169 フィー、人型になる
どう考えても、ア・ッカネン国ではクロードとフィーは目立ちすぎる。クロードは顔を隠せばいいとしても、フィーはそうはいかないよね。なんとか、変装する方法はないのかな?別の鳥に偽装することができればいいのだけれど………。認識阻害の魔法でなんとかなるかな?
「ママ、どうしたの?」
「フィーは目立つから、どうしたら一緒に行けるかな?って考えてたの」
「ふ~ん。どうしたら目立たなくなるの?」
どうしたらって………そうだね。いまの姿が鳥だから目立つんだよね。人の姿ならいいのに。でも、そんなことできないよね。
「フィーが人間だったら、いまより目立たないよ」
そう言ったのは、もちろん冗談。フィーは鳥なんだから、人化の術が使えるとは思っていない。
「わかった。人間になる!」
「「「「えっ!?」」」」
フィーはそう宣言すると、床に降りてう~ん!!といきみ始めた。少しするとその体から魔力が溢れ出て、その体を包み込んだ。魔力の渦が大きく膨らみ、パッと弾けた。そこにいたのは、全裸の少年?だった。年の頃は、14~15歳。小さな整った顔に、つり上がった茶色の目をしていて、長い髪は茶色や黒、白が混じっている。その姿は、少年とも少女とも言えない、両方の特徴を備えていた。
慌ててマジックバッグからマントを出し、フィーの肩にかけた。
「ママ!僕、人間になれたよ!」
フィーが抱きついてきて、思ったより強い力で抱き締めてくる。
「ねっ、ねっ、すごい?偉い?」
「うん。偉いよフィー」
フィーの頭を撫でると、嬉しそうに顔を摺り寄せて来た。
でも、なんで全裸なんだろう?普段、裸で過ごしてるからかな?でも、それをいうならレイヴやエステルだって、人化の術を使っていないときは裸なんだけどな。
フィーに話を聞いたところ、服は作れるけど、まず見ないといけないということだった。そして気になった身体的特徴だけれど………怪鳥ツァラは単体生殖をするんだって。伴侶が必要ないの。だから男女両方の性を持った、両性具有の姿になったんだね。てっきり男の子だと思い込んでいたけれど、違ったということだ。
そして、胸があるなら少女の恰好がいいだろう、ということで、わたしの服を貸すことになった。ちょうど、背丈も同じくらいだしね。
この背丈も、フィーの場合は自由に変えられるんだって。10歳くらいの子供の姿から、大人の姿まで自由自在らしい。今回は、わたしに合わせて14歳くらいの姿になったんだって。
わたしの服はフィーの肩幅に合わなくて、ゆったりしたワンピースしか着られなかった。男の子の性もあるから、身長は同じくらいだけれど肩幅はわたしより広くて、手足はわたしより大きかった。そして両方の性を持っているけれど、フィーが意識したのか、体はどちらかというと男性的。やっぱり、男の子の服がよさそう。
とうさまに借りたシャツをフィーに着せている間も、フィーはニコニコと楽しそうだった。
「ママにこんなに世話を焼いてもらうの初めてだよ。こんなことなら、もっと早く人間になっていればよかった」
「あ、その呼び方だけれど。ママじゃなくてセシルって呼んでくれる?ママって呼ばれると、回りの人に変に思われちゃうから」
「わかったよ。セシル!」
そう言って、フィーはわたしの首に腕を回して抱きついてきた。
「さて。フィーの問題が解決したことだし、次は、いつア・ッカネン国へ渡るか、だな」
「ハディット、クレーデルでの仕事は済んだのか?」
クロードが聞くと、ハディットは平伏したまま答えようとした。
「それは………」
「その態度はやめてくれ。ア・ッカネン国へ行けば、ハディットが商団のリーダーということになるんだから」
そうだよね。敬語はともかく、仲間にこんな腰の低いリーダーはいない。不自然すぎる。直してもらわないと。
「滅相もない!私がリーダーだなんて………!」
「いや、ハディットがリーダーだ。そしてクロード、レギー、ロイ、フィーはハディットの部下ということに。残りが護衛に雇われたハンターだ」
とうさまがそう言った。
うん。それが、一番自然な形だよね。
ただ、ハディットがこの状況に慣れるまで少し時間がかかりそう。
というわけで、出発するまでの間、ハディットもリムハム辺境伯夫妻の客人としてこのクレーデル領主館で過ごすことになった。
クロード達3人は商人として学ばないといけないこともあるから、ハディットのことを任せた。
とうさまも、ハディットと打合せがしたいと言ったので、館に残ることになった。
残りのメンバーは、わたしと一緒にフィーの服を買いに出掛けることになった。
フィーは平気な顔をしていたけれど、シャツ1枚で出掛けるわけに行かないので、館の使用人からズボンと靴を借りた。大きいけれど、ないよりマシだ。
フィーはシルヴァ達のように衣類を魔法で作れないから、頭のてっぺんから足の先まで、全身揃える必要がある。しかも見習い商人という設定だから、綺麗な服ではなく、古着屋で揃えることにした。せっかく素材がいいのに着飾らせることができなくて残念。




