表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/282

116 ミシェル

 ベッドから降り、ベッド脇の机に誰かが用意してくれた洗面器で顔を洗う。たぶん、エステルかな。水がぬるま湯になっていて、ひんやりしない。ただ井戸から汲んだだけの水ではないのだ。その心遣いに嬉しくなる。

 テーブルに置かれていたタオルで顔を拭きながら振り返った。

「これ、誰が用意してくれたの?」

「私でございます。お気に召したでしょうか」

 あ、シルヴァだった。

「うん。気持ちよかったよ。ありがとう」

「とんでもございません」

 そう言って、綺麗にお辞儀するシルヴァ。

 今は執事服なので、背筋をピンと伸ばした姿が本当に絵になる。

 どうやらシルヴァは、家の中にいる間は執事服、外ではハンター服になることにしたらしい。一瞬で着替えられるので羨ましい。


「さて。そろそろ朝食ができている頃でしょう。参りましょうか、セシル様」

「うん」


 コンコンコン


 シルヴァの後について居間まで来たとき、玄関ドアをノックする音が響いた。

「わたしが出るよ」

「お供します」

 玄関に急ぐと、そっとドアノブに手をかけた。

「どなたですか?」

「その声!セシルね!?」

 聞き覚えのある少女の声だった。大きな商家のルグラン商会の娘ミシェルだ。とうさまを崇拝するひとりで、顔と声は可愛らしいのにわたしに対する扱いがひどい2つ年上の女の子。正直に言って、いじめられていた。

 どこかでわたし達が帰ってきたことを聞きつけたに違いない。商家の娘だから、情報が早いんだね。


 鍵を開けると、扉が勢いよく開いてひとりの少女が飛び込んできた。そしてなにを思ったのか、シルヴァに抱きついた。

「ニキ様、お久しぶりです!ミシェルはお会いしたかった………で………す?って、誰!?」

 ようやく相手を間違ったと気づいたらしい。

 後ろに飛びのいたところまではよかったものの、玄関の外は階段になっていて、足を踏み外してしまった。

「おっと。大丈夫か?」

 そこを、外で雪かきをしていたらしいクロードが受け止めてくれた。


 ミシェルは、顔を真っ赤にしている。

「あ、あり、ありがとう。あなた、お名前は?」

「え?俺はセシル様の下僕の………」

「ちょっと待ったあーーー!!」

 そんな自己紹介ある!?

 そもそも、クロードはわたしの下僕じゃないし!!

 わたしは、いまもクロードの腕に抱かれているミシェルを助け起こした。

 ミシェルはなにが不満だったのか、わたしを睨みつけて来た。

「ミシェル、彼はわたしの仲間のクロード。で、こっちは仲間のシルヴァだよ」

「ふ~ん。クロード様に、シルヴァ様、ね。ということは、外で雪かきしてるあの男達もあなたのお仲間なの?」

「そうだよ。レギーとロイっていうの」

 自分達の名前が呼ばれたことに気づいた2人が、こちらに手を振って来た。

 諜報員だっただけあって、2人とも耳がいいみたい。

 ただし、残念だけどクロードやシルヴァほどの男前ではない。ミシェルのお眼鏡には叶わなかったらしく、「ふんっ」と鼻を鳴らされた。


 そのとき、居間からこちらに近づいて来る足音が聞こえた。

「誰が来たんだ?」

 そう言って、レイヴがひょいと顔を覗かせた。

「あ、レイヴ。ルグラン商会の娘さんが来たの。ミシェルって言うの」

「ちょっとあなた!こっち来て!!」

 いきなりミシェルの腕を掴まれて、外へ連れ出された。

 クロード達から少し離れたところで、ようやく立ち止まるミシェル。

「なんなんですの?あなた、ちょっと会わないうちに男を集めるのが趣味になったんですの!?それも、いい男ばかり!!」

「えっ?」

 言ってる意味がわからない。


「皆、仲間だよ。それに、女の子もいるし、男ばっかりというわけじゃ………」

「お黙りなさい!わたくしに口答えするなんて、100年早くてよ!」

 100年も経ったら死んでるよ。

「だいたい、帰って来るのが遅いのですわ!わたくしが、どんな想いでニキ様をお待ちしていたか、あなたにわかって!?」

 ………わからない。なにをそんなに怒っているのか。

「わたくしが嫁ぐのは、ニキ様だけと心に決めているのです。その夫となる方が、旅に出たまま音沙汰もないだなんてあんまりですわ。わたくしをなんだと思っていますの。貴族の間でも評判の高い、あのルグラン商会の娘ミシェルでしてよ!ぞんざいに扱われていいはずがないですわ」

「はぁ………」


 貴族の娘でもない、たかが商会の娘なのに、ここまで自信満々で来られると、ため息しか出ない。

 そのとき、肩にふわりと誰かの上着がかけられた。

 見ると、シルヴァが自分の上着をわたしにかけてくれていた。

「セシル様、そのようなお姿では外は寒いでしょう。私の上着でよろしければ、お使いください」

「ありがとう」

 そしてシルヴァは、ミシェルに向き直った。

「そちらのお嬢さんも、外は冷えます。中で話されてはいかがですか?」

「そ、そうおっしゃるなら、入ってあげてもよくってよ」

 シルヴァは、ミシェルにも笑顔だった。


 シルヴァの耳なら、わたしがなにを言われていたのかわかっているはずだけどな。どうして家に入れるんだろう?

 不思議に思っていると。

「くふふっ。これであの娘とニキがくっつけば、セシル様は私のモノに………」

 なにか、ひとり言をいっていた。

「??」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ