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126 クロードの恋愛指南

「公爵級です」

 とうさまはあっさり白状した。

 そもそも、そこまで隠し立てするつもりがなかったからだ。ただ、ちょっとばかり国王陛下をからかっていたんだ。  

 開いた口が塞がらない。とはこのことか。と、国王陛下と王子達を見ながら思った。

「ど………どうやって手懐けたのだ」

「ですから。昨日申し上げたとおり、勝手に出て、勝手にセシルと契約を結びました。以上です」

 

 いやいやいや!


 とうさま、もう少し説明してあげようよ?

「わたしがエ・ルヴァスティ領で平和の祈りを捧げたら、その祈りに答えたのがシルヴァだったんです。ですから、わざと悪魔召喚をしたわけではありません」

「その話がまことなら、一大事だぞ。悪魔が召喚なしこの世界に現れたとなると………悪魔は、自由に悪魔界とこの世界とを自由に行き来できるようになったいうことか?」

 国王陛下の問いに答えたのは、さっき窓から外へ飛び立ったシルヴァだった。

「いえ、違います。一応、召喚の体をとっていますし、あれは私だからできたこと。並みの悪魔にできることではございません」

「シルヴァ、もう戻って来たの!?」

 その肩には、レイヴが担がれている。

 シルヴァはレイヴをどさりと床に転がすと、ニッコリ微笑んだ。

「私が長らくセシル様と離れるわけがありません」

 いや、長らくってほど離れてなかったけどね。


「エステルはどうしたの?」

「留守番させております」

 そっか。ひとりにさせて、文句言ってないかな?

「シルヴァどの、あなたに尋ねたいことがある。いいだろうか?」

 ハンス第一王子が丁寧に質問してきた。

 カロルス第二王子は、床に転がっているレイヴに興味津々だ。

「なんでしょう?」

「なぜ、あなたのような大悪魔が、一介のハンターである少女に仕えているのか?」

「くふふっ。それはですね………」

 あれ、嫌な予感がする。

「それはですね………」

「ちょっと待って!」

 シルヴァの袖に掴まり、プロポーズされたことは言わないで!と目で必死に訴えた。


「………このように、私に懐いてくれているからです」

 シルヴァは意味ありげにわたしを見て、ニッコリ微笑んだ。

 良かった。「お慕い申し上げております」とか言われたら、どうしようかと思った。

「麗しの我が君にお仕えできて、私は幸せです」

「そ、そうか………」

 なにかを察したらしいハンス第一王子が、苦い笑みを浮かべた。

「セシルは本当にすごいな!悪魔にレットドラゴン、フェンリルまでしもべにしたのだろう?」

 カロルス第二王子が無邪気に笑う。

「殿下、皆わたしの大切な仲間です。しもべではありません」

 悲しい気持ちになって、そう告げた。

「だが、さきほどそこの悪魔が、セシルに仕えていると………もがっ」

 カロルス第二王子がハンス第一王子に口を塞がれてもがいた。

 さすがにハンス第一王子は妻や子がいるだけあって、相手の感情に敏感だ。

 甘やかされたカロルス第二王子とは大違いだ。


「さて。それでは、レイヴはこちらで預かる。それでいいかね?」

 国王陛下が、さらりと話題を元に戻した。

 ハンプス国王陛下なら信用できる。だから、色々と話したのだし。レイヴを任せても大丈夫だと思う。それでも、離れて暮らすのは寂しく感じた。

「レイヴには専任の魔法医をつけて、様子を見守ることにしよう。丁重に保護させてもらうよ。しかし、観察した情報はこちらでもらう。それでかまわんね?」

 いくら人の良い国王陛下とはいえ、タダでレイヴの面倒を見てくれるわけがないよね。

「それでいい。まだ雪が残っているとは思うが、春になれば俺達はクレーデルへ向けて発つ。それまでの間、レイヴをよろしく頼みます」

 そう言って、とうさまは頭を下げた。レイヴを大事に思っている証拠だ。

 なんだか、嬉しくなった。


 レイヴは外にいた騎士達に冬眠中の半獣人だと説明された。ひんやりと冷たかったことから、その説明は疑われなかった。王都オーシルドには獣人も多く、獣人に慣れていたこともあるんだと思う。

 ひとりの騎士がレイヴを背負い、もうひとりが護衛として客間へ去って行った。

 そして国王陛下と王子達が退室することになったとき、カロルス第二王子がわたしに目配せしてきた。

 その合図になんの心当たりもなかったわたしは、そっと首を横に振った。

 すると、なぜかカロルス第二王子が立腹したらしく、足音荒く部屋を出て行った。なんだったの。


「セシル様………」

 クロードが呆れた様子で声をかけてきた。

「なに?」

「あれはダメですよ。カロルス王子が哀れです」

「なんで」

「いいですか。次にカロルス王子が合図をしてきたら、ニッコリ微笑んでください」

「なんで!」

 意味がわからない。どうして目配せされたからって、微笑まなきゃいけないの?そもそも、目配せや合図に気づかなかったらどうするの?


「どうして微笑まなきゃいけないの?頷くのは?」

「ダメです。合意したと見做されます。それはまずいです」

 頭が混乱してきた。

「それじゃあ、セシル様にもわかるように説明しますね」

 初めからそうしてよ。

「カロルス王子は、セシル様のことを気に入っています。これはわかりますね?」

 それはなんとなく気づいていた。

「しかし、カロルス王子はあまり積極的に行動するのは苦手のよう。そこで、ひっそりと合図を出すことにしたのでしょう」

 ふむふむ。

「これは、「あなたが好きです」の合図です。頷けば、「わたしも好き」ということになります」

 ええっ!

「しかし、「微笑み」は好意を示すものの、それがどういう種類の好意かはわからない。カロルス王子の面子を潰さず、セシル様の身を守れます。完璧です」


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