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173 Bランクハンター2

 大剣が折れたことで、ゴドは戦意喪失していた。

 ………つまらない。Bランクだから、どれだけ楽しめるかと期待していたのに。大剣が折れたくらいなんなの?まだ体が無事じゃない。拳で向かって来るとか、訓練場の武器を借りるとか、方法はあるのに。

「そこまで!勝者、Eランクハンター!」 

 シルヴァが声を張り上げると、ゴドが大剣の柄を振り回して叫んだ。

「こんな試合無効だ!なにをしたかわからんが、イカサマに決まっている!!」

「だったら、試合を続けるの?わたしはまだやれるよ」

 短剣を鞘にしまってファイティングポーズをとると、ゴドはひるんだ。

「女をボコボコにするのは、俺の性にあわねえ。大剣も折れちまったし、今日のところはこれで見逃してやる」

 尊大な態度をしているけれど、ゴドの膝が笑っていることをわたしは知っている。さっき切り込んだときの衝撃が、まだ残っているんだろう。

 ハンターランクは能力に応じて上がるけれど、下がることはない。ゴドの全盛期はBランクだったのかもしれないけれど、いまはそれほどの力はない。ってことなんだと思う。残念だね。


「ゴドさんが、あんな小娘に負けるなんて………」

「あんなでかい大剣が折れるところ、初めて見たよ」

「いやぁ、ゴドさんは寛大だなぁ。小娘に花を持たせてやるなんてさ」

 観客がなにか言っている。

「でも、あの大剣は直せるのかな?高いだろう?」

「馬鹿!折れた大剣なんて、直してもすぐに折れるだろ。ゴドさんのことだから、また特注で作ってもらうんだよ」

「そうかぁ。ゴドさんはお金持ちだなぁ」

 そう。武器はお金がかかる。あんな馬鹿でかい大剣は特注しないと手に入らないし、その分高価なのだ。折っちゃって、悪かったかな?でもまぁ、大丈夫かな。大剣を折った直後は心まで折れている感じだったけれど、すぐに立ち直ったしね。


「ゴドさん、わたしと戦って気は済んだ?」

「いや、ますます興味が湧いた!おまえの短剣は、業物わざものか?」

 業物というのは、名工が鍛えた切れ味のいい刀剣のことをいう。わたしの短剣を鍛えてくれたのは、魔大陸の鍛冶師ケンデル。西の王都エングレイドに店を構えているくらいだから、名工なのかもしれない。

「たぶん、業物だと思う。見る?」

「おおっ!ありがたい!」

 短剣を見るゴドは目をキラキラさせていて、まるで子供のように夢中になっている。地面にどっかりとあぐらをかき、腰を落ち着けてから短剣を鞘から抜いた。

「おいおい、こいつはなんだ?赤い刀身だと?」

 さっきは自分の大剣が折られたショックで、よく見ていなかったんだね。

「さっきは、日の光が反射したんだとばかり思ってたが………こいつは見事な赤だ。どうなってやがる?おい、こいつの素材はなんだ?」

 言ってもいいのかな?

「それは、鱗………」

「鱗?まさかドラゴンじゃねえよね?………って、まじか!」

 わたしの表情を見て、自分の推察が当たっていたことを知ったゴド。急に身をかがめ、小声になった。


「赤い鱗ってことは、まさかレットドラゴンじゃねえよな?」

「そのまさか、だよ」

「どうやって手にいれ………いや、これ以上聞くのは同じハンターとしてマナー違反だ。やめておく。しかし、俺の大剣が折れちまうわけだ」

 ゴドは晴れやかな顔をしていた。もうアルコールは残っていないようだ。

「俺のちっぽけなプライドも、見事にぽっきり折ってくれた。はっはっは!これで、下から這い上がって来る連中にビビる日々も、もうしまいだ。まさか、Eランクにしてやられるとは思わなかったが、晴れやかな気分だ。ありがとうよ、お嬢ちゃん」

 そう言うゴドは、壮年のハンターらしく貫禄に溢れ、頼りがいのある肩をしていた。


 時間を使いすぎてしまい、買い物へ行く時間が足りなくなってしまった。渋々、皆の所へ戻り、事情を説明すると笑ってくれた。とうさまには「喧嘩早いのはよくない」とお小言をもらったけれど。

 結局、翌日の午前中を使ってハディットは商売、わたし達は買い物をすることになった。十分な時間があったのでわたしは余裕を持って服を選ぶことができ、お店の主人は大量に服が売れたので大きく値引きをしてくれた。ラッキー。

 人前でマジックバッグを使わないようようにしているので、わたし達は大荷物を抱えて帰ることになった。といっても、ほとんどシルヴァやレイヴ、エステルが持ってくれたので、わたしは手ぶらに近い。


 そして、大荷物を抱えていると、人目を引くものらしい。さっきから、男達がついて来ている。路地に入ったところを襲うつもりなのかな?

 ところが、わたし達が向かうのは人通りの多い通りのど真ん中。ハディット達が店を出しているところ。

 大勢のお客に囲まれて、皆忙しそうに接客をしていた。フィーも笑顔を浮かべて楽しそうにしている。

「このきのこ、信じられないくらい鮮度がいいのね!美味しそうだわ。1皿ちょうだい!」

「こっちにもきのこちょうだい!」

「この山菜も美味しそうよ!」

 どうやら、マノ村で仕入れたキノコと山菜が人気らしい。このあたりじゃ採れないもんね。

「まさか!このワインは、オ・フェリス国の物か!?あそこのワインは質がまったく違うんだ。5本くれ!」

「そうなのか?だったら、俺にも5本くれ!」

 男性陣には、ワインが人気らしい。




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