124 王宮訪問2
わたしを休ませるために、シルヴァはわざとあんなことをしたのかな。
シルヴァが言うように、疲れていたらしい。
ぼんやりした頭で考えているうちに、眠りに落ちた。
目が覚めたのは、お昼近くなってから。すっかり眠気がなくなり、全身にエネルギーが溢れている感じがする。
それに。お腹が空いた。
居間に降りて行くと、全員の視線がわたしに集中した。
「セシル様!もうお体は大丈夫なのですか?なかなか起きて来られないから心配しました」
「心配かけてごめんね。徹夜で行動したから疲れていたみたい。もう大丈夫だよ」
「………セシル、ご飯を食べるか?」
「うん。とうさま」
「それでは、すぐにご用意いたします」
とうさまに答えたのに、シルヴァが返事をして台所へ消えた。
とっとっと
フィーが鳥らしく跳ねるようにやってきて、わたしをつぶらな瞳で見上げた。
「ママ!僕が、ママの魔力を食べ過ぎたから疲れちゃったの?」
「違うよ。長い間起きていたから、たくさん眠りたくなったの。フィーのせいじゃないよ」
頭を撫でると、フィーは首を傾げて目を細めた。気持ちいいらしい。
「セシル様、無理は禁物ですよ。自分では平気だと思っていても、疲れが溜まっていることがありますからね」
「うん。クロード、わかってるよ」
昼食は、柔らかく煮込んだ牛肉の煮込みとサラダだった。
葉物野菜は高いのに、わたしのためにわざわざ用意してくれたのかな。
牛肉も、噛まなくても口の中で解けていくほど柔らかいし。
わたしのための料理だと思うと、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
これからは、自己管理をもっと気を付けよう。
それから、シルヴァも!!あんなことするなんて思わなかったよ!
キッとシルヴァを睨むと、満足そうな笑顔で返された。
「料理は美味しいですか?私が作ったのですよ」
「えっ!?」
この手間のかかる料理をシルヴァが??そこまでわたしのことを気にかけてくれたの?
………困ったな。シルヴァの気持ちに答えることはできないのに。
でも、料理に罪はない。美味しいからいっぱい食べておこう。
わたしの食べっぷりに、皆、満足そうにしていた。
「クロード、王宮まで行ってくれるか?片付けをしたら、俺達も行く」
ふいにとうさまがクロードに告げた。
「あっ、わかりました。先ぶれってわけですね」
クロードが頷いて、着替えのため自分達の部屋へ戻って行った。
クロードとレギー、ロイは3人で1つの部屋を使っているの。仲がいいんだよ。
そして、クロードは持っている中で一番綺麗な服に着替えると、王宮目指して飛ぶように駆けて行った。
「いつも思うんだけど、クロードがあんな綺麗な恰好をしていたら貴族みたいに見えるよ」
「そうだな、ロイ。俺もそう思うよ。本当は貴族………ア・ッカネン王家の一員なんじゃないかってさ」
レギーとロイがなにか話していたけれど、食器を片付ける音にかき消されてあまり聞こえなかった。
家の片付けも済み、王宮へ出発することになったけれど。冬眠中のレイヴをひとりにするのは気がかりだった。そこで、今度はエステルが留守番をすることに。
「お任せください。しっかりと留守をお守りいたします」
「お願いね」
エステルの代わりに、レギーとロイを連れて行くことを告げると、2人は緊張に震えた。
「王宮なんて、初めてです!」
「こんな恰好でいいのかな?」
「大丈夫。ハンプス国王陛下は、身なりなんか気にしない、心の広いお方だから」
そう言ったけれど、2人は心配そうにしていた。
実際にお会いすれば、国王陛下の人柄に触れれば、お優しい人だとわかるんだけどな。
子供の頃から厳しい環境で育てられたレギー達は、立場が上の者に怯えるところがある。少しづつ、直していければいいな。
王宮へ行くと、入口にクロードが立っていた。わたし達を待っていてくれたみたい。
「お待ちしておりました!こちらへどうぞ。ご案内いたします」
クロードではなく、同じく入口で待っていた騎士が言った。
通されたのは、昨日より広い部屋。
昨日と違って、国王陛下は誰か連れて来るつもりなのかもしれない。
「国王陛下がお出でです」
声をかけられて立ち上がるとうさまとわたし。シルヴァ達は、元々立っていたからね。「従者が主の前で座るわけにはいきません」とか言っていたな。
そういえば。家でも食事のとき以外は皆の座っている姿を見ないかも。もしかして、そういうことなの!?
ひとりビックリしていると、国王陛下のあとについてやって来た人が目に入った。ハンス第一王子に、カロルス第二王子だ。イルネス第一王女はいない。
ハンス第一王子は32歳。もう、いつ王位を継いでも大丈夫なように帝王学を叩きこまれている。
イルネス第一王女は30歳。すでにル・スウェル国に嫁いでいて、子供も産んでいる。
そして、カロルス第二王子は15歳。成人したばかりだ。まだ若く、やんちゃなところがある。ハンス第一王子に子供が生まれていて、次の世代も安泰と言われていて、本来は第一王子のスペアとして扱われるカロルス第二王子はかなりの自由を認められている。




