125 王宮訪問3
「今日は、息子達にも話を聞かせようと連れて来た。かまわんだろう?」
重要な話は、すでに昨日、話してある。
今頃、王子達を連れて来たのはどういうわけだろう?
「ええ。かまいません」
とうさまが返事をすると、国王陛下は満足そうに頷いた。
ところが、クロードを見た瞬間、顔色が変わった。
「アーカート王!?」
「この者はクロード。元ア・ッカネン国の諜報員だった者です」
「いや、そうだろう。ア・ッカネン国の王が、こんな所にいるはずがないからな。しかし、よく似ている。実際に会ったことはないが、肖像画で知るアーカート王にそっくりだ」
「確かに、父上のおっしゃる通りです。面影だけでなく、目元などもよく似ている」
「ア・ッカネン国の者は、みな似ているのでしょうか」
それから、お互いに席についたあと、改めてクロード、レギー、ロイの3人を紹介した。
「ふうむ。『虹の旅人』の話は、わしも報告を受けておる。今朝、アインス教皇から書簡を受け取ったばかりだ」
早馬を使ったのかな?そうじゃなかったら、ル・スウェル国の王都からこのオ・フェリス国の王宮まで、この短時間で書簡を届けることはできないよね。
「ル・スウェル国の王都での騒動のあと、クロード達3人の身柄を引き取りました」
「そのようだな。だが、よいのか?寝首をかかれることにはならんか?」
「「「!!」」」
そう言われては、クロード達も黙ってはいられない。
「俺はセシル様に忠誠を捧げております。盾となることはあっても、命を脅かすことなど決してありません」
「俺もです。セシル様には命を救われました。決して裏切りません」
「セシル様は僕の女神様です。こんな方は他にはいません」
えええぇぇぇ~~~!!
クロードどころか、レギーとロイまでわたしに忠誠を誓っているようなんだけど………女神って………。
「そ、そうか。それならよい」
3人の剣幕に押された国王陛下は、ただ頷いた。
「はははっ。セシルは人気が高いな。カロルス、早くしないと誰かにセシルを取られるぞ」
「兄上!その話はおやめください!」
言いながら、カロルス第二王子はチラチラとわたしを見てくる。
あー、うん。そういうこと?
でも、申し訳ないけれど、わたしはまだ誰とも結婚する気はないの。
「それで、国王陛下。昨日申し上げたレイヴですが、今日は連れてくることができません」
2人の王子を無視して、国王陛下に話しかけた。
「なぜだ?具合でも悪いのか?」
「はい。王都オーシルドの気候が耐えられなかったらしく、冬眠中なのです」
「なんと。レイヴとやらは、獣人なのか?」
「いえ。レットドラゴンです」
はああぁぁぁ~~!?
「火山帯に住むというレットドラゴンを、この王都へ連れて来たのか!?」
あ、国王陛下はレイヴの心配をしてくれるんだね。ありがたいなぁ。
「レイヴはセシルに懐いていて、離れるのを嫌がったのでしかたなく」
クレーデルにいてくれたら、冬眠なんてしなくてよかったのかもしれないのにね。わたし達をクレーデル領主館から王都オーシルドまで運んでくれたあと、クレーデルへ戻っていれば………こんなことにはならなかったかもしれない。今さらだけれど、それが悔やまれるよ。
「いま、レイヴはひとりなのか?貴重な種を狙った者達に、攫われるかもしれん。春になるまで王宮で預かろうか?」
「兄上、それはいい案ですね!ニキ、どうだ?今日にでも、レイヴを王宮に連れて来るというのは?」
そうか。レイヴが狙われるというのは考えてもみなかった。
獣人だって愛玩目的で攫われたりするのに、冬眠中のレットドラゴンが狙われないわけがない。
急に家のことが心配になってきた。
「シルヴァ、家に帰ってレイヴを守ってくれる?」
「仰せとあらば」
シルヴァは優雅にお辞儀をして、窓から外に出た。
「「「えっ?」」」
一瞬、ポカーンとした顔をする国王陛下と王子達。
えええぇぇぇ~~~!!
空をとんでもないスピードで飛んで行くシルヴァを見て、国王陛下と王子達は叫び声を上げた。
その直後、部屋に駆け込んできた騎士達は、特に以上がないことを確認して部屋を出て行った。
シルヴァは空を飛べる。それは薄々わかっていた。でも、あんなスピードを出せるなんて聞いてないよ!?
もう、窓からその姿が見えなくなっていた。
平静を装いながら、わたしは内心ドキドキだった。
だって、普段はニコニコと笑顔を絶やさないシルヴァが、本当に悪魔なんだということを、その力の片鱗を見せつけられたんだから。
ハンターギルドの訓練場で行った昇格試験だって、かなり手を抜いていたんだろうなぁ。そうじゃなきゃ、わたしはあの一撃で死んでいてもおかしくない。
「………と、シルヴァは御覧のとおり空が飛べる悪魔です」
とうさまがしれっと言った。
昨日は、シルヴァのことをきちんと悪魔として紹介している。公爵級であることを明かさなかっただけで。嘘はついていない。
「下級悪魔とばかり思っていたが、どうやら違うようだな?言え!上級悪魔なのだろう!?」
「シルヴァは上級悪魔ではありません」
うん。もっと上だよね。
「ぐぬぬっ。わしに隠し事とはいい度胸だのう。言わねば、セシルとカロルスを結婚させるぞ!」
なに!?その脅し!!




