表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/282

108 リムハム辺境伯

 話はまとまった。

 全員でオ・フェリス国の南部へ行き、ガイムとネス達は雪が解けるまでロキシー達の面倒を見ながら南部の街で待機。

 とうさまとわたし、シルヴァとエステル、そしてクロード達はドラゴン化したレイヴにオ・フェリス国の王都まで運んでもらう。

 そうと決まれば、出発だ!

 人が通る街道はなるべく避けて、森の中などを進んだ。行軍進度は、お世辞にも早いとは言えない。はっきり言って、遅い。それでも、森の魔物や獣達が不審な一団を恐れて近づいて来ないおかげで、これまでになく平和だった。

 オ・フェリス国の南部の街クレーデルに着いたとき、季節は冬になっていた。


 クレーデルは、オ・フェリス国の王都と対をなす学術の都だ。各国から学生達が集まり、雪と氷に閉ざされるオ・フェリス国にあって、冬でも雪が降らない街は活気に溢れている。

 アインス教皇が正式な書簡を送ってくれていたらしく、クレーデルについてすぐ領主の使いが迎えに現れた。

「よくお越しくださいました。ニキ様と御一行様」

 領主の使いは、腰布だけというガイムやネスを見ても眉ひとり動かさなかった。こんなに怪しいのに!

 清浄魔法が使えるわたし達は、宿屋に泊まれなくても服や体を綺麗に保つことができる。でも、街道ではなく森などを通って来たため、服を枝に引っかけたりと散々だった。衣服を魔力で作り出しているシルヴァ、レイヴ、エステルはともかく。とうさまやわたし達は、ちょっとボロボロだった。特にひどいのがガイム達。元々、ボロ布しか纏っていなかったのが、枝に引っかけても気にしないものだから、見るも無残な状態になっていた。


 クレーデル領主が、馬車を迎えに出してくれていた。1台目の馬車に、とうさま、わたし、レイヴとシルヴァが乗った。エステルは、クロード、レギー、ロイと一緒に2台目の馬車に。そのあとを、ロキシー達3頭の馬を連れたガイム達が歩いてついてきた。

 わたし達は目立った。どう考えても、目立たないわけがない。 

 人々は、最初に行儀よく行進する獣達に驚き、次に見たことのないオークやオーガの姿に驚いた。ボロ布のことは、さほど気にならないようである。

「あれはなんだ?突然変異か?」

「まるで人間や獣人のようじゃないか」

「見て。あのホーンラビット可愛いわ。ちゃんと行進してる」

「やめて。ホーンラビットが食べられなくなっちゃうじゃない!」

 色々な声が聞こえて来た。


 領主の館は、街の高台にあった。クレーデルの街が一望できた。学校と思われる建物が、いくつも見える。

 学術の都というくらいだから、図書館も立派なんだろうなぁ。魔導書も豊富かな?

 行ってみたいけれど、クレーデルはガイム達を預けるために立ち寄ったに過ぎない。図書館はまた今度だね。

 クレーデル領主は、たしかリムハム辺境伯。ル・スウェル国に接する南部一帯を治めているの。会ったことはないけれど、知識に長けた人物で、オ・フェリス王の相談役も務めているとか。

「皆様。準備がよろしければ、広間へご案内致します。いかがなさいますか」

「案内してくれ」

 領主館の執事に案内され、ぞろぞろとついて行くわたし達。さすがに、ロキシー達は厩番預けてある。でも、ホーンラビットまでついてきてしまった。いいのかな?代表として、ガイムとネスだけ連れて来ればよかったかな。


 広間は、普段はパーティーなどが催されるのだろう。華やかな場所だった。その雰囲気に、ガイムとネス達は気おされている。クロード達も気まずそうだ。

 その時、扉が開いてひとりの壮年の紳士が現れた。にこにこと優しそうな笑みを浮かべている。壇上に下に、ひとつだけ置かれた椅子に腰かけ、ふぅ~と息を吐いた。

「私だけ椅子ですまないね。じつは、今朝、足をくじいてしまって。立っていると痛むんだよ」

 びっくりした。

 ここは学術の都クレーデルだ。もちろん魔法も発達している。回復魔法を使えない魔法医がいるとは思えない。どうして、くじいた足をそのままにしているのだろう?

「じつは、うちの魔法医は妻なんだが。些細なことで喧嘩をいていてね。くじいたくらい、時間が経てば治る。と言って治療してくれないんだよ。ひどいだろう?」


 そっか………夫婦喧嘩か………じゃあ、わたしが治したらまずいよね。

 ちらりととうさまを見ると、とうさまはわかった、と言うように頷いた。

「辺境伯、私の娘も回復魔法が使えます。試されますか?」

「そうか!やってくれるか!ありがとうっ」

 リムハム辺境伯は、待ってましたと言わんばかりに頷いた。勢いよく立ち上がり、いたた、と足を押さえて椅子に座り込んだ。

 おもしろい人。

 わたしが前に進み出ると、リムハム辺境伯は目を輝かせてわたしを見つめてきた。


「初めまして。君がセシルだね?よろしく頼むよ」

 アインス教皇からの手紙には、当然、わたしのことも書いてあるよね。

「はい、閣下」

 静かに返事をした。

「リムハム辺境伯と呼んでおくれ」

「はい。リムハム辺境伯………えっ?」

 足を治療しようと、リムハム辺境伯が痛がっている方の足に手を当てて驚いた。なんともないのだ。くじいてなどいない。ヒビひとつ、入っていない。念のため、もう片方の足も確認したけれど、なんともなかった。

 騙された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ