112 母様
「そして。我が主と認めているのは、ただ御一人、レナ様だけです。お嬢様にもお仕えしているが、主と認めたわけではない」
「ルオは、母様が大好きなんだよね」
「まったく。お嬢様はすぐそういうことをおっしゃる。ふっ」
あ、鼻で笑われた。
「今だって、母様のところから帰って来たんでしょう?」
「………そうです。まだいるつもりでしたが、お嬢様の気配を感じて戻ってきました。これから、一緒に行きませんか」
「うん!あっ、ちょっと待って。新しい仲間ができたの。シルヴァ達に挨拶して」
「承知いたしました」
「………」
「………」
「………?」
「離れてください」
「あ、ごめんね。つい」
ふわふわのルオは毛並みが気持ちよく、なかなか離れがたい。つい抱きついたままだったのだ。
わたしが離れると、ルオは足音もなく室内に入り、起きていた皆を見回した。
「ニキ様。お久しぶりです」
「あぁ。元気そうでなによりだ」
お互い、にこりともせず挨拶をした。久しぶりだと言うのに、素っ気ない。
「それでは。こちらにいる皆様に自己紹介いたします。俺は、お嬢様の母上にあたるレナ様の従魔ルオと言います。以後お見知りおきを」
皆、しゃべる犬というのを初めて見たのだろう。興味深そうにしている。
「なるほど。セシル様が魔物使いなのは、母君譲りですか」
シルヴァが呟くと、ルオは警戒するような視線を彼に向けた。
「お嬢様が選ばれた者達なので、信頼できる者達なのでしょうが………言わせてもらえれば、悪魔は狡猾な者達です。くれぐれも、ご用心ください」
「うん。わかったよ」
あはは。これは、シルヴァにプロポーズされたことは言えないね。
「ニキ様。俺は、お嬢様とレナ様のところへ行ってきます」
「わかった。レナによろしく言ってくれ。俺は訓練が終わってから、あいつらを連れて行く」
あいつらと言うのは、クロード達3人のこと。
戦闘訓練が終わってからだと、夕方くらいかな。
「そうですね。あまり騒がしいのはレナ様のご迷惑になりますから、それがいいでしょう」
あまり大所帯で行動すると目立ってしまうしね。
そして。わたしとルオ、シルヴァ、レイヴにエステルの4人と1匹で母様のところへいくことになった。
冬の間は、太陽が出ている時間が短い。いまの時間は朝8時だけど、まだ薄暗い。だけど、人々は起き出して活動している。
この王都オーシルドでは、力が強く環境への適応能力に優れた獣人が重宝される。そして、ここではヒト族として平等に扱ってもらえるので、よそへ移住しようとする者は少ない。よそで迫害された経験があれば尚更だ。
「あ。ターヤ、おはよう!」
ターヤは隣のアパートに済む猫獣人の女性。家の管理をお願いしていたの。
「セシルちゃん!煙突から煙が出ていたから、帰っているのはわかっていたけど………大きくなったねぇ」
細い目をさらに細めて、ターヤはわたしの頭を撫でてくれた。
ふふっ。大きくなったなんて言われたら嬉しい。今度、とうさまに身長を測ってもらおうっと。
「それで。後ろの人達は?………人間じゃないよね?」
獣人は鼻が利くのだ。匂いで、気配で、人間じゃないと気づいたようだ。
「紹介するね。レットドラゴンのレイヴに、フェンリルのエステル、そして………悪魔のシルヴァ」
「はぁ~。こりゃ大したもんだ。セシルちゃん、あんた、よく珍しいのばかり仲間にしたね!」
どうやら、悪魔という危険なワードはスルーしてくれたらしい。よかった。危険な真似をして!とかなんとか、お説教されるかと思ったよ。
「レットドラゴンと言えば、氷属性に弱いんじゃなかった?気を付けてあげなさいよ」
「うん。わかってるよ、ターヤ。じゃあ、母様のところへ行くからまたね」
ターヤと別れ、やって来たのは母様のところ。
母様はハンターだったから、通常なら壁の外にある平民用の墓地に埋葬されるはずが、ツヴァイ御子の特別の書状のおかげで貴族用の墓地に埋葬されることになった。
王都オーシルドでは、亡骸は土葬で埋葬される。土に還しやすくするためだ。それは貴族も同じで、平民との違いと言えば、亡骸を埋めた上に立派な墓標を立てることくらいだろうか。
一面の雪景色の中、一か所、雪がない場所がある。うん。あれはルオの体温で解けたんだね。
とうさまとわたしが旅立ってから、ルオはほとんどの時間を母様のもとで過ごしてきたのだと思う。そのあまりの忠誠心の高さに、なんだか泣きそうになる。
母様の墓標は、父様が彫った石でできていた。無骨だけれど、愛情が込められている。
わたしは母様の墓標の前に膝をつき、手を合わせた。
「母様、わたし帰って来たよ。あのね。母様がやりたかった自由な冒険を、わたしはできたと思う。少しは、母様の願いを叶えられたかな?」
もちろん、返事はない。
ちょっと複雑なんだけれど、母様は2度の人生を生きている。1度目は、レ・スタット国のセレスティナ・レ・スタット女王として。2度目は、ハンターのレナとして。どちらの人生も、母様が本当に満足できるものじゃなかったと聞いている。そんなの悲しいよね。
命をかけてわたしを産んでくれた母様。わたしは、母様の分も満足できる人生を歩みたいと思っている。後悔のないように生きたい。
書き溜めができたので、おまけ投稿です。




