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168 ハディット

「いや、俺はクロードだ。冷静に考えてくれ。アーカート王がオ・フェリス国にいると思うか?」

「え、でも………その顔は、確かにアーカート陛下の………」

「うん?あんたは、アーカート王を知っているのか?肖像画じゃなくて?」

「あぁ。私の父が王宮御用達の商人のひとりで、父について王宮に行ったときに陛下をお見掛けしたことがある。こんなにそっくりなのに………別人………なのか?」

 ハディットは自分の目が信じられないのか、何度も目をこすった。

 この行商人は、嘘をついているようには思えない。本当に諜報部員だとしたら、もっとうまく取り入ろうとするよね。

「俺はクロード。こちらの方の従僕だ」

 クロードが、わざとわたしの名前を伏せてくれたのがわかった。


 あれ、もしもハディットが言っていることが本当なら、わたし達はア・ッカネン国へ潜入する手段を手に入れたんじゃない?父親が王宮御用達の商人ということは、ア・ッカネン国では知られた大商人に違いない。その息子ということは、ハディットの協力を得られれば、商団のふりをしてア・ッカネン国に入り込むこともたやすくなる。そして、父親の協力を得られれば、王宮に入り込むこともできるんじゃない?

 でも、まだハディットを信用していいのかわからない。

「主、ここではなく、部屋で話を聞きましょう」

「あ、そうだね。どこがいいかな」

「応接室がいいでしょう」

 傍で話を聞いていた執事がそう言った。

 というわけで、わたし達は応接室を借りることになった。


 執事が使用人に声をかけてとうさま達を連れて来てくれたので、応接室にはとうさまとわたし、シルヴァ、レイヴ、クロード、エステル、フィー、そしてハディットが集まった。

 豪華な応接室のせいか、それとも顔ぶれのせいか、ハディットはすっかり恐縮しているように見える。もしかすると、とうさまを館の主人、わたしをお嬢様と誤解しているかもしれない。

「そう固くならないでくれ。俺達はこの館に世話になっているだけの、一介のハンターだ」

「ほぇっ!?」

 お、ハディットから変な声が出た。予想外の答えだったんだね。

「俺はニキだ。そして娘のセシル」

「はぁ~」

 ハディットは混乱しているように見える。

「そして俺はセシル様の従僕のクロードで、そっちはメイドのエステル、そしてツァラのフィーだ」

「なんだって!?」

 ハディットはフィーに反応し、勢いよく立ち上がると腰を90度の角度に曲げた。

「ア・ッカネンに栄光あれ!」


 うん。見事なお辞儀と挨拶だけれど、フィーはわけがわからなくてぽかんとしているよ。

「ママ、この人なにを言ってるの?」

「しゃべった!?」

「あ………」

 人前ではしゃべらないように言っていたことを、フィーは思い出したらしい。

「フィー様、お目にかかれて光栄です」

 ハディットは床に這いつくばり、フィーに頭を垂れた。

「怪鳥ツァラ様は、我がア・ッカネン国の守り神にして、唯一絶対の神です。フィー様にお目にかかれたことは、私の一生涯にとってかけがえのない悦びです。どうかどうか、お言葉をください。そうすれば、私はフィー様にお仕えします!」 

 ハディットの言葉に嘘は感じられなかった。

 フィーは困ったように首を傾げ、わたしを見つめた。

「話していいよ、フィー」

 頭を撫でてあげると、フィーは気持ちよさそうに目を細めた。

「ハディット。僕達はア・ッカネン国へ行きたいんだ。協力してくれる?」

「も、もちろんです!我がア・ッカネン国にフィー様がお越しになることは、なににも代えがたい悦びです。私にできることなら、なんでもいたします。どうか、なんなりとお命じください」


 そういうわけで、わたし達はア・ッカネン国へ行く協力者を得た。

 ハディットをリムハム辺境伯夫妻や、シルヴァ達に引き合わせたところ、誰もハディットを怪しむ者はいなかった。ハディットは信用していいということだ。

 問題は、どのルートを通ってア・ッカネン国へ渡るかだけれど。正規ルートは時間がかかりすぎる。そこで、わたしが森で見つけた魔法陣の出番となる。

 これは、クロードがザカリーから聞き出したことだけれど。発煙筒と一緒に隠されていた魔法陣は、ア・ッカネン国へ繋がるものだった。といっても、いきなり王都へ飛ばされるわけじゃなくて、ヨナス山脈を越えた麓の村に繋がっているらしい。それなら、ア・ッカネン国の国情を調べながら王都へ向かえるね。ただし、魔法陣が使えるのは一度きりだった。それも、大量の魔力を消耗する。

 通常、魔法を行使する場合は術者の魔力を使う。だけれど、魔石を使うことで少量の魔力で済ませることができたり、魔石の力だけで魔法を行使できるの。光を放つ魔具がいい代表例だね。

 この魔法陣を描いた者は、魔力ではなく魔石で魔法陣を起動させようとしていたみたい。発煙筒の他に、大きな魔石が隠されていた。ってとうさまが言っていたよ。


 次に問題になるのは、誰を連れて行くか、だね。当然、クロードは連れて行くよ。それから道案内を兼ねてハディットも。レギーとロイも一緒。とうさまは最初から行くことが決まっていて、わたしが行くと言うと、当然のようにシルヴァ、レイヴ、エステルも手を上げた。フィーも置いていくわけにはいかない。旅の商人と護衛に見えればいいんだけど、どうかな?





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