120 怪鳥ツァラ
とうさまが、「この石をシシュティン山へ置いて来る」と言ったとき、泣いてすがった。でも、とうさまを止められなかった。
そして、夏になるととうさまとわたし、ルオの2人と1匹でシシュティン山へ登り、石に魔力を与えるということを行っていた。
この石は、少しづつ成長していた。見つけたときはわたしの小さな手でも片手で握りしめることができたのに、いまは両手で支えなければいけないほど大きい。
「おや、珍しい。これは怪鳥ツァラの卵ですね」
「えっ、シルヴァ知ってるの?」
びっくりして石………ツァラの卵を落としかけた。危ない、危ない。
「えぇ。ツァラは、翼を広げれば全長10メートルにもなる怪鳥ですが、その卵は石に擬態して周囲の魔素を取り込むながらゆっくり成長するんです。卵から還るまで100年を要することもよくあるとか」
「そんなにゆっくり成長するの!?」
「しかしこれは………孵化しかかっていますね」
「ええっ!そんなことまでわかるの?」
「御覧ください。卵に薄くヒビが入っております。孵化しようとしている証拠です」
なるほど。それじゃあ、いま魔力を与えたら孵化するかな。
「シルヴァ、ツァラはどんな鳥だ。飼いならせるのか?」
そうだね。孵化したとたん、餌と間違えてぱくりっ。と食べられてはたまらない。
「通常、ツァラは単独で行動します。両性のため、番を作る必要がないからです。性格は非常に獰猛で、ドラゴンでさえ食べることもあるとか」
えええぇぇぇ~~~!!
「ただし、これらの話は成鳥の話です。雛の間の生体はわかっていません。ものは試しです。魔力を与えてみましょう」
そう言って、シルヴァはこちらの返事を待たずにツァラの卵に魔力を注いだ。
しかし、ツァラの卵にはなんの変化もなかった。
「おかしいですね。私の魔力を吸収していない。これは一体?」
「俺も試してみたが、だめだった。セシルの魔力だけしか吸収しないんだ」
「なるほど。それでは、セシル様。お願いいたします」
「ちょっと待って!じつは、ツァラの卵の周囲だけ吹雪が吹き荒れてるの。最初は、この吹雪ももっと小さかったんだけど、年々、広がって行ったの。ツァラの卵に関係あるかな?」
獰猛な雛が孵化しては困る。少しでも孵化を先延ばしにしようと、わたしは話を変えた。
「それは、ツァラの卵が自身を守るための防御壁でしょう。なるほど、この卵は用心深いようですね。慎重な性格なのでしょうか?じつに興味深い。さあセシル様。孵化させてください」
話題は、一瞬で戻って来た。
仕方ない。わたしが育てたんだもの。責任をとって食べられ………いやいやいや!そんなわけにはいかない。もし飼いならせないようなら野に放つとか、退治するかの2択になるよね。
今まで大事に育てたけど、だからこそ、害を成す存在だったら、わたしの手で葬る!
悲壮な覚悟をして、卵に魔力を与えた。
ばきばきっ!
石に亀裂が入り、ぱかん!と2つに割れた。
そして現れたのは、卵に収まるくらいの小鳥ではなく、ワシほどもある大きな鳥だった。
「やっと会えたー!ママ!!」
これは………このサイズでも、雛なんだよね?雛は、翼をばたつかせながらその小さな頭をわたしの手に摺り寄せて来た。鳥にしては大きい方だけれど、重さはほとんど感じなかった。
「ねえママ!僕に名前をつけてよ!」
「えっ?名前?う~ん………フィー………フィリアっていうのはどう?」
「いいね!フィーか!僕の名前はフィー=フィリアだぞぉ!」
思ったのと違うけど、気に入ってくれてよかった。
「なにか………想像と違うものが生まれたな」
「くふふっ。おもしろい」
2人とも、興味深そうにフィーを眺めている。
わたしは、フィーがいい子で安心していた。これなら、退治しなくてすむもの。
見ると、卵の内側は七色に輝いていた。まるで宝石のようだ。もしかして。フィーの魔素に染まって、魔鉱石になったのかな。
「ねえシルヴァ。これって、魔鉱石かな?」
シルヴァに卵の内側を見せると、にっこりと頷いた。
「よくお気づきになりましたね。おそらく、そこの岩も魔鉱石に変質しているでしょう。ニキ、持ち帰るといいですよ」
「わかった」
とうさまは、卵の殻と、卵を隠していた岩もマジックバックにしまった。ほんと、便利だね!
そしてフィーは、飛ぶための羽ばたきを始めた。翼を上下させ、バランスを取ろうとしている。生まれたばかりなのに逞しい。
両手を高くフィーを掲げるようにすると、フィーは翼を大きく広げて飛ぶ姿勢に入った。よし!いまだ!
両手をぱっと離すと、フィーの体がふわりと浮かんだ。どうやら、飛行魔法が使えるみたい。
「やった!飛べたよ、ママ!」
フィーはおぼつかない動きながら、ふわふわと飛んでいた。しばらくして飛ぶことに慣れると、空高く飛び上がったり、空中で宙返りしたりと、自由自在に飛べるようになった。
子供の成長って早いんだね。
左腕を内側に曲げて差し出すようにすると、それに気づいたフィーがすーっと静かに飛んできて左腕にとまった。鋭い爪があるのに、掴まれた腕は痛くはなかった。




