149 誰がタンクを殺したか2
「ルー答えて。タンク殺しは誰がやったの?」
「それは………前に教えたじゃないか。今さらどうしたって言うんだ。はははっ」
目が泳いでいる。
「ダーヴィドがタンクや子供たちを殺したの?」
『違う!!』
ウサギが必死に叫んだ。
『私は、他人の命を奪ってまで生きたいとは思わない!!』
それは、心からの叫びに聞こえた。
ダンッ
ルーが震える手で壁を叩いた。
「ダーヴィドはいつもそうだ!僕らが生き物の生き血をすすらなきゃ生きられないヴァンパイアだってわかってる!?下等な人間だって、動物や植物を殺して食べている。僕らヴァンパイアが生き物を殺してなにが悪い!!」
あ、ルーがキレた。
「タンクなんて、ただの餌じゃないか。殺したからって、文句を言われる筋合いはない。僕が悪いわけじゃない!!」
それはつまり………自分が犯人だと告白しているっていうこと!?
ウサギの耳と日よけの石をシルヴァに預けて、わたしはポケットから指輪を取り出した。そして指輪をウサギに当てると、ウサギは裸の男性へと変身した。
ぎゃああぁぁぁあああ!!
わたしが色気のない悲鳴を上げて後ろを向くと、とうさまがダーヴィドの肩に自分のマントをかけてくれた。
そしてシルヴァがわたしから指輪を受け取り、ダーヴィドに手渡してくれた。
おかげで、これ以上ダーヴィドの裸を見ないで済む。
「シャルル………おまえなら、タンクを殺す必要などないだろう?いくらでも、女達が血を捧げるはずだ」
マントの前を掻き合わせながら、ダーヴィドが言った。日よけの石もシルヴァから受け取り、自分で持っている。
「そうさ!大人も、子供でさえも、僕の前に身を投げて寄越すんだ。選り取り見取りだよ。僕には殺す理由がない!………だけど………だけど、どうしてなんだ?気づいたら、どの娘もこの腕の中で冷たくなっているんだ。どうしても自分を止められない。喉が渇いて仕方ないんだ」
ということは、王都オーシルドで起きた女性吸血事件もルーの仕業ということ?
「どういうことだ?シャルル。私達ほどのヴァンパイアになれば、1年くらい血を飲まなくても飢えることはない。喉が渇くはずがないだろう?」
へぇ~、そうなんだ。
「わからないよ。年々酷くなってるんだ。このままじゃ僕は、ただ血を求めて彷徨う化け物になってしまう。助けてダーヴィド!!」
ルーがダーヴィドに縋りついて泣き出した。
「これでも我慢しているんだよ。だけど、好みの血だと我を忘れてしまってダメなんだ」
「………それで、セシルを私の所へ行くように仕向けたのか。自分から離れるように」
どういうこと?わたしを守るために、あえてダーヴィドのところへ行かせたということ?
「セシルの血は媚薬だ。どうにか我慢するために、僕は毎晩、街をうろつくことになった。今度は訴え出ることがないように、周到に用意したんだ。おかげで、最近は被害者の報告がないだろう?」
それは自慢にならないよね。
「それはわかったが、どうして私を追ってきたんだ?私が罪を追われて国を出たんだから、シャルルは母上の跡取りとして堂々としていれば良かったじゃないか」
「………それができれば、そうしていたよ」
ルー曰く、ダーヴィドが追放されてしばらくは平穏な日々が過ぎたそう。だけど、すぐに血を吸うのを我慢できなくなり、金を握らせて貧しい子供を買うようになった。けれどその血は不味く、とても我慢できるものではなかった。獣の血などとんでもない。しかも、どちらも気づけば相手は死んでいる。そして上等のタンクの血でさえ満足できなくなっていることに気づいた頃、またしてもタンクが冷たくなるまで血を吸ってしまう事故が起きた。それからは、歯止めが利かなくなった。立て続けに3人のタンクを殺してしまい、魔王専属のタンク殺しもシャルルではないかと疑いの目を向けられるようになった。
そして追い詰められたシャルルは、自分の「潔白を証明するためにダーヴィドを倒す」と言って魔王領を出た。
お供のロランとサシャはヴァンピーノなので、夜の間は眠っていてルーがなにをしても気づかれることはなかった。アステラ大陸に渡ってからは、頻繁に人間を襲ってきた。旅をしながらだったので、問題になることはなかった。しかし、王都オーシルドに滞在するようになり、その被害者が増えるにつれて問題が大きくなってきた。そんなときに、わたし達に出会ったのだと言う。
「ダーヴィドがセシルに会えば、きっと血を求めると思っていた。だから、その隙に………」
「それで、私を殺そうと………??」
「違う!僕がダーヴィドを殺せるわけがないだろう!?だから………代わりに、シルヴァが殺してくれればと思っていたよ」
自分の手は汚さずに、わたしやシルヴァを利用して兄を殺そうとしたの?卑怯だね。
「でも、こうして生きていてくれた!僕にも、まだやり直すチャンスが残っていたんだ」
ルーはダーヴィドの前に膝をついて縋りながら、泣き笑いをしている。
「さっきから黙って聞いてりゃ、すいぶん自分勝手な言い分だな」
冬眠していたせいで事情を知らないレイヴは、状況を把握するために大人しくしていた。でも、どうやらそれも我慢の限界だったらしい。




