105 聖なる行い
勝機はネスにある。でも、勝負が長引けば、経験のあるプロンプトが勝つかもしれない。それは避けないと。
周りを見渡すと、観客はすでに逃げていた。エステルの巻き起こす吹雪は周囲一体を氷漬けにしていて、遠巻きに様子を伺う民衆と警備兵の姿が見える。とうさま達はその民衆に紛れているはずだ。解放した獣達が舞台を取り囲んでいて、カルタスが逃げないようにしている。ネンナはカルタスの影に隠れて、プロンプトがネスと戦う様子を見つめている。
プロンプトは顔に受けたダメージが大きい。額を切ったらしく、血が流れて目に入りそうになるたびに、乱暴に袖で拭っている。
油断大敵とはよく言ったもので、勝った気でいると、勝てる勝負も負けてしまうことがある。
ネスには、新たな力におごることなく戦って勝利してほしい。
次に仕掛けたのもネスだった。姿勢を低くしてプロンプトに体当たりしたかと思うと、低い姿勢から顎を狙ってパンチを繰り出し、ふらついたプロンプトの頭を掴み頭突きをしたのだ。
ぐしゃっ
どしーんっ
骨が砕ける音が響き、ネスが手を離すと、その巨体は舞台に音を立てて倒れた。
そして。落ちていた斧にネスが手を伸ばしたとき。
「そこまで!!」
女性の凛とした声があたりに響き渡った。
ツヴァイ御子だった。
新たな人物の登場に警戒するネスと他の獣達。
そして、エウレカ教の聖なる御子と、聖騎士の登場に安堵したのか、くずおれるカルタスとネンナ。
「氷の精霊よ、もうあなたの力は必要ありません。力を収めてください」
エステルにそう声をかけると、吹き荒れていた氷の魔力を消すと同時に姿を消した。じつは、子犬サイズになって、獣達に紛れているのだけど。サイズを変えられるとは知らない人からみたら、気づけるわけがない。
フェンリルという脅威がいなくなったけれど、まだ多くの魔物や獣が舞台を取り囲んでいて、聖騎士達は近づけないでいた。
カルタスとネンナも、ネスの力を見たあとでは、むやみに魔物と獣の囲いを突破する気になれないらしい。舞台の中央へ移動し、そこで縮こまっている。
「どうかお助けください!ツヴァイ御子様!」
「うるさい!おまえのような者が、御子様にお声をかけるとは!この不届き者め!!」
カルタスが救いを求めると、すかさず聖騎士長が叫んだ。
「ア・ッカネン国の犬め!おまえの魂胆はわかっているぞ。この聖なる地での暴挙を、我らが許すと思うのか!」
「はっ?」
わけがわからないといった様子で呆けるカルタス。
「あの、わしが………私がなにをしたとおっしゃるので?」
「おまえ達『虹の旅人』が、ア・ッカネン国の諜報機関なのはわかっている。これまで目をつぶってきたが、王都でこんな騒ぎを起こすとは言語道断!覚悟しろ。きつく取り調べをして、本国にも騒ぎの責任を取らせてやる!」
「お待ちください!騒ぎを起こしたのは私共ではなく、そこにいる小娘なのです!フェンリルを召喚し、魔物共を先導し………さきほど、ネスがプロンプトを殺そうとしたところを御覧になったでしょう!?」
カルタスは必死だった。無理もない。ツヴァイ御子が正式にア・ッカネン国に騒ぎの賠償を請求をするということは、国際問題に発展する。アステラ大陸では、エウレカ教は絶大な力を持つのだ。問題を大きくされれば、ア・ッカネン国は孤立する可能性もある。そんなことになれば、この場で助かったとしても、ア・ッカネン国に暗殺者を差し向けられて殺される可能性も十分にある。
「そちらにいらっしゃるのは、御子様の御子である」
はああぁぁ~~?
いったい、何人分だろう?盛大なため息が聞こえてきた。
ツヴァイ御子に子供がいるなんて、聞いたことがない。そりゃあ、子供のように可愛がってもらっていたけれど。いったい、いつわたしがツヴァイ御子の子供になったの?
聖騎士長の演説はなおを続く。
「御子様は心優しい方のため、苦境に喘ぐ者を見過ごすことができんのだ。檻に囚われた者達を解放するために聖なるお力を振るわれたのであり、これは聖なる行いである。よって、お嬢様に罪はない」
なんじゃそりゃあ!
思わずつっこみを入れる人々。
「あ、あの、私達は………」
カルタスは、恐る恐る聖騎士長に話しかけた。
「あぁ。おまえ達は、王城で取り調べが待っている。連行しろ!」
聖騎士長の命令に従い、獣達の横を通り、カルタスとネンナを捕らえる聖騎士達。そのまま連行され、王城へと消えて行った。
「逃げた者達も、じきに捕まるでしょう。さあ、お嬢様。教会へ帰りますよ」
この場で、ノーと言えるわけがない。
わたしが舞台を降りると、ネスやその仲間達が後をついて来た。
『皆は街の外で待機していて。ネスが皆を守ってあげてね』
「了解しました。我が主」
ネスが先導し、獣達はぞろぞろと街の外目指して歩いて行った。
そのあまりに行儀のいい行進を、人々は呆けたように見つめた。
おまけ投稿です。




