15 ハンターギルド
「…残りのクラーケンは、そちらで対応してくれ。俺達には関係ない」
「ま、そうだな。あんたら、この国のハンターじゃないだろ?初めて会うもんな。この国のことは、この国にいるハンターに任せてくれ。じゃあ、これが報酬だ」
テーブルにどんと置かれた皮袋には、金貨が入っていた。とうさまは数を確かめることなく、腰につけたマジックバックにしまった。ダッカムさんはそれを見て、片眉を上げた。器用だな。
ギルドでの用事が済むと、港町の宿屋へ向かって走った。今回はお腹になにも入っていないから、吐く心配はない。すでに辺りは暗くなってきているのに、お昼ご飯も食べていない。お腹がぺこぺこだ。
宿屋の食堂で夕食を食べると、洗浄魔法をかけて全身をきれいにしてベッドにもぐりこんだ。とうさまは隣のベッドにいる。
「おやすみなさい、とうさま」
「…あぁ、おやすみ」
とうさまの声は心地いい。良い気持ちになって、眠りに落ちた。
朝目覚めると、とうさまはすでに起きていた。いつも、とうさまはわたしより遅く寝て、朝はわたしより早く目覚める。若いときから、睡眠時間が短くても平気だったんだって。その気になれば、1日中でも布団に潜っていられるわたしとは違う。
宿屋の食堂で朝食をとり、ガーラム便乗り場へと急ぐ。10番乗り場へ行くと、ウルンサとエレクがいた。わたしを見て嬉しそうに身をよじらせている。
「おはようウルンサ、エレク。もうオッサムさんに乱暴されないようにしたから安心してね」
朝一のガーラム便出発に備えて、乗り場には大勢のガーラム便の運転手達がいる。今は、聞かれて困るのでガーラムの言葉を話せない。人間の言葉で話しかけたけれど、賢いガーラムには通じたらしく、わたしの目をじっと見つめている。
「とうさまとわたしは、今日でこの国を出て行くの。また会うまで日まで、元気で過ごしてね」
ア・ムリス国を出国すると、辿り着くのはアステラ大陸の海洋国家カー・ヴァインの港町。大型船が港に停泊している様子は圧巻で、港の端にある造船所も見応えがある。交易が盛んなので、物が豊富に溢れ、様々な文化が入り混じった街になっている。赤土から造られた赤レンガが有名で、街の建物はほとんど赤レンガが使われている。
そして、アステラ大陸へ戻って来たということは、休暇が終わったということ。これから働くぞ~。
というわけで、やって来ました、ハンターギルドのニルス支部。
かららん
ドアベルが鳴り、ハンター達が一斉に振り向いた。そして、視線が戻らない。
視線を無視して依頼ボードへ行くと、とうさまがわたしを抱き上げて、依頼ボードがよく見えるようにしてくれた。
「おいおい。子連れでハンターやる気か?ハンターなめんなよ」
なにやら言っているおじさんがいるが、それも無視。
「いいのがないね」
ギルドに着いたのが昼過ぎだったので、すでに良い依頼は他のハンターに取られている。
「護衛依頼にする?王都まで行くのがあるよ」
「けっ。おまえが護衛される側だろうが!」
むっとしたけど、これも無視。絡んでくる奴に関わると、ろくなことにならないからね。
「…いいだろう。その依頼、受けるぞ」
とうさまが依頼票を取り、わたしを下に降ろしてくれた。
「おいおい。ふざけんなよ。ガキ連れて、遊び半分でハンターやってる奴が護衛依頼なんて受けるな。あんたに失敗されちゃ、俺達まっとうなハンターまで評判が下がって迷惑するんだよ!」
さっきのおじさんが叫び、こちらへやって来た。ガタイはいいけれど、背が低くお酒臭い。昼間っから飲んで仕事もしないなんて信じられない。
「…Fランクだが、こいつもハンターだ。仕事はきっちりやるぞ」
「FランクならFランクらしく、薬草採取でもやってろよ」
「契約を結ぶかどうか決めるのは、依頼主である商人だ。おまえじゃない。あまりキャンキャン吠えるなよ、犬じゃあるまいし」
あぁ、とうさまもイライラしている。
ハンターランクが低いとなめられて、若いとなめられる。実力社会のハンターなのに、見た目で判断されることに納得がいかない。
「犬はてめえだろが!ガキの前だからって、いきがるんじゃねえぞ!」
おじさんの仲間だろうか。離れたところで、にやにやしてこちらを見ている男達がいる。おじさんが見慣れないハンターに絡むのは、よくあることなんだろう。誰も助けようとはしない。
ぶちのめすのは簡単。ただし、ハンター同士の暴力沙汰はご法度。先に手を出した方が処分を言い渡されるの。
わたしはおじさんを無視して、受付嬢に依頼票を渡した。
「…あの、もう少しお考えになった方が…」
「いえ、大丈夫です」
「商隊は盗賊や魔物に襲われることもあります。そのための護衛なんですよ。あなたはFランクだそうですね。そのランクの方に、護衛を依頼するような商人はいませんよ」
「とうさまはCランクですよ」
「それでも、です」
「ぎゃはははっ!」
依頼を受け付けようとしない受付嬢の様子を見て、おじさんが馬鹿笑いした。