133 ヴァンパイアとは
「シルヴァは、ルーを知っているんだよね?どういう関係なの?」
「面識はありました。しかし、私が存じあげているのは母親のレオナール・ギュスターヴの方です。彼女は、私を召喚したことがあるのです」
ええぇぇっ!
「べつに、戦争をしようとしていたわけではありません。ただ、研究対象として悪魔召喚をしたそうです。しかし、興味深い日々でした」
シルヴァは、遠い目をして教えてくれた。悪魔の生体を調べるため、丁寧な研究が行われたこと。魔王レオナール・ギュスターヴの態度が優しく、かつ毅然として美しかったこと。そして逆に、ヴァンパイアとヴァンピーノの研究をさせてもらえたことなどだ。
「その研究の過程で、日光を防ぐ魔石を開発致しました」
なるほど。
「しかし、あの魔石は所有者の魔力を大量に使用するため、使用者が弱体化するという難点がありました。まだ、解決していないようですね」
そっか。ヴァンパイアは力ある種族なのに、人間に傷つけられたということは、それだけ弱っていたということだよね。
「ルーでさえあの有様では、下級のヴァンパイアなど、日光の下では役に立たないでしょう」
ルーは人を探していると言っていたよね。もしかして、他のヴァンパイアでは日中活動できないから、能力の高いルーが選ばれたということかな。魔王の息子なんだもの。きっと、色々と能力が高いはず。
「ところで。ニキには報告しないでよいのですか」
そうだった!すっかり忘れていたよ。
手紙を書いて、フィーの足に結び付けた。
「とうさまに知らせて。お願いね、フィー」
「任せてよ、ママ」
そう言うと、フィーは空高く舞い上がって行った。
夕方になってから、ようやくルー達は居間に降りてきた。
ルーは、宝石のように輝く赤い目をしていた。
ロランとサシャは、金色の目のままだ。
「遅くなってすまない。おかげで、よく休むことができた」
そう言って笑ったルーの顔は陶器のように白く、美しかった。改めて見ても、人形みたいに綺麗だと思う。
ロランとサシャは、もう少し人間味を感じさせる。ぬくもりがあるというか。顔の造りはふたりとも綺麗だけど、雰囲気が柔らかいの。
「目の色が、さっきとは違うんですね」
「あぁ。これは、コンタクトレンズと言って、目に色のついたガラスを入れていたんだ。赤い瞳だと、すぐヴァンパイアだとバレてしまうからね。これも、シルヴァが開発してくれたんだよ」
そっか。シルヴァがヴァンパイアの役に立っているんだね。
「さて。改めて自己紹介させてもらおう。僕は魔王レオナール・ギュスターヴの息子、シャルル・ギュスターヴだ。裏切者を追って、ここまでやってきた。裏切者の名はオリヴィエ・ギュスターヴ。僕の兄だ。オリヴィエは罪を犯し、逃亡した卑怯者だ。僕は、一族の名誉にかけてオリヴィエを抹殺しなければならない」
悲壮な決意を固めて、ルーはそう言った。
兄弟を殺さないといけないなんて、どんな気持ちなんだろう?悲しい?悔しい?切ない?きっと、言葉にならないだろうな………。
「僕のお供は、ロランとサシャだ。ふたりとも、見てのとおりヴァンピーノだ」
いやいや、見た目だけじゃヴァンピーノだとわからないよ。ふたりとも、見た目は人間と変わらない。ロランは黒い髪に緑がかった金色の瞳、サシャ黒い髪に赤みがかった金色の瞳をしている。見た目の年齢は、ふたりとも17~18歳くらいだ。ルーに合わせて、若いふたりを護衛としてつけたのかな。
服装は3人ともハンター装備で、ルーが魔術師、ロランとサシャが剣士に見える。
「ところで、オリヴィエはどんな罪を犯したのですか?」
「タンク殺しだ」
「タンク殺し??」
「僕らは、血の提供者をタンクと呼ぶんだ。血を提供してもらう代わりに、僕らヴァンパイアは対価を支払う。それはお金だったり、仕事だったり、身の安全だったり様々だ。ヴァンパイアとタンクは協力関係にあり、タンクは尊重しなければならない存在だ。なにしろ、僕らにとってなくてはならない血を提供してくれるんだからね」
呼び方はともかく、タンクは大切に思われているみたいね。
「ところが、オリヴィエはタンクを10人も殺した。被害者はまだ年端もいかぬ幼い子供ばかりだ。家族は貧しい者ばかりで、わずかな金を掴まされて、身売りしたものと思い黙っていたらしい」
そこまでしゃべって、ルーはため息をついた。
「オリヴィエの好みは子供だ。特に見目の良い者を好んだ。見た目の優劣など、血の味に関係ないというのに。そして、歯止めが効かなくなったオリヴィエは、とうとう手を出してはならない相手にまで触手を伸ばした。魔王専属のタンクに手を出し、殺してしまった。これは、許されざることだ」
10人も子供を殺している時点で、許されないと思うけれど。
「魔王専属のタンクは、魔王以外は手を触れてはならない存在なんだ。それを、血を吸うだけでも許されぬことなのに、オリヴィエはタンクを殺してしまった。これは魔王に対する反逆だ」
なるほど。それで裏切者、というわけか。
「そして、オリヴィエに次ぐ力を持つ僕が追跡者に選ばれたというわけだ。オリヴィエを見つけ、その息の根を絶つ。それが僕の使命だ」




