115 忠誠を誓う
家に還ると、クロード達が雪かきをしていた。慣れないせいで、動きが不自然だ。
「あ、セシル様。おかえりなさいませ」
クロードがわたし達に気づき、作業の手を止めた。
家の前はすっかり除雪され綺麗になっていたけれど、クロード達は両隣と向かいの家の分まで雪かきをしていた。これは大変そうだ。
「手伝おうか?」
「とんでもない。これも修行です。俺達にお任せください」
「そっか」
冬の王都に慣れるためには、体を動かすのが一番だもんね。
「それより………」
「??」
「いつになったら、俺の忠誠を受け取ってくれるんですか!」
ええ!?
「まだ諦めてなかったの?」
「当然です!ガイムやネスの忠誠は受け取っておられるのに、どうして俺だけだめなんですか」
「ちょっ、ちょっと待って!家の中で話そうね!」
こんな話を、誰が聞いてるかもわからない外でなんてできないよ!
「あっ、お帰りになってたんですね。外は寒いですから、早く中に入ってください」
少し離れた場所にいたレギーが、わたしに気づいて寄って来た。話し方が妙なのは、使い慣れないせいだ。普段、クロード達だけで話すみたいに、ため口でいいのに。
「レギー、ちょっとクロードを借りるね。家の中で話があるの」
「はい。お好きなだけどうぞ。ここは俺達だけで十分ですから。クロード、頑張れよ!」
なにを頑張るの!?
今日は、家のあちこちの暖炉に火が入れられ、家全体が暖かかった。これで、夜はそれぞれの部屋で眠れると思う。
わたしはクロードを応接室に連れて行き、そこで話をしようと思った。
レイヴとエステルは、夕食を作っているだろうとうさまの手伝いに言ってくれたけれど、シルヴァが「自分はセシル様の執事ですから」と言い張ってついてきた。
執事なら、主の言うことを聞いて部屋の外に控えてくれればいいのに。シルヴァは、ソファに座ったわたしの背後に静かに立っている。
クロードは、わたしが勧めてから渋々向かいのソファに座った。
「ねえクロード。わたしは従者が欲しいわけじゃないの。クロードとは、友達になれればと思ってる。従者より、友達の方が嬉しいんだよ」
「セシル様のお気持ちはわかります」
「じゃあ………」
「ですが、俺の気持ちは変わりません」
う~ん。手ごわい。
「あの騒動のとき、セシル様のお力を目の当たりにして、この方こそ俺が仕える方だと思った。あのときまで俺は、いつも誰かに利用されて生きて来た。もう、誰かに利用されるのは真っ平なんだ。これからは、俺自身の意思で物事を決めて生きていきたい」
「それなら、わたしに仕える必要はないよ。ハンターにでもなって、誰かに仕えることなく、自分の思うように生きたらいいじゃない?」
「セシル様が望むなら、ハンターになってもいいです。ですが、俺が本当になりたいのは、セシル様の従者です。セシル様にお仕えし、セシル様を守る盾になりたい」
正直に言って、話し合いは難航した。いつまで経っても話し合いは平行のままだ。
わたしはクロードを従者になどしたくない。
クロードはわたしの従者になりたい。
お互い、それは譲れなかった。
「セシル様。提案なのですが………」
ふいに、シルヴァが話しかけてきた。
「なに?」
「期間を設けて、クロードを従者にするというのはいかがでしょう」
「「えっ?」」
「いまはまだ、クロードがどこまでセシル様のお役に立てるかわかりませんし、セシル様が不安に思うのも致し方ないこと」
え、違うけど………。
「しかしここはひとつ広いお心を持って、クロードにチャンスを与えてみるにはいかがでしょう?」
どういうこと?
「クレーデルに戻るまでの期間に、クロードが使える者かそうでないか、セシル様が見極めるのです。クロードが成果を出せなければ、セシル様はクロードを従者にはしない。そういうことではいかがですか」
「わかった。それでいい」
シルヴァの提案に、クロードは了承した。疲れた顔をしていたけれど、目は嬉しそうに輝いている。
わたしは、あんまり嬉しくない。シルヴァにいいように仕向けられた気がするから。
それに、これじゃ答えを先延ばしにしただけで、また同じ話し合いをしなきゃいけない気がするよ。はあ~。
夜は、元々、自分の部屋として使っていた部屋で休んだ。エステルは、部屋の隅でフェンリル化した姿で眠った。
いつも皆と眠っていたから、こんなに静かな夜は久しぶりだった。
ちょっぴり、寂しい気がした。
朝起きると、腰にレイヴの腕が巻きついていて、ベッド脇に置かれた椅子にシルヴァが座っていた。
あぁ、やっぱり変わらないなぁ。と笑いそうになる。
「あれ、エステルは?」
昨夜は、確かに一緒の部屋で眠ったのに。エステルの姿が見えなかった。
「エステルはニキの手伝いをしていますよ。メイドですから」
「そっか」
エステルはとうさまとシルヴァの2人のしごきがあって、着実にメイドとしての腕を上げていた。
わたしが期待していたのは、そういうことじゃないのに。
エステルには、癒し要員になってもらうつもりだったのに!
「おや。セシル様、ご機嫌斜めですか。甘い物でもお持ちしましょうか」
「ううん。いらないよ、シルヴァ」
エステルは望んでメイドになったんだし、わたしがつべこべ言うことじゃないと思う。
自分の気に入らないからって、膨れていたら子供みたいだよね。恥ずかしい。
ちょっとまとめて投稿します。




