表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/282

143 成長痛の後

 居間に戻ると、皆にこやかな顔をして迎えてくれた。

 わたしがお風呂に入っていた間に、なにを話していたんだろう?

 わたしがさっきまで寝ていたソファは、清浄魔法できれいになっていた。そこに腰かけると、サシャが風魔法を髪に当てながらブラシで梳かしてくれた。人に髪を梳かしてもらうのって気持ちいい。

「ありがとうサシャ。おかげで気持ちよかったよ」

「とんでもございません。セシル様の御髪はサラサラで美しいですね。ブラシをかけるのが楽しかったです」

 こんなに褒められるとは思わなかった。嬉しい。

「ところでセシル様、鏡は御覧になりましたか?」

 シルヴァが話しかけてきた。

「うん。まるで別人みたいに変わっててビックリしたよ。これって、ただ成長したわけじゃないよね?まるで魔法みたい。どこかおかしいところはない?」

 もう痛みはないし、疲労は感じるけれど異常は感じない。成長した以外は、自分ではおかしなところはないように感じるけれど、他人から見れば違ったように見えるかもしれないしね。念のため聞いておこう。


「なにもおかしいところはございません。しいて言うなら、美しく成長なさいました」

 うっとりと目を細めて、わたしを見つめてくるシルヴァ。

 ルーやロランも、シルヴァの意見に同意してうんうんと頷いている。

「気づかないうちに魔法をかけられたのかな?何事もなくて、急に成長するなんてありえないでしょ?」

「そうですね。このように一晩で成長するのは妙と言えます。本来なら、もっとゆっくり成長してしかるべきです。心身の負担になりますからね」

 そうだよね。一気に成長したせいで、成長痛もなかなかのものだった。もうあんな経験はしたくない。

「………もしかして、オリヴィエにマーキングされたことが影響しているかもしれない」

「ルー、どういうこと?」

「オリヴィエによるマーキングは、言うなればセシルにとって異物だ。その異物に対応するために、体が変化したかもしれない。っていうことさ」

 なるほど。そういう考え方もあるか。 


 オリヴィエは力あるヴァンパイアだもの。彼にされたマーキングは、わたしのマーキングとは比べものにならないくらい強力かもしれない。

「セシル、手を見せてくれるかい?」

「どうぞ」

 ルーにマーキングされた手を見せると、ルーはじっくりわたしの手を観察したあとでこう言った。

「………うん。マーキングが消えている」

 それじゃあ、ルーの言うように体がマーキングに抵抗したということ?その抵抗のために体が成長してしまった、ということ?

「とにかく、君の体に異常はない。成長したものを元に戻すことはできないし、いまの姿で過ごしてもらうしかない。まずは、服と靴を用意しようか」

 そっか。服だけじゃなくて、靴も合わなくなったんだ。これじゃあ、せっかくレイヴが用意してくれた部分鎧も合わなくなっちゃったな。あ、でも、部分鎧だし、ベルトを調節したら着れるのかな?う~ん。胸が苦しいか。


 そういうわけで、マジックバッグを持ち、シルヴァとエステル、フィーを連れて買い物に出掛けた。わたしは持っている靴を履けなくなっていたので、マントに包まれた状態でシルヴァに抱っこされている。恥ずかしい!

 数軒のお店をまわり、必要と思うものを揃えた。戦闘向きの動きやすい服に、部分鎧、パジャマ、靴、防寒着、下着………等々。一気に買ったから、お金が飛ぶように出て行った。特に部分鎧が高かった。でも、必要だからしかたない。

 お店で着替え、自分の足で歩いて出た。もう靴があるから、シルヴァに抱っこしてもらう必要はない。

 買い物が済むと、すぐに家に帰った。

 家に入ると、とうさまへの使いに出ていたロランも帰っていた。そして、とうさまもいた。


 とうさまは居間の椅子に腰かけていたけれど、わたしを見ると立ち上がった。目が驚きに見開かれている。

「………セシル」

 それだけ言うのが精一杯という感じ。

 わたしはにっこり微笑んでみせた。

「成長………しちゃった。違和感なく歩けたし、レイヴが作ってくれた部分鎧が合わなくなっちゃったけど、この分なら戦闘もちゃんとこなせそう。森に狩りに行ってみようかな」

 できるだけ明るくしたつもりだ。

 だけど、とうさまの表情は暗い。

「………綺麗になったな」

「えっ?うん、ありがとう」

 わたし、なにかまずいことを言ったかな?

 どうしてとうさまは、わたしと目を合わせてくれないんだろう?


 とうさまの正面に立ち、手を伸ばしてとうさまの顔に触れた。

「セシル!?」

 えっ、なんで??あれ、もしかしてとうさま照れているの?うわー、新鮮!

 思い切って、以前のように抱きついてみた。前は腰あたりが見えていたのに、今はとうさまの胸あたりが見える。うわー、とうさまの心臓がどくどくいっていて楽しい!

 ところが、とうさまに肩をぐいっと押されて引き離された。

 後ろにふらついたところを、すかさずシルヴァが受け止め支えてくれた。

「あ、シルヴァありがとう」

「くふふっ。どういたしまして」

 いつも通りのシルヴァなので、ほっとする。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ