12 クラーケン強襲
ばあん!
「大変だ!海からクラーケンが来るぞ!」
突然、島長の家に入って来たのは、漁師の1人。息を切らして、ドア枠にもたれかかっている。全力で走って来たに違いない。汗だくだ。
「「なんだとーーーー!」」
島長とハオさんが叫び、外へ駆けだした。
クラーケンと言えば、海の怪物。巨大なタコやイカをさす言葉。身が締まっていて美味しいの。高級食材だよ。
とうさまと顔を見合わせて、にやりと笑った。
外に出ると、浜の方が騒がしくなっていた。どうやら、ガーラムがいる桟橋ではなく、クラーケンは漁師たちがいる浜に現れたらしい。
「…急ぐぞ」
とうさまに言われて、身体強化の魔法をかけた。これで、飛ぶように走れる。先に走り出した島長達を抜き去り、ほんの一息する間に、砂浜に着いた。
砂浜には、タコ型のクラーケンの群れがいた。合計5匹。ひと際大きなクラーケンが先頭にいて、いろいろな漁具を振り回す漁師達相手に大暴れしていた。もちろん、戦闘経験のない漁師では歯が立たない。弄ばれている。それはいい。いや………よくはないけど、魔物が己の力を誇示することはよくある。問題は、群れで行動する習性のないクラーケンが、群れで人間のいる浜を襲ってきたということ。
…なにか、餌になる魔物を追ってきた?違うな。浜を見回しても、クラーケンの餌になるような大型の魚やカニはいない。じゃあ、人間を襲いに来た?う~ん。クラーケンは人間も食べるからね。
それにしても、こんな大群で行動するクラーケンは見たことがない。人間を襲うために群れたのかな。
「あ、あんた!ハンターだろ。なんとかしてくれ!」
傷だらけの漁師の1人が、とうさまに気づいて声をかけてきた。
「…いくら払う?」
「え?」
とうさまに問われて、ぽかんとする漁師。まさか、この状況でお金を請求されるとは思わなかったのだろう。でも、わたし達はハンターだ。たとえ簡単な討伐といえど、依頼もないのに、そうそう人助けなんてしない。ハンターは慈善事業ではないのだ。
「全財産をやるから、助けてくれ!」
なかばやけくそ気味に叫んだ漁師。そうそう。命に比べれば、お金くらい安いものだよね。
「承知した。行くぞセシル」
「はい!」
「え?」
とうさまの後を追って駆けだしたわたしを見て、驚きの声を上げる漁師。
「えええぇぇ~~~!」
その声を背後に聞きながら、大きくジャンプした。砂浜に足を取られながらグッと踏ん張り、空高く跳躍する。落下する際のスピードに体重を乗せて、クラーケンのボスの頭目がけて拳を叩きこむ。もちろん、そんなものが効くとは思っていない。狙いは、拳を叩きこむと同時に発動させた水の魔法。指先ほどに絞った水流を、超高速で打ち込むの。脳をやられたら、どんな生き物も死ぬ。
ひゅんひゅんっ
剣を抜いたとうさまが、暴れまわる8本の足を切り落とした。タコの足は、切られても動くから危険なんだよ。
どど~ん!
音を立てて倒れるクラーケンのボス。倒れる寸前に頭から飛び去り、とうさまの隣に着地した。
「…しばらくはタコ料理だな」
相変わらずの無表情だけれど、若干、口が歪んでいる。とうさまはタコが好物なの。これでも喜んでいるんだよ。わたしも嬉しい。売れば、良いお金になるもの。
『さて。次は誰だ』
魔物使いのわたしは、クラーケンの言葉も話せる。
『なんだと?今、話しかけてきたのはおまえか?』
ボスを倒されて動揺していたクラーケン達が、わたしに話しかけられてパニックになった。浜に揚げられていた小舟が、次々とクラーケンに叩き潰されて無残な姿となっていく。
『いい加減にしないと、全員、タコ焼きにするわよ』
わたしが言ったのは、火魔法で丸焼きにするという意味だよ。当然ね。
『『『『………』』』』
死の危機を感じて、静まり返るクラーケン達。うんうん。さっきのボスの姿を見たら、わたし達の強さはわかったはずだよね。落ち着いて良かった。
『2度とこの浜を襲わないと誓うなら、見逃してあげる。誓わないなら、今、この場で殺すよ。どうする?』
『誓います!』
『もう人間は襲いません!』
『助けてくれー!』
『人間怖いよ~!』
『よし。なら、見逃してあげる。すぐにこの浜から去りなさい』
『『『『はいいぃぃぃぃ!』』』』
クラーケン達は大急ぎで海に戻って行った。あっけにとられている漁師や、野次馬の島民を残して。
「…もう、大丈夫だ」
「「「おおおぉぉぉ~!」」」
とうさまに言われて、大喜びする人々。
「なんだかよくわからないが、クラーケンが逃げて行った。あんたの強さにビビったのかもな。助かったよ。ありがとう」
さっき、とうさまに助けを求めて来た漁師だ。
「すごかったな。お嬢ちゃんも、戦えるとは思わなかったよ。ハンターってのは、皆あんなに強いのか?」
まだ若い漁師が、とうさまを憧れの目で見つめている。
「そうだな。俺なんてまだCランクのハンターだ。強い奴はまだまだいる」