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142 成長痛に襲われる2

 痛みのせいか熱が出て、汗も出てきた。

 困ったことに、熱のせいで頭がぼうっとする。

「セシル様、いかがなさいました!?」

 眠っていたシルヴァが、ようやく気づいて駆け寄ってきた。

「安心してくれ。セシルはただの成長痛だ。つらいだろうが、痛みに耐えるしかない」

「成長痛とは?なにかできることはないのですか?」

 どうやら、シルヴァは成長痛を知らないらしい。人間でも経験しない人はいるし、悪魔のシルヴァが知らなくても当然だよね。

「そうだね。とりあえず、熱そうだから鎧を外そうか。あと、冷たい水に浸したタオルを額に当ててあげるのもいいね」

「わかりました」

 シルヴァは、ルーに素直に従った。

 戦い方は知っていても、人間の看病の仕方なんて知らないよね。


 わたしは、いつオリヴィエが攻めてきても対応できるよう武装したまま眠っていたの。それを、シルヴァが手際よく脱がしていく。熱に浮かされているとはいえ、これは恥ずかしい。手で顔を覆って恥ずかしさに耐えた。

 おでこに冷たいタオルが乗せられると、気持ちよさに目を細めた。

「気持ちいいようですね。よかった」

 シルヴァの嬉しそうな声が聞こえてきた。

 それからのことは、よく覚えていない。熱と痛みに耐えるのに必死で、時間がどれほど経ったのかもわからなかった。

 気づけば、朝になっていた。

 痛みはすっかり消えて、熱も下がっていた。すっかり消耗していたけれど、体が汗でベトベトだったのでお風呂に入ってさっぱりしたかった。


「わたしとサシャ様がお手伝いいたします」

「安心してください。すっかり綺麗にしてさしあげますからね」

 ソファの上で毛布に包まって丸まっているわたしに向かって、エステルとサシャが言った。

「………ありがとう」

 そう言って体を伸ばすと、違和感を感じた。

 あれ?このソファ、こんなに小さかったっけ?

 わたしを見ている皆も、違和感を感じたらしい。皆、表情が変わった。驚いている。

「セシル様はお疲れでしょう。私が脱衣所までお連れいたします」

 そう言って、シルヴァが毛布ごとわたしを抱き上げた。

「着替えは用意しておくから、ゆっくりしておいで」

 え?なぜルーがそんなことを言うの?まるで、わたしの着替えの場所を知っているような言い方だね。


 シルヴァに脱衣所まで運んでもらったあとは、エステルとサシャに服を脱ぐのを手伝ってもらった。信じられないほど窮屈になっていて、濡れているせいだと思うけれど、かなり脱ぎずらかった。

 そうしてふたりの手を借りながら浴槽に入り、丁寧に頭のてっぺんから足の先まで洗ってもらった。すっかり疲れ切っていたので、人の手を借りることに抵抗が少なくなってきている。

 でもね。おかしいの。さっき脱衣所から浴室まで歩いたとき、視界がいつもと違うように感じたの。エステルとサシャも、以前より目線が近かったし………。

 まるで、一気に成長したような………成長痛に耐えたんだから、成長はしてると思うよ。でも、せいぜい身長が1~2センチ伸びたくらいじゃないの?

 だけどこれは………この水面に沈んで見える腕と足は、2センチできかないくらい伸びている気がするのだけど………気のせいだよね?


「さぁ、セシル様。そろそろお風呂から上がりましょう」

「うん」 

 エステルに手を引かれて浴槽から出ると、脱衣所に用意してあったのはサシャの服だった。

「なんで??」

「セシル様が成長されて、以前の服はサイズが合わなくなってしまいましたから。サシャ様の服をお借りしたんですよ」

「??」

 いくら成長したって言っても、サシャの服が合うはずがない………よね?

 ところが、実際着てみると、少し大きいけれど着れないことはなかった。

 おかしいな。どうして着れたんだろう?

 そして、ふと鏡を見た瞬間、愕然とした。


 姿見に駆け寄って、鏡の中を覗き込む。そこには、見知らぬ少女がいた。ほっそりとした長い手足に、膨らんだ胸、くびれた腰、やや丸みを帯びた尻………顔は上気して、可愛らしい口を大きく開け、大きなアイスブルーの瞳でこちらを見つめている。全身から受ける印象としては、14歳くらいに見える。

 髪に手をやると、鏡の中の少女も同じ動作をした。銀色の髪が、手の動きに合わせてさらりと揺れる。

「これがわたし………?」

 いくら成長痛を引き起こすほどの成長とは言っても、これじゃまるで別人じゃない。なにが起きたの?

 足の力が抜けて、床にへたり込んだ。


「セシル様!大丈夫ですか?眩暈がしますか?お水をお持ちしましょうか?」

「………うん。お願い」

 汗だくになるほど汗をかいたのだもの。脱水状態になっていてもおかしくない。

 それにしても。この変化はおかしい。まるで………そう、ガイムとネスの進化みたい。あのときは、わたしが魔力を注いだせいで進化が起こり、魔物から人族に近い姿へと変わった。肉体はひと回り小さくなり、屈強で逞しい青年へと変貌した。

 わたしの場合は、逆に大きくなった。一気に年をとったように体は変わり、以前の面影を残す顔も年をとったように見える。

 誰かが魔法を使ったのかな?


 

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