144 成長痛の後2
「さて。こちらからの報告は以上ですが、ニキの方はなにか進展はありましたか?」
報告と言っても、大したことはない。わたしの成長痛が始まって、一晩中、熱と痛みににうなされていたところをルーとシルヴァに看病してもらったというだけだ。わたしの姿を見れば、なにが起きたのか一目瞭然だ。あ、オリヴィエにつけられたマーキングがなくなっているよね。それはちゃんと報告したよ。とうさまはほっとしたようだった。
「オリヴィエがマダム・イボンヌの娼館に泊っていることを確かめた。いまはクロード達が不寝番で見張っている」
そっか。不寝番ということは、3人が交代で寝ずに夜中も見張っているということだ。大変だね。
オリヴィエを倒すには、日よけの石なしで日光の下にその姿を晒させることになる。とうさまは、いったいどうするつもりなんだろう。
「………俺は戻るが、セシルのことはくれぐれも注意して守ってくれ」
「わかっております」
「かしこまりました」
シルヴァとロランが答えた。
ルーは一晩中起きていたので、いまは眠っているの。
代わりに、ロランとサシャが起きている。
そうして、とうさまはマダム・エリザベッタの娼館へ戻って行くと、入れ替わりにルオがやって来た。
ルオはわたしを見ても表情を変えることもなく、匂いを嗅いだだけだった。
「姿が変わるのは、レナ様と同じですね」
よくわからないことを言っている。
詳しく話を聞くと、母様のレナがレ・スタット女王を退いたあと、「死者の呪い」によって体が蝕まれていた。死が真近に迫ったとき、「復活の泉」の存在を知り、賭けに出ることにした。「復活の泉」は、「死者の呪い」を解くことができる唯一に存在だ。そして、「復活の泉」に浸かったレナは命を繋ぐことができた。衰えていた体は若返り、以前の面影のない姿へと生まれ変わった。だけど、以前の記憶を失くしていた。過酷な人生を歩んだレナにとって、その方がよかったかもしれない、とルオは言った。
その後、父様となるジークことジェイミー・オルランディ伯爵と出会い、母様はレ・スタット国のチャールズ王からの追手から逃れながらオ・フェリス国へやってきた。結局、出産の際に耐えられなくて亡くなってしまうのだけど………。
だから、わたしには母様の思い出も、父様との思い出もない。いくら血の繋がった両親とはいえ、育ての親であるとうさまのほうがずっと身近に感じる。
「家の外に、嗅ぎ慣れない匂いを感じました。なにかありましたか?」
「えっ!それってオリヴィエのこと?わたし、ヴァンパイアに狙われているの」
「ヴァンパイアかわかりませんが、血の匂いが濃かったです」
ルオをルーの傍へ連れて行って、その匂いを嗅いでもらう。
「どう?似た匂いだった?」
「はい。似ています。が、家の外の匂いの方が濁っていますね」
大変!オリヴィエはここまで来ていたんだ!
いつ来たんだろう?わたしがうなされている間?それとも、マーキングが消えたあと?出掛けている間かな?
はっ!まだいるっていうことはないよね?
「ルオ、その匂いの持ち主はまだいるの?」
「いいえ。もういません。明け方に来て、去ったようです」
ということは、わたしの成長が止まった頃か。その頃に、マーキングが外れたのかな。それで、様子を見に来た………とか?
クロード達が見張っているはずなのに、その見張りを潜り抜けてここまでやって来たということか。これはまずいね。だって、簡単に見張りの目を盗んで外出できるということは、捕らえるときにも、簡単に逃げられる手段を持っているのかもしれない。
オリヴィエが変身できるのはウサギだけだということだったけれど、もしかして、ほかにも変身できるようになったのかな?たとえば、霧とか………もしそうなら、無敵じゃないだろうか?霧なら、捕まえることはできないし、檻に入れてもすり抜けてしまう。掴まえることができなければ、日よけの石を奪って日の光を浴びせることもできない。
でも、これは推測だから、まだ霧になれると決まったわけじゃない。
「ロラン、マダム・エリザベッタの娼館まで使いに行ってくれる?オリヴィエがここまで来ていたことを知らせてほしいの」
「わかりました。行ってきます」
ロランはすぐに出発してくれた。
しばらくしてロランが帰って来た。
「ニキ様達は、オリヴィエの外出を見逃したことを悔しがっていました。どうやら、マダム・イボンヌがオリヴィエが娼館にいるように装っていたそうです」
ふうん。マダム・イボンヌは、ずいぶんオリヴィエを気に入っているみたいだね。
ということは、直接オリヴィエに仕掛けるんじゃなくて、マダム・イボンヌを利用するのもひとつの手かもしれない。って、とうさまならそのことに気づいてるよね。
マダム・イボンヌがどういう女性かわからないけれど、高級娼館の主なんだから、彼女を買うには相当なお金が必要なはず。オリヴィエはそのお金をどうやって調達しているんだろう?国を出るときに、相当な量の金銀財宝を持ち出したのかな?でも、それだって限りがあるよね。




