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110/282

110 オ・フェリス国の王都へ向けて

 わたし達が王都へ出発する日の夜。

 領主館の客間から眺めるクレーデルの街灯りは、煌々として煌めいていた。

 出発の時間が近づき、領主館の裏手にある訓練場へ行く。

 そこには、リムハム辺境伯夫妻の他、ここ数日で仲良くなった騎士の皆さんや、ガイム達が見送りに集まってくれていた。

「彼らのことは、俺達に任せてくれ。あなた達がこの地に帰って来る頃には、すっかり鍛え上げておいてやる」

 騎士団長がそう言った。頼もしい。

 ガイム達と騎士団はすでに信頼関係を築き始めていて、すでに魔物討伐作戦も共同で行って成功している。

「ありがとう、騎士団長」

 ガイム達を受け入れてくれて、感謝しかない。

 獣人を受け入れているオ・フェリス国と言えど、魔物は敵。駆逐の対象でしかなかった。それが一緒に生活し、共同の目的を持って戦うことができるなんて、夢を見ているみたい。


「ガイム、あなたを群れのリーダーに任命します。しっかり皆の面倒を見てね」

「マイロード。ありがとうございます」

「ネス。あなたは副リーダーに任命します。その立場におごることなく、精進しなさい」

「我が主よ、承知した」

 ここ数日で、2人は自分の未熟さに気づいた。それと同時に、どこまで強くなれるか、希望を抱くようになった。この領主館に帰って来る頃には、どれほど強くなっているか、期待に胸が膨らむ。


 2人に向けて、別れの握手をするために両手を差し出した。

 ところが。2人とも膝をついて頭を垂れた。なぜ? 

「「御身に触れるなど、我には過ぎたことにございます」」

 息がぴったりだった。

 差し出したこの手をどうしたらいいの。

 仕方ないので、騎士団長と握手した。

 騎士団長は苦笑していた。

 なぜなら、背中にガイムとネスの殺気を感じていたから。

 そんな殺気を出すくらいなら、握手すればいいのに。


 出発の時間になり、レイヴがレットドラゴン化すると、その見事な姿に歓声が上がった。赤い鱗が松明の炎に照らされて、宝石のように輝いていた。まるで上質のルビーだ。黒い瞳は、黒曜石のようだ。鱗に手を置くと、わずかにひんやりした感触の下に、命のぬくもりを感じる。頬を当てると、レイヴがくすぐったそうに身をよじった。

「セシルから触れてくれて、嬉しい」

 照れくさそうな声が聞こえた。

「もう行くぞ。皆も、レイヴに乗るんだ」

とうさまが皆に声をかけ、ジャンプでレイヴの背中に乗った。

「そうだね」

 返事をして、わたしもジャンプでレイヴの背中に乗った。 

 鱗の小さい箇所があり、前に鱗を剥がしたことを思い出す。ここの鱗で、わたしは剣と部分鎧を作ってもらったんだね。愛おしくなって、小さな鱗を撫でた。


「そんな鱗に掴まるのは危ないですよ。私がお支えいたしましょう」

 顔を上げると、シルヴァが隣にいた。さりげなく、肩に腕を回された。

 反対の隣には、とうさまがいる。シルヴァを睨みつけている。

 後ろには、エステルとクロード達3人。いつものやり取りに、苦笑している。

 レイヴが翼を広げると、翼が巻き起こした風で砂埃が舞った。

「いくぞ!」

 掛け声とともに、レイヴはふわりと空に飛び上がった。鳥のように羽ばたかなくても、空に浮かんでいる。魔法の力かな?


ひゅうううぅぅ~~~んっ!!


 まるで、レイヴの周囲に空気の膜があるかようだった。すごいスピードで飛んでいるのに、風は髪や服をはためかせる程度だし、息苦しくもない。

「これが………飛行魔法?」

「いえ、飛行魔法と重力操作、空間操作を併用しております」

 なるほど。複数の魔法を同時に使っていたのか。

「お望みとあらば、私がお教えいたしますよ」

「ありがとう!飛行魔法は使ってみたいから、お願いしようかな。あっ、待って。空間操作って、マジックバックを作るのに使えるんじゃない?う~ん。覚えるならどっちが先かな?どっちも高度そうだから迷うよ」


 ひとり頭を悩ませるわたしの肩を抱こうと、シルヴァが腕を伸ばしてきた。その腕を、とうさまがすかさず叩き落とす。そしてまたシルヴァが腕を伸ばす。とうさまが叩き落とす。わたしの背後で、不毛な争いを繰り広げられていた。

「なにやってんだか………」

「あの3人って、三角関係なのか?」

「え?セシルはまだ11歳だって聞いたよ。違うんじゃない」

「たしか。レイヴの奴も、セシルが好きなんだろ?」

「ええ!?どうなってんだ。あのパーティー………」

 なにか………クロード達が言っているようだけど、小声でうまく聞き取れなかった。


 しばらくして、オ・フェリス国の王都たる芸術の都オーシルドが見えて来た。街灯りが雪に反射して、王都全体が煌めていている。こうして空から眺めるのは初めてだけど、本当に美しい街だと思った。

 冬の間、雪と氷に包まれるオ・フェリス国の王都は、高い壁に囲まれている。まだ冬は始まったばかりだというのに、壁の上には雪が積もっていた。


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