158 アイメとの再会
納品所からクレーデル領主館に戻ると、さっそく買って来た物をマジックバッグから出して整理を始めた。こういうとき、エステルという有能なメイドがいてくれて助かったと思う。
エステルはとうさまとシルヴァに仕込まれて、初心者メイドから有能なメイドへと変貌を遂げていた。元々、勉強熱心で物事を覚えるのが早く、よく気が付く性格をしているのが役に立ったんだと思う。
またいつ旅立つかわからないから、荷物はすべてマジックバッグへしまっている。でも、どうしまうかは片付けの技術がいるんだよね。
そういえば。ロキシー達は元気にしてるかな?会いに行ってみようかなぁ~。
コンコンコン
誰だろう?
「どうぞ」
「失礼します。セシル様、少しお時間よろしいですか?」
シルヴァがひょいと顔を覗かせた。
「うん。どうしたの?」
「アイメを覚えておいでですか?あの馬が見つかりました。お会いになりますか」
「えっ………」
アイメっていうと、確か、「虹の旅人」にいたときにクロードが乗っていた牝馬だよね。レ・スタット国での騒ぎのあと誰かに買い取られて、このオ・フェリス国のクレーデルまでやってきたのかな?
「厩にいるの?」
「はい。ご案内いたしますか」
「うん。すぐに行く!」
そういうわけで厩までやって来たけれど、アイメは一頭だけ離れた馬房に入れられていた。
馬房の傍にはクロードとレギー、ロイがいて、なにやら話し合っている。わたしに気づいて、ぱっと振り向いた。
「あ、セシル様。この馬はアイメだと思うのですが、俺達では馬の見分けがつかなくて。それでセシル様にわざわざお越しいただきました」
「この体つきと色、模様はアイメですよ」
「クロードに会えて、だいぶ喜んでいるみたいです」
なるほど。体の大きな牝馬は、クロードに顔をすり寄せている。
そして牝馬は、ふと視線をこちらに向けて大きくいなないた。
『なんであんたがここにいるのよーーーーっ!!』
『わたしはクロードの仲間になったの。だから、一緒にいるんだよ』
『信じられないわ!だってあのとき、クロードはあんたを攫ってカルタスに捧げるはずだったんだから。クロードがカルタスに逆らうはずないわ。あの騒ぎであたしは捕まったけど、クロードは無事に逃げていまもカルタスに仕えていると思っていたのに………それが、なんであんたなんかと一緒にいるのよっ!!』
アイメ激おこである。
『そんなこと言われても………クロードはわたしに忠誠を誓ったんだよ』
『そんなはずない!あんたみたいな小娘に………って、あんた、成長した?なんでぇっ!?』
『それはわたしにもよくわからないけれど。クロードは、いまは大切な仲間になったの。だから、クロードの愛馬だったあなたの話が聞きたいの』
『あ、愛馬って言った!?そうよ、あたしはね、クロードのお気に入りの馬なんだから!ア・ッカネン国からずっと一緒だったのよ。あんたなんかよりずっと長い付き合いなのよ!』
へぇ~。じゃあ、ア・ッカネン国の話でも聞けるのかな?
『こう見えて、軍馬なのよ?そこらのやっすーい庶民的な馬とは、格が違うんだから』
『それはすごい。だからカルタスと一緒に捕まったのに、処分もされずにここまで流れて来たんだね。苦労したんでしょ?』
『まあね。でも、ほら、あたしってすごい馬だから、簡単には処分もできなかったわけよ。それであたしを買い取った商人が、ル・スウェル国だっけ?あそこから離れたここまでわざわざやって来たってわけよ。そこでクロードに会えたんだから、これはもう、運命の絆で結ばれてるとしか言えないわ。そうでしょ?』
よくしゃべる馬だなぁ。
『どうしよう。あんたになら言ってもいいかなぁ~。でもなぁ、これは秘密の話だしぃ………』
んっ?なにか言いたそうにしてるね。なんだろう………?秘密の話??
『クロード達はアイメの言葉はわからないんだし、言いたいことがあれば言っていいんだよ』
『そうね!じつは、これはクロードに関することで、カルタスが言っていたことなの。クロードはア・ッカネン国のスペアだって。だから、どんなに反抗的な態度を取ったとしても殺すことはできないし、拷問したとしても治療が欠かせないだ。って。あたしにはよく意味がわからなかったけど、カルタスが怖くていままで黙っていたのよ。もう、あの乱暴者はいないでしょ?だから話す決心がついたのよ。はぁ~、しゃべってすっきりしたわ』
ア・ッカネン王のスペアって、どういう意味だろう?文字通り、国王のスペアってことはないよね。たぶん、なにかの例えなんだと思う。だって、そんなことがあるわけない。過酷な幼少期を過ごしたあとは奴隷商人に売られ、諜報部員になるべく訓練に明け暮れ、訓練所を卒業したあとは「虹の旅人」として過酷な暮らしを強いられてきた。そんなクロードが国王のスペアなわけがない。
でも、嘘と決めつけるのもよくない。
もしも本当だった場合は、一大事だもの。
カルタスが本当に言ったかどうかだけでも確かめないと。




