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106 配下の者達

「では。娘よ、行きますよ」

 ツヴァイ御子が満面の笑顔で手を差し伸べて来た。

 御子たる者、こんな場所へ歩いて来るわけがない。もちろん、エウレカ教の紋章が入った煌びやかな馬車で来ていた。

 わたし達が馬車に乗り込むと、聖騎士達の護衛の元、馬車はノヴァク自治区にある大聖堂へ向かった。ツヴァイ御子の居住区は、大聖堂の奥にある。

 楽しそうなツヴァイ御子とは対照的に、渋い表情を浮かべている聖騎士達。だけど、聖騎士長はどこか楽しそうでもある。


 なぜこんなことになったかと言えば。

 あの森の広場から目指した場所がル・スウェル国の王都ではなく、ノヴァク自治区だったから。もっと言えば、アインス教皇とツヴァイ御子に会いに行った。

 王都で騒ぎを起こすとわかっていて、兵士に捕まる可能性があるのに、上の者に話をつけないわけがないでしょう?

 わたしが攫われた話をしたとき、アインス教皇とツヴァイ御子は激怒した。「だから言ったでしょう!用心が足りない!」と叱責もされた。

 そしてクロードに話が及んだとき、その境遇に同情した。特に、奴隷商人のことは許せないようだった。

 そうして聖騎士長が呼ばれ、王宮への伝令が走り、下準備が済んだ。


「………しかし。御子様。いくらセシル様のことを公にできないとは言っても、あれはないです。娘だなんて………」

 聖騎士長がため息まじりに呟いた。

「なぁに?私が、なにかイケないことをしたかしら?」

 ああ!ツヴァイ御子が自分のやり方にケチをつけられて怒ってる!

「そうではありません。セシルを私の娘にしたほうが、後々、良かったかと」

「あら、そういうこと?う~ん。そうね。そのほうが、周囲への影響が少ないかもしれないわね」

「でしょう?」

 にんまりと微笑む聖騎士長。


 いやいやいやいや!


 確かに、ツヴァイ御子の娘とするより、聖騎士長の娘の方がいいと思うけれど。そんなことを大真面目な顔をして議論するの!?もう………。脱力してしまうよ。  

 わたしがオ・フェリス国にいた10年間、一度もツヴァイ御子の元を訪れたことはない。だけど、アインス教皇とツヴァイ御子だけじゃなく、聖騎士長や聖騎士達、8人の枢機卿とは顔見知りである。なぜなら、ツヴァイ御子は通信の魔法が使えるから。鏡を通して、お互いの姿を映すことができるの。

 そうやって、わたしが赤ん坊の頃から見守ってきてくれたんだよ。


 案内された応接室には、とうさま達がいた。アインス教皇に、クロードもいる。

 クロードはすっかり身綺麗になっていて、お風呂に入ったかのようにさっぱりしていた。清浄魔法をかけたのかな?

 クロードはわたしを見ると、わたしの前に進み出て膝をついた。

「これまでの数々の無礼、大変申し訳ない。どうにかしてお詫びをしたいが、見てのとおり、俺にはなにもない。この首で許してもらえるなら………」

 ん?話がおかしな方向に流れていない?

「この命尽きるまで、御身にお仕えしたく思います」


 えええぇぇぇ~~~!!


「ちょ、ちょっと待って!わたしは、ただクロードを助けたいと思っただけで、そんな大層な誓いが欲しいわけじゃ………」

 助けがほしくてとうさま達を振り返ると、とうさまはいつもの無表情。他の皆は、クロードの言葉に満足そうに頷いていた。

 なんで!!

「セシル様はすでにネスの誓いを受けれたではありませんか」

 シルヴァに言われ、ぽかんとするわたし。

 え?ネスの誓い??

「オークも、他の魔物、獣達も、すでにセシル様の配下でございますよ」

 なにを言っているの?

「クロードは役に立つ男です。配下に加えても問題ないかと」

 配下なんていらないよ!?


 にっこり微笑むシルヴァとは対照的に、わたしは混乱する頭を抱えて唸っていた。

 どうしてこうなった!?

 たしかに、ネス達はわたしのことを「マイロード」とか「我が主」って呼んで気が………もしかして、あれが誓いなの!?

「とりあえず、クロードの件は保留にするとして。状況説明をしてあげるわね、セシル」

 ツヴァイ御子が言い、わたしの頭を優しく撫でてくれた。

「座って話しましょう」

 促されて、とうさまとわたし、レイヴが席についた。シルヴァとエステルが背後に立ち、クロードは膝をついたままだ。

 向かいの席にはアインス教皇とツヴァイ御子。その背後に聖騎士長が立っている。


「さて。あの場には、多くの観客がいたわね。周囲には多くの民衆もいて、騒ぎの目撃者は数えきれないわ。それは、今さら言ってもしかたないことだけど」

 そう言って、ツヴァイ御子はため息をついた。そのため息が、事後処理の大変さを物語っている。

「じつはね、『虹の旅人』には黒い噂があったの。団員の扱いが悪いとか、魔物や獣に手ひどい扱いをしているとか、そういうことだけじゃないわ。貴族の娘が攫われて身代金を請求されたり、平民の娘が人には言えないことをされて身売りをされたりといったことよ。

ア・ッカネン国の諜報機関にも関わらず、情報収集のやり方もお粗末で。各国では、ならず者の集団と見做されていたのよ」

 クロードを見ると、神妙な顔で頷いた。

 ツヴァイ御子が言うようなことを、クロードはずっとやらされてきたのだ。

 罪の意識からだろうか。クロードは申し訳なさそうな顔した。


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