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101 カルタスの罠

 野営の片付けをしたあと、さっそくル・スウェル国の王都へ向けて出発した。初めは森を迂回して通ったが、今度は森を突き抜けて進む。ロキシー達がいるので、無理はできない。枝や棘で体を怪我するかもしれにからだ。とうさまが先頭になり、クロードが通った道を通りながら進んだ。道と言っても、慣れた者じゃないと通った形跡はわからないくらいのものだったけれど。

 こうしている間にも、クロードが『虹の旅人』に合流して鞭打たれているかもしれないと思うと、心が痛んだ。

 それに、ボスのカルタスは気分で罰を変えたり増やしたりするらしいの。水攻めとか、焼いた鉄ごてを体に押し付けるとか、色々むごいやり方はある。カルタスがひどい男だという話は聞いていたから、心配だ。


*   *   *


「なんだと!?あの小娘を逃しただと!」

 ボスのカルタスが唾を飛ばしながら叫んでいる。

 俺は激昂したボスの前に跪き、さっき考え抜いた言い訳を口にしたところだった。

 あの図書館に、ボスもいた。一座の座長として客引きを行うのはもちろん、金や情報に繋がりそうな人間を探すためだ。デブのくせに動きはしなやかで、獲物を狙う目に間違いはない。だからこそ、少女誘拐には失敗しないよう一座のナンバー3である俺が選ばれた。

「ふざけんじゃねえ。ありゃあ、上玉だ。ガキのうちから仕込めば、いくらでも使い道があったんだぞ!それをおまえ………うん?おまえほどの腕の持ち主から逃れるなんて、考えられねえ。クロード、おまえ、あの小娘に惚れたのか?それで、てめえで逃がしたんじゃねえのか。このやろう!」

 惚れたかどうかはともかく、正しい結論にたどり着くカルタス。こいつは、見た目に反してまともな脳みそを持ってやがる。そこがやっかいなんだ。


「いやいや、相手は10歳そこそこの小娘ですよ。俺の年を知ってます?25歳です。10歳のガキに手を出すわけがないじゃ………」

「まともな男なら、ネンナをほおっておけるはずがねえ」

 ちょっと待て。どうしてここでネンナが出てくる。

「あれはいい女だ。男を喜ばせるやり方を、よく心得ている」

 ボスとネンナが寝ていることは知っている。だが、それがどうした。俺には関係ない。

「おまえが相手してくれねえと、ネンナが嘆いていたぜ。もしかしておまえ、幼女趣味なんじゃねんのか」

 やめてくれ。どうしてネンナひとり相手にしないからって、幼女趣味なんて言われなきゃいけねえんだ。


「つまりだ。おまえ、あの小娘に惚れたんだろう。言え。どこに匿ってる?」

 あほか。寝言は寝て言え。

 いや待てよ。ボスがこのあほみたいな話を信じているなら、その話に乗ってやらないでもない。

「じつはですね………」

 俺は、ボスが望む話をしてやった。俺がセシルに一目惚れし、捕まえるのが惜しくなったこと。オ・フェリス国に向かって旅をしていたので、今頃はオ・フェリス国の南端に着いているだろうこと。嘘をと真実を織り交ぜながら話した。


「ふむ。話はわかった。………クロード、てめえが嘘をついてるってことがな」

「!?」

 突然、怒りだしたボスは、呼び鈴の紐を引いた。

 すぐに、待機していたプロンプトが現れる。

 プロンプトは2メートル近い身長に、筋骨隆々とした男だ。ボスの手足となって仕事をし、ボスが躾と呼ぶ拷問もこいつが担当する。

「どうやら、躾が必要らしい。おい、プロンプト。クロードを可愛がってやれ。たっぷりとな」

「待ってくれ!」

「もういい。話は終わった。下がれ」

 ボスを埃を払うかのように、しっしっと手を振った。

 プロンプトに引きずられながら、俺は頭が混乱していた。


 うまく誤魔化せたんじゃなかったのか?

 奴は、俺の話のなにを信じた?それとも、すべて嘘だと思ったのか?

 ちっ。どうやら俺はしくじったらしい。

 セシルが無事に逃げられるといいが………。


*   *   *


 ル・スウェル国の王都には、広場がある。そこに色鮮やかなテントがいくつも張られ、人々で賑わっていた。

 集まっていた人々に聞いた話では、一座は1週間ここに滞在し、公演を行うのだという。人気のピエロのひとりが体調不良で寝込んでいるらしく、観られなくて残念だということだった。

「きっとクロードだよ!よかった、まだ生きているんだね」

 最悪の場合、殺されている可能性もないではなかった。生きていれば、助けられる!

「あとは、計画通りだ」

 『虹の旅人』には、動物もいる。その動物を一斉に逃がして騒ぎを起こすことにした。騒ぎに乗じて、クロードを助け出して逃げる。『虹の旅人』は追ってくるだろうから、近くの森に誘い込み、そこで決着をつけるのだ。


「あらあら。あなたも舞台を観に来てくれたの?ありがとう!」

 振り向くと、魅力的な体に布の少ない衣装を身に着け、派手な化粧を施した女性がいた。年はクロードと同じくらい。

「あたしはネンナって言うの」

 では、この女性がクロードに迫っているネンナという人か。

「ねえ、知ってる?クロードのこと」

 甘い声で、ネンナは囁いた。

「えっ?」

「クロードったら。ボスの機嫌を損ねて、躾をされたのよ。あたしが助けてあげようとしたのに、「助けはいらない」なんて言うの。反抗的でしょう?だから………殺しちゃった」

「えっ!」

「うふふ。冗談よ。あんないい男、簡単に殺しはしないわ」



すみません!投稿予約の日にちを間違えていました。

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