153 吸血事件のその後
ガイムやネス達の様子が気になるなぁ。リムハム辺境伯がきっといいようにしてくれていると思うけど、魔物だし。人間の社会で生きるには、それなりに問題も多いと思うんだよね。
レイヴが戻ったら、クレーデルまで運んでもらおうかな?
あ、でも、ちょっと待って。クレーデルに行くということは、クロードの忠誠を受け取るか拒否するか、答えないといけないんだった。しまったぁー!
今回のヴァンパイア事件では、諜報活動やダーヴィドの見張りなんかで、ずいぶん働いてくれたんだよね。クロード達がいてくれて助かったっよ。評価しないとね。それはわかっているんだけれど、わたしはべつに、配下が欲しいわけじゃないんだよ。忠誠なんか誓わなくても、いまみたいに仲間として頑張ってくれればそれでいいのに………なんなの?男としてのプライドの問題なの?
そうだ!こんなときは、べつのことで気を紛らわすのが一番。甘い物を買って帰ろう!
飲食店が立ち並ぶエリアにやって来ると、それぞれのお店から漂ってくる良い匂いにお腹の虫が鳴きそうになる。はぁ~、良い匂いばっかり。幸せ~!
………と思っていたら、会いたくない人物を見かけた。ルグラン商会の娘ミシェルだ。買い物袋をいっぱい抱えた僕を連れている。
引き返すか、近くの店に入ってやり過ごすか考えているうちに、見つかってしまった。
「ニキ様!!」
満面の笑顔でとうさまに駆け寄って来た。
「こんな所でお会いできるとは嬉しいですわ。ニキ様の買い物ですの?」
とうさまの他に、わたしやシルヴァもいるのに視界に入っていないのかな。
ミシェルは、前に空を飛ぶシルヴァのことを見てヴァンパイアと勘違いして噂を広めた前科がある。思い込みが激しいんだよね。もう、あのことは忘れてしまったのかな?
「………おや?あなたは、以前お会いしましたね」
シルヴァは人の悪い笑顔で、ミシェルに話しかけた。まるで、なにか悪だくみをしているような笑顔だ。
「えっ?………ぎゃああぁぁぁあああ!!」
とうさまに向けていた笑顔のまま振り向き、そして動く死体でも見たかのような絶叫を上げたミシェル。
うん。そこにいたのは悪魔のシルヴァなんだけどね。
「ヴぁ………ヴぁ………ヴァンパイア!なんでこんなところにいるんですの!?」
周囲の視線が、一気にシルヴァに集まる。けれど、いまは昼間。ヴァンパイアが出歩く時間ではないことに思い至り、すぐに落ち着きを取り戻した。
「まったく、学のないお嬢さんですね。ヴァンパイアは日の光の下を歩けないのですよ?」
シルヴァの言葉に、うんうんと頷く周囲の人々。
「それに、ヴァンパイアは掴まって処刑されたという話をご存じないのですか?今朝、王宮から発表があったでしょう。騒ぎになったと思ったのは、私だけだったのですかね」
そうなのだ。吸血事件を収めるため、今朝、王宮がヴァンパイアを昨日捕らえて、昨日のうちに処刑したと発表したの。王都中が大騒ぎになったと思ったけど、ミシェルは知らなかったのかな。
「あの発表なら知ってますわよ。わたくしを誰だと思っていて?あのルグラン商会のミシェルですのよ!」
あ~あ。これだけ群衆に注目されている中で、名乗るなんて………なんて馬鹿なの。
「私をヴァンパイアと決めつける根拠はなんですか?」
シルヴァは、ミシェルが泥沼にはまっていく様子を楽しんでいるようだ。
ミシェルの自業自得なので、わたしは彼女を助ける気にはなれない。
「男性を攫って空を飛んで行ったじゃありませんの!明らかな誘拐ですわ!」
くすくす
周囲から失笑が漏れる。
「男のヴァンパイアは、女しか襲わねえだろ。そんなことも知らねえのかー?」
誰かが叫んだ。
ミシェルは顔を真っ赤にしている。
「私は急患が出たので、王宮で治療してもらうため飛行魔法を使ったにすぎませんよ。もしや、お嬢さんは飛行魔法をご存じないのですか?」
飛行魔法は、有名な魔法だ。憧れるよね。空を自由に飛べるなんて。だから、魔法を仕えない人でも、飛行魔法の存在は知っている。ミシェルが知らないはずがない。
「で、でも………牙が………」
ミシェルが震えながら言うと、シルヴァがにっこり笑って、その見事な白い歯を見せてくれた。もちろん、牙などどこにもない。
「お分かりいただけましたか?ミシェルさんとやら、思い込みで人を陥れるのはこれっきりにしてくださいね」
ミシェルはこの騒ぎで、なにを学んだだろう?もし学んでいなくても、あとで実感するに違いない。自分で名を名乗り、自分の評判を激しく貶めるような騒ぎを起こしたんだから。ルグラン商会が大きく客を減らしてもおかしくない。そのときになって、自分のせいだったと気づけばまだ立ち直るチャンスはある。ルグラン商会は大きな商会だからね。跡取り娘がどんなにだめでも、優秀な婿養子をとれば問題解決だ。
「うわ~ん!お父様に言いつけてやるんだから!」
ミシェルは泣きながら去って行った。大荷物を抱えた僕が、慌てて追いかけていく。
どうやら、いまの段階ではなにも学ばなかったらしい。




