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117 ミシェル2

 朝食の用意をしていたとうさまは、ミシェルに気づくと、エステルに言ってひとり分多く食器を並べさせた。

「あら。お客様ですか。ようこそいらっしゃいました」

 エステルはメイド服を着ている。

 静かに挨拶したエステルを、ミシェルはとうさまに気づかれないように睨みつけた。

「あの娘はなんですの。どうしてニキ様にぴったり寄り添っているんですの!」

「あぁ、エステルは勉強中だから、とうさまに色々と教わっているんだよ」

「色々とは!?」

 そこ、反応するところ?

「家事とか、行儀作法とか………あとは、戦闘訓練とか?」

「どうしてメイドが、戦闘訓練なんて行いますの?」

「いまはメイドの恰好をしているけれど、エステルはEランクハンターなの。魔術師なんだよ」

 そう説明しても、ミシェルは不満そうだった。


「まだ若い娘じゃありませんの。あんな娘を仲間にするくらいなら、どうしてわたくしを誘ってくれませんの?」

 エステルは見た目は若いけれど、フェンリルだからそれなりの年齢なんだよ。と、言いそうになる言葉を飲み込む。

「そうだ!わたくしも魔法が使えますの。仲間になってあげてもよくってよ」

 この言葉には、全員が固まった。

 商会のお嬢様が使える魔法なんて、たかが知れている。それに、極寒の森や、虫だらけの森で狩りをできるとは思えない。1日で逃げ出すのが目に見えていた。

「ミシェル。俺達のパーティに君は必要ない。戦えない者は足手まといだ」

 とうさまがずばり言った。ちょっと、言い過ぎな気もするけれど、ミシェルにはこれくらい言わないと伝わらないよね。


「うわ~んっ。ニキ様、あんまりですわ!」

 あまりに大泣きするミシェルが可哀そうになったのか、とうさまはこう切り出した。

「では、こうしよう。今日は遠出をする。最後までついて来られたら、君を仲間と認めよう」

「本当ですの!?男に二言はなしですわよ」

「あぁ」

「それで。どこへ行くんですの」

「シシュティン山だ」

「え………」

 とうさまの答えに固まるミシェル。


 シシュティン山は、標高が高く険しいことで有名な山だ。標高の高い部分は夏でも氷が溶けない万年氷がある。降り積もった雪は、夏の間、美味しい雪解け水として王都の民の喉を潤している。

 夏の間は、シシュティン山を案内して小銭を稼ぐ者もいるけれど、冬のシシュティン山に登ろうとする者はいない。雪崩や滑落、凍死………そんな危険と隣り合わせだからだ。

 見ると、クロード達もミシェル同様、青い顔をしている。

 そうだよね。怖いよね。

「じょ………冗談ですわよね?」

「本当だ。朝食を食べたら出発する。クロード、おまえ達3人は留守番だ。残りは、俺と一緒にシシュティン山へ行く」

 そっか。クロード達は、まだこの土地の気候に慣れていないから、連れて行くのは危ないもんね。

「よかった!安心しましたよ、ニキ様」

「凍傷は怖いって話を、昨日聞いたばっかりだったしな」

「冬の山登りなんて、俺達にはまだ早いもんな」


 留守番を喜ぶクロード達に、とうさまが釘を刺した。

「訓練所には話をつけてあるから、俺達が留守の間も怠けるんじゃないぞ」

「「「了解です!」」」 

 元気よく返事をしたクロード達。

 冬の山登りより、訓練の方がずっといいよね。

「さて。食事にしよう」

 朝食が始まっても、ミシェルは一言も発しなかった。

「………ずるいですわ」

 食器の後片付けが始まったとき、ようやくミシェルが口を開いた。

「わたくしを遠ざけるために、わざとシシュティン山に行くだなんて嘘をおっしゃったのでしょう?」

 大粒の涙が、ミシェルの瞳からボロボロとこぼれている。


「いや、シシュティン山には本当に行く」

 そうだよね。大事なものを、置いてきたからね。

「その娘も一緒に行くんですの?」

 その娘?あ、エステルのこと?

「エステルは役に立つ。当然、連れて行く」

 フェンリルだもんね。氷雪の魔狼と呼ばれる氷の上位精霊だもん。むしろ、シシュティン山の気候に馴染んで生き生きとするんじゃないかな。

「そんなぁ………わたくしだって、ニキ様のお役に立てますわ」

「もういい。家に帰りなさい」


 とうさまに冷たく言われて、ミシェルはしゅんとしてしまった。

 ところが、顔を上げるとわたしをキッと睨みつけ、びしっと指をさしてきた。

「セシルはまだ11歳ですのよ。足手まといになるに決まっています。置いていくべきですわ!」

 自分が置いて行かれるのが気に食わないから、わたしのことも巻き添えにしようとしてるの?

「セシルは、6歳の頃からシシュティン山に連れて行っている。問題ない」

 身体強化の魔法が使えるようになってから、とうさまは色々な場所へ連れて行ってくれるようになったんだよね。ルオに乗っての移動だったけど、シシュティン山に行っていたことは間違いない。

「そんなこと………嘘ですわ。6歳でシシュティン山に行っていただなんて………ありえませんの」

 ミシェルは怒りのためか、プルプルと震えている。

「シシュティン山の炭焼き小屋にいるオーグナーさん家族を知ってる?あの家族に確認をとってもらえば、わたしが山に行っていたことはわかるはずだよ」

「炭焼きなんて、貧しい者がなる仕事ですの。わたくしが知るはずありませんわ!そんなこと言って、わたくしを騙そうとしても許しませんのよ!」

「はぁ………」




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