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139 オリヴィエとの出会い2

 ふとオリヴィエの手元を見ると、見事な緑の石をはめ込んだ指輪をつけていた。これは魔石だ。でも、ルーの日よけの石ほど大きくない。もしかしたら、複数の日よけの石を身に着けているかもしれない。そうなったら厄介だ。ひとつ壊しても、逃げられる可能性がある。

 それとも、技術の進歩で、最新の日よけの石は小さくても同じ効果が得られるようになっているとか?考えられる話だけど、いまはそれよりも、どうこの場をしのぐか?それにかかっている。

 誰かに連絡をとってこの場に駆け付けてもらえればいいけれど、皆が集まる前にオリヴィエには逃げられてしまうと思う。

 一番いいのは、オリヴィエにマーキングをして、どこにいてもわかるようにしてから逃げること。そうすれば、皆と合流してからオリヴィエを追うことができる。

 でも、わたしにはマーキングの技術がな………あれ?ル・スウェル国の王都の図書館で読んだ本の中に、マーキングに関する記述があった気がする。


 マジックバッグを作成するには、バッグの中を異空間に繋げる方法と、バッグの中の空間を拡張する方法がある。異空間を使用する場合には、任意の異空間に繋がるよう、異空間にマーキングをする。

 そうだ!その方法があった!

 やり方は………うん、覚えてる。わたしの血を使う方法が一番簡単だ。

 オリヴィエに視線を向けたまま、すっと剣の刃に指を滑らせた。鋭い痛みが指先に走る。

「いたっ」

 わざと声をあげると、わたしのじっと顔を見ていたオリヴィエが「どうしました?」と言った。

 血が出ている指を見せて。

「どこかに引っかけたみたいです」

 と言った。


「これは大変だ。お嬢さんの可愛い指に、傷が残ってしまうかもしれない」

 そう言ってオリヴィエはわたしの手をとると、血が出ている指に口をつけた。まるで、美味しい物を食べたかのように、恍惚とした表情を浮かべるオリヴィエ。

 背筋に嫌悪感が走るけれど、我慢する。これは、マーキングのために必要なことだから。

 そうしてオリヴィエはポケットからハンカチを出し、わたしの指に優しく巻きつけてくれた。

 傷口に口をつけた以外は、紳士的だ。だけど、普通、見ず知らずの少女にそんなことをする大人はいない。

「家まで送って行こうか?」

 願ってもない申し出だけれど、ここは慎重に行動したほうがいい。

 丁重にお断りした。 

「これくらいの傷、すぐに治りますから大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


「そうですか。無理強いするのもよくないですし、お嬢さんを送って行くのはやめておくことにします」

 表情はにこやかだけれど、オリヴィエの目は笑っていなかった。怒っているわけじゃない。むしろ、喜んでいる。わたしという獲物を見つけたことに歓喜しているように見える。

「またお会いできるといいですね。では、どうぞお大事に」

 そう言って、オリヴィエは先に店を出て行った。

 その背中を見送ってから、肺にため込んだ息を吐き出した。

 ふぅ~、緊張した!

 いまが日中でよかった。もし夜だったら、こうも簡単にオリヴィエは引き下がらなかっただろうと思う。

 それに。この指に巻かれたハンカチからは魔力を感じる。オリヴィエが施したマーキングだろうと思う。


 ハンカチを外すと、真新しい傷が見えた。そして、指から魔力の波動を感じる。どうやら、ハンカチに宿っていた魔法が指に移ったらしい。

 回復魔法と解術の魔法をかけたけれど、傷が治っただけで魔力の波動は消えなかった。やっぱり、簡単な解術の魔法じゃ効かないかぁ………。

 バッグを買ってお店を出ると、オリヴィエの気配がしないか探ってみた。予想通りオリヴィエの気配はしなかった。今頃は隠れ家に帰っているか、別の獲物を探していることだろう。

 それにしても、オリヴィエとの出会いが無事に済んでよかった。

 どうやらマーキングをされたみたいだけど、命まで奪われたわけじゃない。これから対策を立てればいいんだから。

 

 そうだ!わたしもマーキングをしなくちゃ。

 街路樹の傍へ行って、地面に魔法陣を描く。そしてもう一度指を切って、魔法陣に血を垂らした。

 この魔法は、距離が離れていても有効なの。元々、異空間に対するマーキングだし、当然だよね。そして、相手にマーキングされたことを悟らせないの。これは重要だよ。オリヴィエに警戒されて、遠くに逃げられるのは困るからね。

 このできごとをすぐとうさまに知らせたいけれど、いまフィーを使いにやったらわたしはひとりになってしまう。それは危険だと判断して、いまは家に帰ることを優先した。


「なんてことだ!よくオリヴィエに会って無事に済んだな。よくやった」

 家に帰ると、出迎えてくれたルーが言った。

 寝ていたんじゃなかったのね。

「だから、私がお供すると申し上げましたのに………セシル様に印を付けるなど、許せません」

 シルヴァが静かに怒っていた。

 無理もない。わたしだって、仲間が危険な目に遭っているときに、自分が傍にいられなかったとしたら腹が立つよ。自分にね。

 シルヴァはなんとか、わたしにつけられたマーキングの印を消そうとしてくれたけれど、できなかった。強力な術らしい。


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