114 昇格試験
そこでグラッツさんは言葉を切り、わたしを優しい目で見つめて来た。
「おかえり、セシル。君が昇格試験を受けると聞いて、こんな嬉しいことはないよ。僕じゃ役不足かもしれないが、精一杯務めさせてもらうよ」
「ありがとう、グラッツさん」
場所を訓練所に移して、昇格試験を受けることになった。
暇を持て余したハンター達が、ぞろぞろとついてきた。
「FランクからEランクへの昇給試験だから、大したことはないよ。筆記試験はなし。実技試験だけだ。まず、あの的へ向けて魔法を放ってくれ。魔法の種類は問わないよ」
火の魔法を使って火事になったら大変だから、水の魔法がいいかな。木の的だから、威力はそれほどいらない。一発、当たればいいのだ。それなら………。
的へ向かって、右手の人差し指を構えた。
「「「「えっ?」」」」
見たことのない構えだったからか、疑問の声が上がった。
それを無視して、指先に集中する。
大事なのは、やり過ぎないこと。狙って………発射!
ひゅんっ!
かすかに水が発射される音がした。的に近づいてみると、的の中心に親指ほどの穴が開いているのが見えた。そして、訓練場の壁にも。あら~、ちょっとやり過ぎちゃった。
「ごめんなさい。壁に穴を開けてしまいました」
「「「「ええっ?」」」」
なにが起きたかわからない群衆が、不思議そうな顔をしている。
グラッツさんは近づいてきて、的と壁の穴をじっくりと見た。
「こいつは驚いた。水魔法で的に穴を開けたのか!」
えええぇぇぇ~~~!!
「スピード、パワー、コントロールと申し分ない。よく、ここまで鍛えたな」
「ありがとう。でも、壁に穴が………」
「そんなの気にするな。板でも貼り付けておけばいい。それより、剣技の方も見たかったんだが。魔法でこれだと、剣技の方も相当だろう。すまないが、君の相手をできる者がいない。困ったな」
「えっ?グラッツさんじゃダメなの?」
「いや。僕じゃ、君の力に及ばないだろう。今のも、かなり手加減しているだろう?そうだ!君の仲間に相手してもらうのはどうだろう?いいかい?」
そう言って、グラッツさんはシルヴァとレイヴを見た。
「わたしがお手合わせいたしましょう」
レイヴより先に、シルヴァが名乗り出た。
悔しそうなレイヴを尻目に、シルヴァが訓練場の中央へと進み出た。
「くふふっ。セシル様にお手合わせいただくのは初めてですね」
「そうだね。あっ」
思いついたことがあり、小さな声でシルヴァに話しかけた。
「シルヴァは結界を張れる?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、お願いね」
「かしこまりました」
こそこそ話していたら、周りに不審がられたけれど、そんなことよりこれは大事なことだ。だってもし、シルヴァを戦っているうちに楽しくなってしまったら………手加減を忘れてしまったら………訓練場の被害が甚大になってしまうかもしれない。それは避けないと!
準備ができたところで、わたしとシルヴァは訓練場の中央で向かい合った。
「はじめ!」
その言葉を合図に、わたしとシルヴァは剣を抜いた。これは、剣技を見る試験なのだから。
数度軽く打ち合ってみたけれど、シルヴァの剣は細いのに重く、受け流すのに力が必要だった。つい、身体強化の魔法に頼りたくなる。
体格差からも、力の差があるのはしかたない。そもそも、相手は悪魔なのだし。経験差は言うまでもない。
では、どうするか。
すばやく動く。先を読む。
シルヴァの動きをよく見て、次にどんな動きをするか予測することが大事だ。
来る!
がきいんっ!
シルヴァがわたしの心臓目がけて突きを繰り出し、それを剣の刃で受け止めた。以前まで使っていた剣だったら折れていたかもしれない。それほどの衝撃だった。手が痺れている。風圧で髪が乱れている。
でも、楽しい!
こんな楽しいこと、どうして今までやって来なかったんだろう?
乱れた息を整え、剣を再び構えたとき。
「待て待て!もう十分だ!」
グラッツさんが慌てて止めに入った。
終わりを悟ったシルヴァが、ひっそりと結界を解く。
「え~っ!まだやりたかったのに」
「え~っ!じゃない!セシルの力は十分わかった。Eランクへの昇格試験でそれだけできれば十分だ。というか、Cランクくらいの実力がありそうだな。昇格試験にも、飛び級制度があればいいんだが、それはない。この先、何度も昇格試験を受けてもらうことになる」
そっか!まだ、これで終わりじゃないもんね。まだ楽しめるよね。
「さあ早く帰りなさい。きっとニキが心配しているぞ」
「また来ま~す!」
グラッツさんい追い立てられるようにして訓練所を出ると、待ってましたとばかりにティスリが笑顔でEランクのハンター証をくれた。
「さあ、Eランクハンターさん。体を休めるのも、ハンターの大事な仕事よ。もう家で休みなさい」
そう言って、わたしをハンターギルドから送り出してくれた。
あ、掲示板見てくるの忘れてた。
おまけ投稿です。




