137 シルヴァのいたずら2
夜寝るとき、シルヴァがルー達からわたしの身を守るためだと言って、わたしの部屋に自分のベッドを運び込んできた。というか、部屋に戻ったら、すでにシルヴァのベッドがあった。
もちろん出て行くように言ったけれど、シルヴァは言うことを聞かなかった。とうさま達が留守の間は、この家には人間がわたししかいない。ルーが血に飢えた怪物となって襲ってくる可能性はゼロではない。だから自分が守るのだと、熱く説得された。
シルヴァのいうことはもっともだし、フィーとエステルもいるのだから変なことはされないだろう。と考えて許可した。
そもそも、許可しなくても、わたしが寝ている間に部屋に入り込まれそうだし。
だけど、許可したことを早くも後悔していた。
シルヴァが持ち込んだベッドは、わたしのベッドと距離をとった所に平行に並べられていた。問題は、そのベッドに横になり、片肘をついてニコニコと笑顔でこちらをじーっと見つめてくること。
気になって眠れないよ!
ベッドに入って30分ほど経ったとき、我慢できなくなってとうとう言った。
「シルヴァ。お願いだから、わたしが寝るまで向こうを向いていて」
「しかたありませんね」
残念そうにそう言うと、シルヴァはごろりと向きを変えた。いまは広い背中が見えている。
おかげで、安心して睡魔に身を任せることができる。
翌日、目覚めると、ベッド脇に椅子を置いてシルヴァが座っていた。
「おはようございます、セシル様」
シルヴァは、眩しい物でも見るような、嬉しいような、寂しいような、そんな表情をしていた。
「おはよう。シルヴァはよく眠れた?」
「ええ。もちろんです」
室内には、もうエステルもフィーもいなかった。エステルは朝食の用意をしていて、フィーは朝食に生肉を食べているのだろう。
考え事をしていたせいかな。ベッドから起き上がり、床に降りたときに足がもつれた。
倒れそうになったところをシルヴァが抱き留めてくれた。
「くふふっ。今朝は積極的ですね」
「えっ?違う違う。足がもつれたの!」
焦って離れようとしたところを、シルヴァに腕を掴まれて引き留められた。
「寝起き姿も魅力的ですよ」
シルヴァは顔を寄せてくると、耳元にそう囁いた。
言われた言葉のせいなのか、耳元で囁かれたせいなのか、顔がカッと熱くなる。
「おやおや。こんな反応を返してもらえるとは………嬉しいですね」
「!!!」
いつもと違う柔和な表情で微笑むと、シルヴァはわたしをぎゅっと抱き締めた。シルヴァからは、草原の匂いがする。
ほんの1~2秒わたしを抱き締めたあと、ふいにシルヴァは離れた。
コンコンコン
ノックの音が響く。
「セシル様、起きていらっしゃいますか?」
エステルの声だ。
ドアを開けると、エステルが心配そうな顔をしていた。
「シルヴァ様が迎えに行かれたのに、なかなかいらっしゃらないので心配しました。あれ?お顔が赤いですよ。熱でもあるのですか?」
シルヴァのせい、とは言えない。なにがあったか説明しなきゃいけなくなるから。
「う、ううん。ちょっと熱いけど、顔を洗ってさっぱりすれば大丈夫。すぐ下に行くね」
背後では、シルヴァがくふふっと笑っている。
キッと睨みつけると、ニコニコと笑顔を返された。
「そう………ですか?まぁ、シルヴァ様がご一緒なので、なにかあっても大丈夫ですよね」
その信頼感はどこから来るのかな?
なにかあったら………それはシルヴァが原因だと思うのだけど。
ドアがパタンと閉められると、はぁっとため息をついた。
「お疲れですか?」
「シルヴァのせいでねっ!」
睨むも、シルヴァは素知らぬ顔で佇んでいる。
「お返事は待つと申し上げましたが、誘惑をしないと申し上げた覚えはございません」
悪びれたところがひとつもない。
シルヴァは堂々と誘惑宣言をすると、素早くわたしの手を掴み、手の甲にキスをした。
「今日のところは、これで我慢致します」
わたしに叩かれる前にすっと離れ、何事もなかったかのように部屋から出て行った。
………シルヴァは危険過ぎる。わたしがまだ11歳だから手加減しようとか、そんな考えはないように思える。だって、抱き締めたり、キスしたりって言うのは、もっと大人になってからのことでしょう!?
なんなの?なんでわたしなの?わたし、そんなにシルヴァに気に入られるようなことした?
う~~っ!考えてもわからない。
わたしは洗面器で顔を洗い、タオルで顔を拭いてさっぱりした。
よしっ! 考えてもわからないことはしょうがない。いまは忘れて、朝ごはんを食べよう!
ダイニングに降りて行くと、ルー達がいた。
ルーはヴァンパイアだから夜行性なのに、オリヴィエを追うために無理に日中起きて活動しているらしい。だから、とても眠そうに見える。
「おはよう、セシル。よく眠れたかい?」
「おはようございます。よく眠れました。でも、ルーは眠そうですね」
「そうだね。僕らヴァンパイアの体は、日中、起きているようにはできていないからね」
そう言って、ルーは柔らかい笑みを浮かべた。
ヴァンパイア編の終わりが見えて来ました。
ヴァンパイア編が終わったら、一旦、お休みして次の話を書き溜めようと思います。
ではでは。




