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154 吸血事件のその後2

 ダーヴィド達が去って、1週間経った。そろそろ、レイヴが帰って来るはずなんだけれど。まだなんの連絡もない。

「セシル様、どうかされました?」 

 エステルが紅茶のカップを持ってやって来た。

「どうぞ、温かいうちにお召し上がりください」

「ありがとう。レイヴのことを考えていたの」 

 カップを受け取って口をつけると、ほんのり甘くていい香りがした。はちみつを入れてくれたのかな。

「レイヴ様なら、間もなくお帰りになりますよ。出発されて、まだ1週間ではありませんか」

「そうだね。でも、冬眠から目覚めてすぐ働かせてばっかりだったから、心配なの。体調崩してないかな?」

「魔大陸も北は寒いですが、西と東はそうでもありません。きっと大丈夫ですよ」


「そういえば。エステルはどこで育ったの?やっぱり魔大陸?」

「はい。北の魔族領で、魔王ベアテの支配領域です。フェンリルは一か所に定住せず、各地を転々として過ごします。ですから、北の魔族領には詳しいですよ」

 エステルがえっへんと胸を張った。

 そういえば、エステルも見た目は14歳なんだよね。お互い実年齢は違うけれど、見た目だけなら同い年。友達になってほしくて召喚したのに、シルヴァの影響でメイドになってしまって残念だったけれど、最近はそれも慣れてきた。

 ………慣れって恐ろしい。

 でも、慣れないものもある。シルヴァの過剰なスキンシップとか。ふたりきりになると、すぐわたしに触ろうとするんだもん。あれは、全然慣れない。


 ばんっ!


 そのとき、玄関扉が開く音がした。こんな時間に誰だろう?

 エステルに紅茶のカップを預けて玄関の様子を見に行こうとしたら、レイヴが居間に飛び込んできてぎゅっと抱き締められた。

「セシル会いたかったぞ!!」

 顔!顔が近いよ!!

 わたしも会いたかったけれど、こんなのは期待していなかった。

「いや~、綺麗になったなぁ。前も十分可愛かったし大好きだったけど、いまのも好きだ。背が伸びて、顔が近くなったのがいいな」

 全然よくないよ!

 レイヴが勢いに任せて頬と頬を摺り寄せてきたとき、とうさまとシルヴァが現れた。

 ふたりがかりでレイヴを引き離してもらい、やっと静かになった。

「もう寝るから、邪魔しに来ないでね!!」

 そう言い捨てて、自分の部屋に避難した。


 ベッドの枕元では、すでにフィーが丸くなって眠っていた。人の気配を感じてぴくりと動き目を開けたけれど、わたしだと気づいてまた眠った。

 レイヴが帰って来たら、聞きたいことがいっぱいあったのに。あの様子じゃ、落ち着いて話もできないじゃない。でも、元気そうだからいっか。話なら、明日聞けばいいよね。

 ベッドに潜り込んでフィーの寝息を聞いているうちに、静かに眠りに落ちていった。

 朝目覚めると、予想通り、レイヴは背後から抱きついてきていた。枕元のフィーはいなくなっていて、代わりにベッドの端にシルヴァが腰かけている。とうさまはいない。

 わたしが成長してから、とうさまは添い寝をしなくなったの。寂しいような、物足りないような、複雑な気分。

 たぶん、わたしが成長して女の子らしくなったから、とうさまはわたしに気を使っているんだと思う。普通、年頃の女の子は父親と一緒には寝ないもんね。

 

 腰にあるレイヴの腕を退けて起き上がると、シルヴァが立ち上がって避けてくれた。そして、ベッド脇のテーブルにある洗面器で顔を洗って完全に目を覚ます。タオルで顔を拭いてから、レイヴを振り返った。

 レイヴは完全に起きていて、わたしから目を離さずじっと見つめてきている。

「おはよう、セシル。よく眠れたみたいだな。さっぱりした顔をしてるよ」

「おはようレイヴ。もう冬眠はしなくていいの?」

「あぁ。冬眠してる間に、体がここの気候に馴染んだ。もう大丈夫だ」

 あんな短い冬眠で、体が慣れたの?とんでもない適応能力だね。

 それに、1週間でここ学術の都オーシルドと魔大陸の東の地を往復するスピードもすごい。

「ヴァンパイア王国はどうだった?ダーヴィド達は、無事迎え入れてもらえた?」

 ルー達はともかく、追放されたというダーヴィドがヴァンパイア達にどう受け入れられるかわからなくて、それが心配だった。

「ダーヴィドは連行されて行った。シャルルが庇っていたが、連中はまるで聞く耳持たずって感じだったな。俺は追い立てられてすぐに飛び立ったから、あとのことはよくわからない」

「そっか」

 

 心配だなぁ。ルーがタンク殺しの真犯人とわかったら、ヴァンパイア達はどうするんだろう?ダーヴィドが無実の罪を負わされていたとわかったとき、ヴァンパイア達はどう謝罪するんだろう?

「あとは、ヴァンパイア達の問題です。今度は、魔王レオナールが正しい判断を下すでしょう」

「そうだねシルヴァ」

 わたしがいくら心配してもどうしようもない。これはヴァンパイアの問題だから。ただ、祈るだけ。魔王レオナールが、自分の息子達に愛情を持っていますように。

「ところで。ニキが、起きたら話があるから会いに来てほしいと言っていましたよ」

「わかった。ありがとう、シルヴァ。行って来るね」

 自分の部屋を出てダイニングへ行くと、ちょうどとうさまが食事をしているところだった。





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