129 ヴァンパイアの疑い3
クロード達はハンターギルドで訓練があるので、わたしとシルヴァ、エステル、そしてフィーの3人と1匹で街の中をうろつくことになった。
貴族向けの高級商店街から、平民向けの一般商店街を散策し、市場を巡った。そのあいだ中、シルヴァは人々の注目を集めていた。チラチラと探るような視線、堂々と見つめてくる視線、コソコソと疑うような視線と、様々な視線が見つめて来た。
いったい、どこまで噂が広がっているんだろう?
多くの視線は、シルヴァが日差しを避けることなく堂々として、にこやかにしている姿を見てほっとしているようだった。
「あれ見て。あんな素敵な人がヴァンパイアなわけがないわ。それに、牙もないし、目だって赤くないもの。絶対に人間よ」
ひそひそと囁く声が聞こえて来た。
シルヴァを見て、好意的な意見を言っている人がいれば、シルヴァは立ち止まって愛想を振りまいた。
「こんにちは、お嬢さん方。私になにか御用ですか?」
シルヴァが話しかけると、大抵の女性は顔を赤くしたり、甲高い悲鳴を上げたりした。シルヴァは容姿端麗で、声もいいからね。
「あ、あの!お名前を聞いてもいいですか?」
その一言で、騒がしかった周囲の音が止んだ。皆、聞き耳を立てているのだ。
「もちろんです。私はシルヴァと申します」
「きゃー、素敵なお名前!」
「あなた方も素敵ですよ」
お世辞もさらりと言えてしまうんだね。
相手の女性達は、頬を赤くしたり、きゃーきゃー言い合ったり楽しそうだ。
「ところで、その恰好………シルヴァ様はハンターなのですか?」
「ええ。そうですよ。こちらのセシル様に誘われましてね、いまはEランクの魔法剣士として働いております」
えっ、わたしが誘ったんだっけ?そう………だっけ?う~ん、誘ったとも言えなくはない、のかな?
「なにか依頼がありましたら、お気軽にハンターギルドまでお越しください」
「それって………!デートの誘いでもいいんですか?きゃっ、言っちゃった!」
「くふふっ。時間が合えば、ね」
ハンターには個人やチームを指名した指名依頼というものがある。彼女がシルヴァを使命して、たとえば護衛依頼をしたとすると、実質デートだとしても、その依頼を受けることができる。というか、指名依頼を受けないというのはハンターとしての評価にも繋がるので、よほどのことがないかぎり断ることはしないほうがいい。
つまり、彼女達が指名依頼をしてきたら、シルヴァはそれを受けないといけない。ということ。
個人で護衛を雇うには高いけれど、複数の女性がお金を出し合うなら、ひとりの持ち分は少なくていい。
彼女達は、本気でシルヴァを雇う相談を始めてしまった。
「護衛の相場っていくらかしら?」
「他の方はいいわ。シルヴァ様だけ雇うにはどうしたらいいのかしら?」
「ふふふっ。1日中一緒にいられるなんて楽しみだわ」
ハンターの使い方としては間違っているけれど、依頼があれば受ける。それもハンターとしての仕事だ。
それに、シルヴァならひとりにしても大丈夫。うまくやってくれるだろう。
「ねえシルヴァ。日も暮れて来たし、そろそろ帰ろうよ」
シルヴァがヴァンパイアではないことの宣伝も、もう十分だと思う。
「かしこまりました、セシル様」
「セシル様、お疲れでしょう?今日の夕食は手の込んだ物にしましょうか?」
エステルがにこやかに話しかけて来た。
わたしが2人にかしずかれている様子を見て、周囲がざわめく。見た目はハンターだけれど、どこかのお嬢様なのか?と。
「あの装備、よくわからないけどお金かかってそうよね」
「あんな綺麗な鎧見たことないわ」
「剣だって、あれ高級品よ」
「「「シルヴァ様がお仕えする、どこかのお嬢様なのかしら?」」」
う~ん。たしかに、わたしはジェイミー・オルランディ伯爵の娘だから、伯爵令嬢になるけれど。これは大っぴらにできない事実だし、お嬢様扱いは居心地が悪い。
シルヴァもエステルも、クロード達までわたしに仕えようとするけれど、わたしは誰かにかしずかれるほど立派な人間じゃないもの。かしずかれるたびに、くすぐったいような、申し訳ないような、落ち着かない気持ちになる。
「セシル様、参りましょう」
「あっ、うん」
シルヴァがわたしの背中に手を当てて、そっと押した。
わたしはそのまま歩き出し、一歩下がった場所をシルヴァとエステルがついて来た。
家に帰るとすでにクロード達が帰っていて、夕食の準備をしていた。
「あっ、私もやりますね」
気づいたエステルが、すぐに台所に入って行った。
「ねえロイ、とうさまを知らない?」
「はい、知ってます。ニキ様なら、お風呂に入ってますよ」
「そっか。ありがとう!」
とうさま、帰ってるんだ。良かった。
挨拶をしようとお風呂へ行くと、浴室から水の音が聞こえた。
「とうさまいる?」
「あぁ。どうかしたか」
「昨日から会っていなかったから………挨拶しておこうと思って」
「そうか」
低く満足そうに笑う声が聞こえた。




