136 マジックバッグ作り
「マジックバックに興味があるのか?」
「はい。作りたいんです」
「??単純に欲しいのではなく、作りたいのか?」
ふしぎそうな表情で、首をかしげるルー。
「そうです。魔法の技術を高めることもできるし、自分で作れるようになりたいんです」
「なるほど。そういうことであれば、僕が教えてあげよう」
「えっ?」
びっくりして固まってしまった。
知りたいと思っていた技術を、高等な魔道具の作り方を、こうも簡単に教えると言ってくれるなんて思ってもみなかった。
「なんだ。知りたくないのか?」
そう言われて、慌てて首をブンブン振った。
「知りたいです!」
「そうだろう。なにせ、我が国の秘匿技術だからなぁ」
「そうですよ!それをわかっていらっしゃるのに、人間の娘に教えるだなんて、なにをお考えなのですか!絶対にだめです!」
ロランが止めるのももっともだ。
秘匿技術だと知っていれば、わたしも気安く知りたいなんて言わなかったよ。
「ロラン、おまえもまだまだだな。セシルはただの人間じゃないぞ。悪魔にフェンリル、ツァラを従える娘が、ただの人間であるはずがないだろう。それに、だ。気づかなかったか?人間の匂いとは違う、別の匂いを感じる」
「えっ?ふんふん。たしかに、妙な匂いですね。純粋な人間とは違うようです。でも、それがどうしたんですか。秘匿技術を教えることにはなりませんよ」
「オリヴィエを捕らえる囮になってくれるんだ。マジックバックくらい、安いものじゃないか」
その後、ロランとサシャが止めるのも聞かず、ルーはふたりを押し切って「自分の権限において、情報を教える」と宣言した。そうなれば、もうふたりには止めることはできない。
嬉しいけれど、そこまでする情報なのかと驚いた。本当に教わっていいのかと、不安になってくる。
エステルが夕食の支度をしてくれている間、わたしとシルヴァはルーにマジックバックの作り方講座を受けることになった。
メモを取るのは禁止。この情報がよそへ漏れては困るから当然だよね。
必要な魔法とその手順を、ひとつづつ丁寧に教わった。魔法陣も必要らしい。わたしは魔法陣を使わないので、口で説明されてもピンとこない。代わりに、シルヴァが魔法陣の図柄を覚えてくれた。
教わったことをメモできないというのは、かなり辛い。複雑な行程を丸々覚えないといけないのは大変だった。
ルーが教えてくれたのは、異空間に繋げる方法ではなく、空間拡張する方法だった。それと、時間停止の魔法。簡単に理論と方法を教えてくれたけれど、理解するにはもう何回か聞かないといけない気がした。もう思うと申し訳ない気がしたけれど、楽しくて仕方なかった。
気づけば、説明を受け始めてすでに1時間が経っていた。
「………と、こんな感じだ。今日はここまでにしよう」
ルーが講義の終了を告げた。
それを待っていたエステルが、ご飯支度ができたと呼びに来てくれた。
「ルーも一緒に食べますか?」
ヴァンパイアもご飯を食べるのかな?
「あぁ、頂こう」
ルーが頷くと、ロランとサシャが嬉しそうな声を漏らした。
「じつは、さっきからいい匂いがして気になっていたんです」
「お腹がペコペコだったんですよ」
どうやら、ヴァンパイアもヴァンピーノも、普通に食事ができるらしい。まぁ、そうじゃなかったら人間社会に溶け込めないよね。
ダイニングへ行くと、美味しそうな料理がテーブルに並べられていた。
「申し訳ありません。冷めてしまったものもあるのですが………」
「話が長くなったからね。エステルのせいじゃないよ。どれも美味しそう。用意してくれてありがとう、エステル」
ルーという客がいるからか、エステルははりきってくれたらしい。テーブルを見回してそう思った。
って、ちょっと待って!いまルーの前に置いたステーキ、生じゃないの?お肉の表面だけを強火で焼いた、仲がほとんど生の状態をさすレアじゃなくて。表面もしっかり生の状態の、もはやステーキとは呼べない、ただの生肉だ。
ルーはその生肉をちらりと見て、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「僕は人間が食べるような食事も食べられるけど、やっぱりヴァンパイアだから。こういう血の滴る生肉が好きなんだ」
そう、わたしに説明してくれた。
ルーの食事の作法はとても上品で、生肉を小さく切り分けて食べている様子は絵画を見ているようだった。
そして、ロランとサシャはわたし達と同じ食事だったので、ちょっぴり安心した。
そういえば。ルー達はわたしの匂いが、普通の人間とは違うということを言っていた。イヴェントラの血が流れているせいかもしれない。それなら、オリヴィエにも、わたしが普通の人間じゃないと気づかれるよね?囮として役に立てるのかな?
そのことをルーに聞くと、彼は笑った。
「オリヴィエなら、むしろ人と違うことに食いつくよ。貴重な血だからね。かく言う僕も、君には惹かれている。あ、警戒しなくてもいいよ。僕は恩人に血をくれというほど恥知らずじゃない」
「恩人?」
「傷ついていた所を助けてくれただろう?恩人だよ」




