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151 別れ

 とうさまはマダム・イボンヌの娼館の後片付けをしに出掛けて行き、代わりにクロード達を護衛として家に戻してくれた。

 とうさまは王様への報告もあり忙しいのだけれど、夜にはダーヴィド達を見送るために戻って来てくれた。ダーヴィド達が無事に旅立つことを見届けるため、見張りの騎士達も連れて。

 王都の外へ出るため門を通るとき、相変わらず見事なペールピンクの髪をしたニクソンが見送ってくれた。

「すぐに暗くなるぞ。早く戻れよ~!」

「遅くならないうちに戻るよ」

 ニクソンが休めないものね。

 王都オーシルドの近くにある森へ移動し、少し開けた場所でレイヴがレットドラゴンの姿になった。

 何度見てもレットドラゴンの姿をしたレイヴは美しい。前に見たときは小さかった一部の鱗も、冬眠の効果か他と変わらないサイズになっていた。


「………セシル、ちょっといいかい?」

 ルーが話しかけてきたので、途端にとうさまやシルヴァ、レイヴ達が警戒した。さっきはわたしを守れなかったフィーも、今度はわたしの肩の上で警戒して体を大きく膨らませている。

「ルー、どうしたの?」

 わたしを庇うように立っているシルヴァの後ろから、顔を覗かせて聞いた。

「実は、セシルが成長したことについて心当たりがあるんだ」

「えっ、どういうこと?」

「ママになにかしたの!?」

 フィーが興奮して嘴をカチカチ鳴らしたので、落ち着けるため頭を撫でた。

 周囲で警戒に当たっている騎士達も、耳をそばだてているのを感じる。少しでも情報収集しようとしているんだ。


「セシルが成長痛に襲われた夜、僕は我慢できなくなって君を襲おうとしたんだ。………突然、君が苦しみだして、驚いて手は出さなかったけれど。あれは、僕の魔力に触れたせいだと思う」

「うん」

「落ち着いたら、東の王都グドムンドゥルへ招待するよ。そこで、異常がないか調べてもらうといい。ヴァンパイアの研究者達は優秀だからね」

 その約束が履行されるかどうかはわからない。だって、この先ルーが無事に過ごせるとは限らないし、病気が進行して手の施しようがなくなるかもしれない。

 ルーは反省の言葉を述べたあと、明るく未来を語った。無邪気に未来に夢を見て、楽しそうに語る様子は子供そのものだ。その様子を見ていると、なんだか無性に泣きたくなった。


「どうして泣くの?どこか痛いの?」

 ルーは本気で心配してくれた。これからどんな酷い目にあうかわからないのに、こうしてわたしのことを心配してくれる。それが嬉しくて、可哀そうで、堪らなくなった。

 無理やり笑顔を作った。できれば、笑顔で見送ってあげたいから。

「どうぞお元気で。きっと会いに行きますね」

 結局、泣き笑いになってしまった。

 「お嬢さん、シャルルのために泣いてくれてありがとうございます。でも、もう泣かないでください。またお会いするときは、笑顔でいてくださいね」

 ダーヴィドがわたしの頭を撫でてくれた。大きくて、暖かい手だった。

 そして、ダーヴィドとルー、ロランとサシャがレイヴの背に乗り、レイヴは夜空に向けて飛び上がり、魔大陸へ向けて飛び去って行った。

 その姿が見えなくなるのは、あっという間だった。


 翌日、わたしは泣きすぎて目を腫らしていた。

「セシル様………」

「言わなくてもわかってる。酷い顔でしょ」

 ベッド脇の洗面器には、冷たい水が用意してあった。いつもは暖かい水が用意してあるのに、シルヴァが気を使ったのがわかった。タオルを水に濡らし、目元に当てると気持ちよかった。

 目元の腫れが少し引いてから、居間に降りた。レイヴ以外の皆が勢ぞろいしていた。クロード達もいるし、ルオもいる。

「申し訳ありませんでした!俺がシャルルの危険性に気づいていれば、セシル様を危険な目に合わせることもなかったのに………これでは、ただの役立たずです」 

 ルオが激しく落ち込んでいた。

 言葉でなにを言っても、いまのルオには慰めにならない気がした。だから、ぎゅっと抱き締めた。ぬくもりで伝えられることってあるよね。


 今日は、わたしとシルヴァ、そしてエステルも、とうさまと一緒に王様に謁見することになっていた。ルーと一緒にいたのがとうさまじゃなく、わたし達だからだ。

 今後、ルー達がオ・フェリス国で行っていた行動を調査し、さらなる被害者がいないか調べるそうだ。被害者には、ダーヴィドが残していったマジックバッグの中身を換金したものと、王宮から慰謝料が支払われることになっていた。できるなら魔大陸にある東のヴァンパイア王国に慰謝料を請求したいそうだけれど、国交がないのでそれもできない。ハンプス国王も、悩ましいところなのだ。

 マダム・イボンヌの娼館は、今回の騒ぎで館が大きく損傷したことで、閉鎖することに決めたそうだ。マダム・イボンヌは、自分が惚れていたオリヴィエことダーヴィドがヴァンパイアだったことに大きくショックを受けたらしい。

 これから、マダム・イボンヌの娼館は大きく姿を変えることになるだろうと思う。この王都オーシルドは土地が限られているので、多少のいわくつき物件もすぐに売れる。マダム・イボンヌの下で働いていた娼婦のひとりが、貴族から支援を受けて新しい娼館を建てるという話を聞いた。事件が起きたのは昨日なのに、行動が早いよね。過酷な境遇の女性は逞しい。




ヴァンパイ編はこれで終了です。ここまで読んでいただきありがとうございました。

更新を少し休んで、続きを書きます。

11月10日から更新再開するので、またよろしくお願いします。

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