッカネン国の王族はアーカート王と王妃しかいないの。つまり、アーカート王が亡くなれば、公爵家や貴族の中で王族の血を引く者を選んだ上で王位争奪戦が繰り広げられることになる。もちろん、王妃だって黙っていないだろうし、そうなると政治的な戦いが長く続いて、この国は不安定になっていく。王が不在なのは、誰にとってもよくないことなのにね」
「ヘイラムはそれを心配してるの?」
「そうです、フィー様。私はこの国を愛しています。ア・ッカネンの民として誇りを持っています。だから、この国がすさんでいくを黙って見ているわけにはいかないのです」
そうして、ヘイラムはクロードを見た。
「………つまり、この俺に王になれっていうことか………」
クロードが不安そうな顔をして、腕を組んだ。
クロードが不安に思う気持ちはわかる。誰だって、いきなり国王になれなんて言われたら尻込みするよ。それに、クロードがア・ッカネン国との因縁を断ち切りたい気持ちもわかる。わたしも、レ・スタット国のチャールズ王との因縁を立ち切れたらどれだけいいかわからない。
でも、ひとりの国民として、クロードに王になって欲しいというヘイラムの言い分もわかる。たぶん………クロードは面倒見がいいし、誰にでも分け隔てなく優しくできるし、生死をかけた戦いにもひるまず向かっていく勇気を持っている。忠誠心も厚い。そんな彼だから、人の上に立つ仕事も、きっとうまくこなせるだろうと思う。
だけど。政治はひとりではできない。クロードが孤独な王になれば、重臣や貴族達が自分達に都合のいい政治を行って国民を顧みない国になってしまう。
「もし、クロードに王になってもらいたいなら、ヘイラムさんこそ誠意を示す必要があるんじゃないですか」
思わず、言っていた。
「それは、どういう意味ですか?」
「王ひとりでは、政治ができないという意味です。信頼できる従者、仕事のできる重臣など、クロードを補佐し、守り、導く者達が必要です。あなたが、そういった人達との橋渡しを務めてください。できますね?」
「無茶言わないでください!私はただの商人です。そんな方達との橋渡しだなんて、できるはずが………」
「その無茶を、先に言ったのはヘイラムさんですよ。王にならなければ味方にならない、と」
「それは………」
「クロードだって、振り回されて困っているんです。まずは、歩み寄ることから始めませんか?」
「………はい」
というわけで、ヘイラムは味方になることを了承してくれた。
「ところで、どうしてアーカート陛下のご様子がわかるんです?」
「あっ、それはね。僕がツァラだから!えっへん!」
ヘイラムがぽかんと口をあけて呆けているので、息子のハディットが説明してくれた。ツァラはア・ッカネン国では獣達の王であるため、カラスも犬も、ネズミでさえフィーに従うのだと。そしてフィーは、アーカート王に関する情報を集めるよう指示したから、獣達が情報を持って集まってくるということも話してくれた。
「なるほど!さすがフィー様です!」
ヘイラムは、フィーには低姿勢なんだよね。
クロードとフィーとの対応の差がありすぎて、クロードが可哀そうになるよ。
「そういえば!シルヴァはクロードが王族なことを知っていたんじゃないの?」
「くふふっ。知っていたよ。クロードは王城で生まれたからね」
「なんでそんな大事なことを黙っていたの!」
思わずシルヴァに詰め寄ると、シルヴァが腕を伸ばしてきて、もう少しで抱き締められるところをしゃがんで避けた。
シルヴァの舌打ちが聞こえた気がした。
まったく、油断も隙もない………。
「あなたは、シルヴァとおっしゃるのですか?外国では、その名を子供につける親がいるんですね」
ヘイラムがしみじみと言った。
ア・ッカネン国では、「シルヴァ」はかつて王都を焦土と化した悪魔の名前だからね。いまでも避けるんだね。
「紹介が遅れました。彼は悪魔のシルヴァ。かつて、ア・ッカネン国で黒焔のシルヴァと呼ばれた男です」
はああああああっ!?
ヘイラムとハディットが揃って大声を上げた。とうさまが遮音の魔法をかけておいてくれてよかった。
「いまは、見ての通り大人しいので大丈夫です」
言いながら立ち上がると、すかさずシルヴァがわたしの肩を抱いてきて、レイヴに怒られていた。
「セシルに手を出すな!この、エロ悪魔!」
「もう少し言葉を選んで。これは、ただのスキンシップだよ」
しれっとした顔で言い返すシルヴァ。
「………御覧のとおりの状態なので、危険はありません」
とうさまに言われ、しりもちをついていたヘイラムとハディットが息を吐き出した。びっくりし過ぎて、息を止めていたらしい。




