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147 レットドラゴンの少年

 粉塵が落ち着いてくると、相手の姿が見えるようになった。深紅の髪を逆立て、漆黒の瞳を怒りに燃え上がらせたレットドラゴン族の少年………レイヴだ。

 王宮で眠っていたはずなのに、いつ目覚めたんだろう?

「………セシルに気安く触れるな。その汚い手を離せ」

「この娘は私のものです。手放すくらいなら、この命をもらいましょう」

 オリヴィエはこう言ったけれど、いまは日の光もあり力を十分に発揮出せない状態のはず。それでも、抵抗しない人間ひとりくらいなら殺せるということかな。

「あなたとは初めて会いますね。わたしをどうするつもりですか」

「おまえは殺す!」

 怒り心頭とはこういうことを言うのかな。レイヴはすっかり頭に血が上っているように見える。

 頭に血が上った状態では体の動きが鈍るし、判断も間違いやすい。レイヴには、冷静になってほしい。

 

 そういえば。指輪を奪ったのに、まだオリヴィエは平気でいる。やっぱり、まだ日よけの石を持っているんだ。どこだろう?服を全部燃やしてしまえば、日よけ石を身に着けておけないよね。どうしよう。わたしがやる?それとも、レイヴが火を放つのを待つ?

 そのとき、レイヴが深呼吸をした。自分を落ち着けて、冷静になろうとしている。瞳から怒りの炎が消えてゆき、表情が落ち着いてきた。

「………おまえを倒してセシルを奪い返す」

「その前に、私がセシルの命を奪いますよ。この娘の命が惜しければ、去りなさい」

「おまえはヴァンパイアだな。どうして日光の下でも平気なのかわからないが、俺の敵じゃない。おまえこそ、死にたくなければ手を引け」

「セシルが死ぬところを見なければわからないようですね」

 そうは言っても、わたしは大事な人質だ。わたしを殺せば、逃げられなくのはオリヴィエもわかっているだろうに。


 バタンッ!


 突然ドアが開いて、シルヴァが入って来た。ドアの向こうには、とうさまがいる。クロード達の姿が見えないのは、外で警戒しているからかもしれない。

「くふふっ。お久しぶりです、オリヴィエ。私を覚えていますか?」

「あ!あなたは………シルヴァ!?どうしてここに!!」

 オリヴィエが動揺した隙に、シルヴァがわたしを奪い取った。ナイフが首をかすめて血が流れたけれど、すぐにシルヴァが回復魔法で治療してくれた。

「我が主の元に馳せ参じるのは、配下の者としては当然のこと」

「まさか!あなたほどの悪魔を召喚するなど………ありえない!」

「それがありえるのですよ。現実に、私はここに存在しているのですから」

 シルヴァは、その存在を見せつけるためか、いつもの執事服やハンター装備ではなく、高位貴族のような気品溢れる恰好をしていた。

 わたしを抱き締めて、愛おしそうに手にキスをしてきた。恥ずかしい。思わず顔が赤くなるのを止められなかった。


「まさか!私の催眠術にかかっているはずだ。………自力で催眠術を破ったのか?いや、そんなはずはない」

 赤面したことで、催眠術にかかっていないことがオリヴィエにバレてしまった。

「初めから、私を陥れるつもりでついて来たのか!?くそっ」

 なんだか、聞いていた印象と違うな。もっと狡猾で、慎重な人だと思っていたのに、違うみたい。

「はっ!指輪がない!あれがないと………私は………ぐぅっ」

 オリヴィエが苦しそうに呻きながらうずくまった。


 ぼんっ!


 うずくまっていたオリヴィエが煙に包まれ、その体が小さくなっていく。煙が収まったとき、オリヴィエがいた場所には白く長い耳に、ぽってりとした体、赤い瞳のウサギがいた。

 すかさずシルヴァがその耳を掴み持ち上げ、首元に剣を突きつけた。

「………」

 このウサギは、オリヴィエが変身したものに違いない。

 ウサギの足元には、オリヴィエが着ていた服が脱ぎ捨てられていた。シルヴァと違って、魔力で作り出した服じゃなかったんだね。ということは………身に着けていた日よけの石も、ここに落ちているはずだ。急いで服を探り、大きな魔石を探り当てた。


 ぎゃああぁぁぁあああ!!


 断末魔のような悲鳴が聞こえ、見るとウサギが燃えているところだった。シルヴァは平気な顔でウサギの耳を掴んでいる。このままだと、すぐにウサギは燃えて灰になってしまう!

 魔石を持った手をウサギの口に突っ込んだ。


 がりっ!


 痛みに耐えかねたウサギがわたしの手に噛みつき、血が流れた。その血が、ウサギの喉に流れ落ちていく。

 慌てたシルヴァとレイヴが、わたしをウサギから引き離そうと手を伸ばしたけれど、掴まれる前に叫んだ。

「まだオリヴィエを死なせないで!」

「どうしてだ?こいつはおまえを殺そうと………ちっ。わかったから、そんな顔するな」

 日よけの石を口にほおり入れたおかげで、オリヴィエを包んでいた炎は収まっていた。激しい火傷を負ったウサギからは、獣が焼ける匂いが漂っている。

 わたしの服にも火が燃え移っていて、袖はすっかり燃え尽きていた。

 日よけの石を掴んでいない反対の手で、回復魔法をかけた。すると、いまにも耳がちぎれそうだったウサギが、元の姿を取り戻した。

 日よけの石を掴んでいる手をウサギの口から出し、石をウサギの背中に当てた。体に石が触れているんだから、これでも十分効果はあるはず。



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