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161 ザカリー3

 クレーデル領主館に着くと、ガイムとネスが出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、マイロード」

「おかえりなさいませ、我が主」

 綺麗なお辞儀をしたあと、ふたりはザカリーに目を止めた。

「この者は奴隷ですか?」

 体は治療したけれど、装備はぼろぼろで服は血まみれだ。そう思っても不思議じゃない。

「取り調べなら、我々でいたしますよ」

「え~と………」

 ちらりとクロードを見ると、彼は頷いた。

 なにも、取り調べをガイムとネスに任せるという意味じゃないと思う。たぶん、クロード自身が取り調べを行うときに手伝ってもらう、という意味だと思う。

「ガイム、ネス。クロードを手伝ってね」

「「承知いたしました」」

 そう言うと、ガイムはアイメからザカリーを引きずり下ろし、自分の肩に軽々と担ぎあげた。


 クロードはレギーにアイメの手綱を預け、自分が先頭に立って歩いて行った。そのあとを、ザカリーを担いだガイムとネスがついて行く。

 わたしとシルヴァはエステルにロキシー達を任せ、とうさまを探しに館の中に入った。ロキシー達なら、自分達で自分の馬房に戻れるだろうけど、それをさせると館の使用人達を驚かせてしまうからね。

 途中で見かけた使用人に声をかけ、とうさまがリムハム辺境伯と書斎にいることを聞いた。

 書斎まで案内してもらい、その扉をノックする。


 コンコンコン


「誰だい?」

 リムハム辺境伯の声が聞こえた。

「セシルです、リムハム辺境伯。とうさまは一緒ですか?」 

「あぁ。俺はここにいる」

 とうさまの声が聞こえたあと、扉が開いてとうさまが出てきた。

「どうした」

 とうさまに、さっきザカリーという男に出会った話をした。

「………わかった。俺が行こう。セシルは部屋で待っているんだ」

 そう言って、とうさまはリムハム辺境伯に退出の断りを入れてクロードのところへ向かった。


 夕食の時間になって、ようやくとうさまとクロードが食堂に現れた。いつ戻ってきたのか、フィーもいる。

「私の館でなにをやっているのか、ようやく話す気になったのかね?」

 リムハム辺境伯がにこやかに問うと、とうさまは頷いた。

 そうだよね。ここはリムハム辺境伯の館なんだから、なにが起きているか知る権利があるよね。

「じつは………」

 とうさまが口を開いた瞬間、食堂にレイヴが入って来た。当然、皆の視線が一斉にレイヴに集中する。

「ニキ、待たせたな。カルタスの話を聞いてきたぜ」

「カルタスだと?それでは、まだ「虹の旅人」に関わっていたのか?」

 リムハム辺境伯が驚くのも無理はない。壊滅した「虹の旅人」に、いまさらなんの用があるのか不思議に思うよね?

「食事のあとで、少々お時間をいただきたい。お話することがあります」

 いまはリムハム辺境伯夫人や、給仕の使用人がいる。大っぴらに話すことじゃないもんね。とうさまの申し出はあたりまえだよ。

「すぐに聞きたい。書斎に行こう。ソフィアよ、そなたは食事を続けてくれ」


 そういうわけで、わたし達はリムハム辺境伯の書斎へやって来た。とうさまにシルヴァ、レイヴにクロード、そしてフィーだ。フィーは拗ねてどこかへ行っていたけれど、戻って来てからは、わたしにぴったりくっついて離れようとしなかった。

「どういうことか、説明してもらおうか」

 リムハム辺境伯は、自分の知らないところで物事が動いていたことに腹を立てているのか、ご立腹のようすだ。

「始まりは、卿がお求めになったアイメという馬です」

「ん?あの素晴らしい牝馬のことか?」

「そうです。あれは、「虹の旅人」でクロードが使っていた馬です。セシルがアイメから話を聞いたところ、重要な証言がありました」

「ちょっと待て!馬の証言だと!?」

 慌てるリムハム辺境伯。

 あれ。リムハム辺境伯は、わたしが動物の言葉を話せることを知らなかったんだっけ? 


 とうさまは、動揺するリムハム辺境伯を無視して話を続けた。

「その証言の件で確証を得るため、レイヴにル・スウェル国の王都までカルタスに会いに行ってもらいました。レイヴ、話は聞けたのか?」

「あぁ。カルタスは処刑直前だったんだが、なんとか話を聞けた。クロードがア・ッカネン国王のスペアという話は本当らしい。アーカート王は、クロードの腹違いの兄なんだ」

「なんと!?」

 リムハム辺境伯、驚愕。

 びっくりだ。王家の末席どころか、国王の弟だなんて。でも、それならどうして奴隷になったんだろう?アーカート王は、このことを知っているんだよね?それなら、どうしてクロードの待遇があんな状態だったんだろう?………どう考えてもわからない。だって「虹の旅人」でクロードは虐げられて、まるで奴隷のような状態だったもの。とても王族の扱いとは思えない。

「そして今日、ア・ッカネン国から迎えが来た。ザカリーという国王直属の諜報部員です。いまはガイム達が見張っています」

「そのザカリーという者は、いつ来たのかね?私に報告がなかったのはどういうわけだ?」

「セシルが馬で遠乗りに出掛けた際に出会い、連れ帰りました。館の者は、我々の連れだと誤解したのでしょう」

 とうさまの説明に、リムハム辺境伯が唸った。 


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