131 シャルル・ギュスターヴ
「それは、大昔の話です。いまは魔道具を利用して、日中でも平気で出歩いていますよ」
「どんな魔道具なの?」
「一見するとアクセサリーに見えますが、日光が皮膚に触れるのを防ぐ効果があります。そうですね………ブレスレット、チョーカー、ネックレス、ピアスに指輪と、様々ですよ」
「そのアクセサリーを外したら、太陽の下を歩けないってことね」
「そうです」
難しいね。アクセサリーを身に着けている人なんて大勢いるもの。その中からヴァンパイアを見つけなきゃいけないなんて、大変な作業だよ。
そうだ!
「………被害者は、女性ばかりなんでしょう?ということは、ヴァンパイアだ男だよね?」
「そうですね。男のヴァンパイアは女性を襲いますからね」
「じゃあ、わたしが囮になれないから?」
「さぁ、それはどうでしょう」
あれ、てっきり止められると思っていたのに。この反応からすると、反対じゃないのかな?
「ヴァンパイアには好みというものがございます。まだ、被害者の共通点が女性ということ以外わかっていない状況では、囮にはなりようもない、ということでございます」
なるほどね。
「じゃあ、シルヴァの鼻を頼りに探してみようか」
「かしこまりました」
そうして出発したはいいものの、これだけ大きな街で探し人がそう簡単に見つかるはずもない。あてもなく街の中をあちこち歩いているうちに、気づけば、シルヴァ達とはぐれていた。
そこで、フィーを飛ばして居場所を知らせようとしたとき、建物の陰でうずくまる人影を見つけた。
「フィー、シルヴァ達にこの場所を伝えて。わたしは、あの人の様子を見てくる!」
フィーを片腕に乗らせて大きく掲げると、フィーは風を掴んであっという間に空の高いところまで登って行った。これで、シルヴァ達はすぐわたしに気づくだろう。
わたしは、人影に駆け寄って驚いた。怪我をして、荒い息をしている。手が血まみれだった。なにかを握っている。誰かに奪われないよう、争っていたのかもしれない。その人物は、まだ子供のようだった。小柄で、線が細くて、マントから華奢な手が覗いている。フードに隠れて、顔は見えなかった。
すぐに回復魔法をかけた。
すると、手の傷は癒えたけれど、荒い息は収まらない。苦しそうにしている。
「………っ!」
「えっ、なに?」
フードを目深にかぶっているせいか、声がこもって聞こえない。
少しでも聞き取ろうと身を乗り出すと、突然抱きつかれた。
どんっ!
思わず押し返すと、相手は壁にぶつかって力なくくずおれた。
あぁ、つい力加減を間違えてしまったらしい。
慌てて近づくと、フードが脱げていて、初めて顔を見ることができた。
金色の髪が柔らかく顔を縁取り、肩に垂れていた。肌の色は青白く、生気がない。女の子のように美しいけれど、わたしには男の子だとわかる。年はわたしと同じくらいかな?
そのとき、握っていた手からなにかがこぼれ落ちた。血のように真っ赤な石だった。見る人が見ればわかる。これは宝石じゃない。魔石だ。でも、どうしてこんな大きな魔石を、こんな子供が持っているんだろう?
怪我をしていたのは、盗賊にでも狙われたのかな?
「ルー様!」
「セシル様!」
呼びかける声に顔を上げると、シルヴァと見慣れない男性が走って来るところだった。
シルヴァはわたしを抱き上げて、倒れていてる少年から距離をとった。
見慣れない男性は少年に駆け寄ると抱き起こし、懐から小さいビンを取り出して少年の口にあてがった。
ビンから赤いなにかが少年の口に流れ込むと、少年は目をうっすらと開いた。金色の、美しい瞳をしていた。
ビンの中身をすべて飲み干すと、少年はおぼつかない足取りながら、ようやく立ち上がった。
「ルー様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。下がれ、ロラン」
少年が命令すると、男性は少年の後ろに下がった。
そして、少年はわたしの前までやって来ると、優雅にお辞儀をした。まるで、貴族のようなお辞儀だった。
「僕はシャ………」
「いけません殿下!」
少年がなにか言いかけたとき、男性が慌てて止めた。
けれど、少年に睨まれて黙った。
「非礼を詫びるのだ。邪魔をするな」
その気配は、気迫に満ちていた。
「失礼いたしました」
睨まれた男性………ロランの額には、脂汗が浮いている。
「僕は………」
「シャルル・ギュスターヴですね」
少年の言葉を、シルヴァが遮った。
「どうしてそれを?………そうか。あなたはシルヴァですね?お久しぶりです」
少年シャルル・ギュスターヴは不思議そうに首をかしげていたものの、思い出した!というふうににっこり笑った。その口元に、ちらりと牙が覗く。
あれ?もしかして………ヴァンパイア?
シルヴァをちらりと見ると、小さく頷いた。
「セシル様、こちらはシャルル・ギュスターヴ。東のレオナール・ギュスターヴの息子です」
「えっ?それって………」
アステラ大陸の東じゃなくて、魔大陸の東という意味だよね?東の魔王レオナール・ギュスターヴの息子っていうこと!?




