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104 進化する者

 舞台に戻ると、観客が慌てふためいてテントから逃げていく姿が見えた。

「きゃあぁぁ!」

 エステルが暴れて、繋がれた鎖が生き物のように宙を舞っていた。ネンナが鎖に当たり、その体が弾き飛ばされる。痛みと恐怖から、ネンナは悲鳴をあげた。

「静まれ!静まらんか!!」

 カルタスが言霊の魔法を使っているらしい。空気に、魔法の力を感じる。

 でも、エステルの怒りを含んだ体は大きく膨らみ、舞台全体に冷気の煙を広げている。その冷気はそろりそろりと広がり、逃げていく観客の足元をすくう。

 観客は、狭い出入口目指して一斉に押しかけている。

 ところが、エステルの冷気がテント全体に広がったところでテント幕が凍り付いた。誰ひとり、外へ出られなくなってしまったのだ。


 そこへ現れた獣達の群れ。パニックにならない方がおかしい。

 逃げ場がないと知るや、泣き出す者、叫び出す者と様々だ。

「お、おまえ!おまえの仕業だな!よくもやってくれたな!」

 カルタスがわたしに気づいて叫んだ。掴みかかろうとしたところを、オークに遮られた。

『マイロードに触れるな。汚らわしい人間め!』

 カルタスがぴたりと動きを止めた。

 言葉を操る魔法を使うだけあって、オークの言葉がわかったのかもしれない。

「ぐぬぬっ。小娘め、なにをした!?」

「もう、あなたの好きにはさせません。彼らは、わたしが連れて行きます」

「ダメだ!おまえは、もうわしの物だ。行かせんぞ!」

 

 なんだろう?言霊の魔法を使うというから口が上手いと思っていたけれど、そうじゃないんだね。

「きゃああぁぁーーー!」

 そのとき、悲鳴と共にネンナが飛ばされてきた。

 その傷だらけの体を、カルタスが受け止める。見かけにはよらず、力が強いらしい。

「ネンナよ、いいところに来た!あの小娘に、自分の名前を言わせるのだ!」

 カルタスに言われ、ネンナの様子が変わった。それまでふらついていた体をぴんと伸ばし、わたしに向かって人差し指を突きつけた。どう見ても、操られている。

 なるほど。言霊の魔法には、名前が必要なんだね。


「おまえ、名前を言いなさい」

 ネンナが抑揚のない声で言った。

 けれど、ネンナがわたしに仕掛けた誘惑の魔法は、すでに解術している。

「………」

 わたしがなにも言わないでいると、ネンナはもう一度同じことを口にした。

「おまえ、名前を言いなさい」

「嫌よ」

「「!?」」

 わたしの答えに、驚きに固まるカルタスとネンナ。


 わたしはエステルに向き直り、舞台の中央で冷気を放つ彼女に向かって言った。

「………氷の精霊よ、その力を解き放て………!」

 エステルは静かに頷いた。

「やめ………っ!!」

 カルタスの言葉を途中でかき消し、エステルを中心として吹雪が吹き荒れた。


 ごおおぉぉぉおおお!!


 強風がテントを空高く吹き飛ばし、テントが彼方へ飛んで行った。

 テントがなくなったことで、この場から逃げられるようになった観客。我先にと、散り散りに逃げて行った。

 よく見ると、とうさま達やクロード、レギーが逃げる人達に手を貸している。 

 振り返ると、舞台裏では観客と同じく逃げ出すピエロ達が見えた。

 けれど、ひとりだけ。吹雪を物ともせず、こちらへ向かって歩いて来る人影がある。あれが、怪力のプロンプトだろう。筋骨隆々として、2メートル近い長身の持ち主でもある。

 大丈夫。力だけなら、身体強化したわたしだって強い。

 レイヴの鱗から作られた剣の柄に手を添えたとき、オーガがわたしの前に出た。

 このオーガは、他の獣達と違って、オークと一緒にずっとわたしの後ろに控えていてくれたの。まるで、主人に付き従う騎士のように。


『我が主に近づくな!』

 プロンプトは、威嚇するオーガを鼻で笑った。

「ふん!ネスのくせに、威勢がいいじゃねえか」

 元来、大柄なオーガにあって、このネスと呼ばれたオーガは小柄だった。凶悪な顔をしたプロンプトの方がオーガに見えるほどに。過酷な生活を物語るように、ネスの体は痩せて腕も細い。プロンプトが怪力の魔法を使えば、赤子の首を捻るように、簡単にネスを殺してしまえるかもしれなかった。一見すると、ネスに勝ち目はないように見える。

 でも、戦いとは、それだけではない。

 わたしはネスの背中に触れ、呟いた。

『勝ちなさい』

 その瞬間、わたしの魔力が波となってネスの体を駆け巡った。

 これは、魔物使いだからこそ使える術。自分の力を対象の魔物に貸し与えることができる。


『!!』

 一呼吸する間に、わたしの魔力がネスの血管の隅々まで駆け巡った。そして、驚くことに、ネスは進化した。体が一回り小さくなり、筋肉が大きくなり、俊敏そうな体躯をした鋭い目つきの男がそこにいた。人間と違うのは、額から生えた2本の角と鋭い爪だけ。

「はっはっは!なにをしたが知らんが、所詮はネス。俺様の敵ではない。捻り潰してやるぞ!」

 プロンプトが叫んだ。そして巨大な斧を振り上げたとき。

「おおぉぉぉっ!」

 ネスが人語で叫んで、その懐に飛び込んで行った。

 プロンプトが斧を振り下ろすより早く、その顔面にパンチを何発も浴びせるネス。

 プロンプトも負けていない。足元がふらついたものの、踏みとどまってネス目がけて斧を振り下ろした。斧は舞台をえぐったものの、ネスを捉えることはできなかった。

 ネスは一旦プロンプトから離れ、呼吸を整えた。自分の体の動きを確かめているようだ。

 


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