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167 ア・ッカネン国の諜報部員?

「おっかしーなぁ。あのふたりは、絶対にあなたを好きだと思ったんだけど………あなたは、どっちが好きなの?」

「もうっ、その話はいいです!じゃあ、また来ますね!」

 そう言ってハンターギルドを出ると、納品所に獲物を持ち込んだ。今日で約束の4日目だ。獲物の料金を受け取り、マジックバッグにしまう。

 これで、そこそこ貯金ができたよ。なにをするにも、お金は必要だからね。よかった、よかった。

「セシル様。今日はシルヴァ様もレイヴ様もいらっしゃらないので、狩りはだめですよ。館へ戻りましょう」

 マジックバッグがあるんだし、荷物持ちは必要ない。護衛がいなくたって、狩りくらいできるのに。どうしてエステルは止めるんだろう。

「だめですよ。護衛がいないときに街の外に出て、なにかあったらどうするんですか」

「エステルとフィーがいれば、十分だと思うよ。ふたりとも強いでしょ?」

「もうっ、セシルさまったら!褒めてもなんにも出ませんよ~」

「ママったら~!」

 エステルとフィーが照れて身をよじった。


 微笑ましい気持ちでエステルとフィーを交互に見ていると、ふと、視界にひとりの男が入った。黒く日焼けした肌に、黒い髪を短く刈り込んでいる。そのせいで、形のいい頭だということがわかる。あの風貌は、クロード達に似ている。つまり、ア・ッカネン国の諜報部員かもしれない。

 どうにか後をつけるか、マーキングできないかな?接触はさけたほうがいいよね。ということはこっそり後をつけるしかないけれど、困ったことに、巻かれてしまう自信がある。どうしたらいいかな。

 そうだ!彼に、わたし達の後をつけさせたらどうだろう?館に近づいたところで捕らえるというのは、いい案じゃない?

 諜報部員らしき男は、チラチラとフィーを見ている。ふふふっ。そうだよね。ア・ッカネン国の国鳥ツァラを見ずにはいられないよね~。叫ばない自制心を見ると、やっぱり一般人じゃない。


 そして、わたしが動くと、少しためらったあと、ついて来ることにしたらしい。

 幸い、諜報部員は行商人に化けている。大きな荷物を背負っているから、そのまま館までついて来られても、周囲からは不自然には見えない。つまり、追跡しやすいってこと。

 クレーデル領主館が見えてきても、諜報部員はぴったりついて来た。うん。この辺りまで来ると周囲に姿を隠せるものはないから、相手の姿は丸見えだ。ここで下手に引き返すより、館までついて来たほうが自然だよね。

 クレーデル領主館の入口には、護衛のため騎士が立っている。

「後ろから来る商人だけど、通してくれる?ちょっと話を聞きたいの」

「かしこまりました」

 騎士に声をかけたあと、とうさまを探すため館の中に入った。


 とうさまはどこだろう?部屋かな?それとも、ガイム達の訓練に付き合っているのかな?

「あっ、クロード!大変なの、ア・ッカネン国の諜報部員を見つけたの!!」

「それは本当ですか!?」

 廊下のはるか向こうを歩いていたクロードに向かって叫ぶと、ものすごい勢いでこちらに走って来た。

 そこで、見かけた諜報部員について話すと………クロードは静かに首を振った。

「それは、本物の行商人でしょう」

「でも、怪しいんだよ!」

「わかりました。俺が会って、話を聞いてみましょう」

 そう言って、クロードは正面玄関ではなく、使用人用の裏口に急いだ。

 もちろん、わたしもついて行く。


 行商人に化けた諜報部員なら、この裏口に来るはず。ということで、裏口に繋がった厨房で待つことしばし。ここへ来る途中に声をかけたメイドさんが執事さんを呼んで来てくれて、こちらの準備が万端になった頃、その男はやって来た。

「こんにちは~。私は行商人のハディットと申します。なにかご入用の物はございませんか?」

 人の良さそうな笑顔を浮かべていたけれど、わたしを………というか、フィーを見つけた瞬間、凍り付いたように固まった。そして数秒後。

「やっぱりツァラだ!そうですよね!?そうに違いない!あぁ、こんなところで出会えるなんて、私はなんて幸運なんだ!あぁ、神様!!」

 えっ、この興奮した様子はなに?クロードの言うように、ただの行商人なの?諜報部員だったら、こんなあからさまな反応はしないよね?いやいや、でも、わざと演技してるという可能性も………。

「さっき、遠くからお見掛けして、まさかと思ったんですよ!だってねぇ、こんな異国の地で、ア・ッカネン国の国鳥ツァラにお会いできるなんて、誰が想像できたでしょう!?」


 ハディットは荷物を降ろし、わたしの前に………というか、フィーの前にひれ伏した。

「どうか、ア・ッカネン国へおいでください。そして、ア・ッカネン国をお救いください」

「救うって、どういうことですか?」

「それが………」

 ハディットはひれ伏したまま言い淀んだ。

「………ハディット、俺もア・ッカネン国人だ。俺になら話せるか?」

「えっ?アーカート陛下!!」

 それまでフィーばかり見ていたせいで、ハディットはクロードの顔に気づかなかったらしい。声をかけられて初めてクロードを見て、アーカート王に似た顔に驚いた。



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