123 シルヴァのいたずら
「ええい!この際、わしに隠していたことを洗いざらい吐いてもらおうか!」
国王陛下はお年のわりに気が若い。そして頭の回転が早く、理解も早い。厳しいところもあるけれど、それは為政者としては当然で、気に入った者にはできるかぎりの融通をしてくれたりもする。
国王陛下はとうさまを気に入っていて、王都にいた頃は何度も王宮に招待しては、ハンターとしての仕事の話や街での話などを興味深く聞いていた。
わたしも、何度かとうさまと王宮に出入りしていたので、王宮の人達はわたし達のことを覚えている。
感情豊かな国王陛下は、とうさまの説明に「ほうほう。なるほどのぉ」「そんなことが!」などと相槌を打っている。特に、レ・スタット国で悪魔召喚の邪魔をした話と、ネスとガイムが進化した話に興味を持ったようだ。
とうさまは、わたしがフィーの卵を見つけて育てた話、今回の旅の話をかいつまんで国王陛下に説明した。全部話していたら、長くなってしまうからね。
一通り話し終わったとき、外はすでに暗くなっていた。
国王陛下が泊まっていくよう提案してくれたけれど、レイヴのことが心配なので断った。
「ん?レイヴだと?ちょっと待て。その者の説明はなかったぞ!」
国王陛下、激昂。
「まだ、わしに話していないことがあるだろう?」
おおっ、笑顔で怒ってる!
「明日も王宮へ来い!」
「明日は、残りの者も連れてきます」
「必ずだぞ!」
国王陛下に見送られて、王宮をあとにした。
「やれやれ。あの爺さんはいつ死ぬんだ」
とんでもないことを言い出すとうさま。不敬罪で首を切られるよ。
「そんなこと言って。とうさま、国王陛下と話してるときは楽しそうだよ?」
「俺が!?」
あまりにびっくりしたのか、とうさまは呆然とした。
「とうさまと国王陛下は、まるで親子みたいに仲がいいよね」
「親子?セシルには、そんな風に見えたのか?」
「うん」
「そうか」
なんだが、とうさまが照れくさそうに見えた。気のせいかもしれないけどね。
家に帰ると、レイヴが居間の暖炉の前に寝かされていた。家中で、ここが一番暖かいの。そっと頬に触ると、ひんやりして冷たかった。
「………本当に、春になったら起きるのかな?」
「こいつ、寝てるだけ。暖かくなったら起きるよ」
「えっ。フィー、わかるの?」
「えっへん!僕にはちゃーんとわかるよ。冬眠っていうのは、体温を下げて寝て過ごすことを言うんだよ」
そうなんだ。知らなかった。
「ご心配いりません。ただの冬眠ですから、春になれば目覚めますよ」
うん。わかったよ、シルヴァ。
昨日は寝ずに過ごしたから疲れた。
夕食のときから頭がうつらうつらしていて、ベッドに潜り込むとすぐに眠りに落ちた。
朝目覚めると、いつも腰に巻きついていたレイヴの腕がなかった。冬眠しているんだからあたりまえだけれど、なんだか寂しく感じた。
「おはようございます、セシル様」
「あ、おはようシルヴァ」
眠い目をこすりながら答えると、シルヴァが「ふふふっ」と笑った。
いつもは「くふふっ」となにか企んでいるような笑い方をするのに。珍しい。
「フィーなら、すでに起きて朝ごはんを食べていますよ」
「えっ?フィーがご飯を食べているの?」
フィーは、周囲の魔素や、魔力を吸収して成長するとばかり思っていた。
「ええ。フィーは食事をしなくても生きていけますが、楽しむために食事をするのですよ。私もそうです」
なるほど。
悪魔も食事を必要としないんだ。
「それより、まだお疲れの様子。もう少し休んではいかがですか?」
「えっ?よく寝たし、もう大丈夫だよ。それより、お腹が空いたからご飯を食べに行こうよ」
「そうですか。もう少しセシル様とふたりきりで過ごせるかと思いましたが………残念です」
そう言って、シルヴァは悲しそうな顔をした。
「えっ」
ふいにシルヴァにプロポーズされた記憶が蘇り、顔が赤くなった。
慌ててベッドを降り、ベッド脇の洗面器で顔を洗った。
タオルを探して手を伸ばすと、誰かの手に触れた。
「えっ、なに!?」
濡れた顔を上げると、シルヴァがにっこり微笑んでいた。
「くふふっ。慌てたセシル様も可愛らしいですね」
「ふぇえっ。なに言ってるの!?」
「さあ、お顔が濡れたままですよ。私が拭いて差し上げましょう」
「えっ、いいよ!ぐえっ」
逃げようとしたところをシルヴァに捕まえられた。
片手で腰をがっちり捕まえられ、もう片方の手ではれ物に触るように優しく顔を拭かれた。
それにしても………。
「顔!顔が近いよ!シルヴァ!」
なにしてるの!?
両手で顔を隠すと、手の甲にキスをされた。
ますます顔が赤くなる。
膝の力が抜けてしまった。
シルヴァが笑いながらわたしを抱き上げて、そっとベッド寝かせてくれた。
「このまま、おやすみください」
わたしは無言で頷いた。
こんな状態で皆の前に出るなんてできない。
ベッドの上で膝を抱えて丸くなっていると、シルヴァがそっと布団をかけてくれた。




