10 メリス島へ
がっくりと肩を落として、残念そうな顔をしている。
「ハンターなど危険な仕事を辞めて、落ち着く気はないのか?娘を育てるにも、その方が良かろう。それに、年齢的にも、どこか1か所に落ち着くべきではないか?」
「…娘は、すでに一人前のハンターです。危険は承知の上で行動を共にしています。いずれは、どこかに落ち着くでしょうが、それは今ではありません。そして、アリッサ姫には私などより相応しい人間がいるはずです。私などではなく」
きっぱりとしたとうさまの態度に、王様はますます残念そうにしている。
「では、護衛の契約もこれまでということで、更新は致しません」
王女殿下の護衛の契約は、7日ごとに更新する契約になっている。今日がア・ムリス国に来て28日目、つまり3回目の契約更新が終わる日だ。ア・ムリス国に来てすぐ王女殿下に見つかり、王女殿下の護衛をすることになったとうさま。生活拠点はメリス島だったけれど、日中は王宮にいてわたしはあまり一緒に過ごせなかった。のんびり休暇を過ごす目的でア・ムリス国に来たのに、思っていたのと違ったなぁ。
護衛依頼はハンターギルドを通しての契約だから、報酬はギルドで受け取ることになっている。あとは依頼受付書に署名と評価をしてもらうだけ。A評価をしてもらった。うん。それ以外ないよね。
とうさまは護衛の仕事以外に、兵士の訓練に参加していたの。この28日で、ずいぶん鍛えてあげたと思うよ。
「お世話になりました。これにて失礼致します」
とうさまが挨拶をして、わたしはぺこりと頭を下げた。
王宮から出て、王都のハンターギルドで報酬を受け取り、港町へと向かう。今度は歩いて。昨日は吐いたからね。
港町と大陸を結ぶガーラム便は、1日に4便出ている。9時、11時、13時そして15時。乗り場は、もちろん1番乗り場。便数が多い分、他の乗り場よりうんと大きく作られていて、船も大きい。大陸との交易便だからね。
港街から大陸までは、高速便で2時間、通常便で4時間ほど。距離を考えると、結構早い。そしてお金に余裕のある貴族は、高速便を貸し切りにすることが多い。通常便だと、平民や商人が一緒になるからね。それに貸し切りにすると、あえてゆっくり進ませて海を眺めたり、航路を少し外れて観光することもできる。
ゆっくり海を眺めたなら、島に着いてからいくらでもできるのに。貴族ってわからない。
とにかく、ランチを食べて13時の便で大陸に………って、そういうわけにはいかないか。メリス島の借家を片付けないといけないし、島長とも話をつけないと。そうじゃないと、メリス島の人達からの印象が悪くなってしまう。
借家の料金は1か月分前払いで支払っているし、置いてあるのは着替えや日用品だけ。置いて行っても惜しくないけれど、大家さんにしたら気分良くないよね。いや、大家さんて島長だから、怒らせてもかまわない………か?う~ん。
島長はわたしを無理やりジグと結婚させようとするし、あんまり良い印象がない。というか、悪い印象しかない。
なぜデレウさんが島長なのかと言えば、実力でなったわけじゃない。たた単に、先代の島長が父親だったからに過ぎない。そして息子のジグも、いずれは島長を継ぐことになっている。代々が島長の家系なの。だから、自分達は特別なんだという意識に囚われている。
港町からメリス島までは、観光用の小型船をレンタルした。せっかく助けたウルンサ達を、こんなところで使わないよ。小型の船に、1頭のガーラムが繋がれている。
そして、王宮からやってきた使者に会ったので、ついでに一緒に行く。なんと、ガーラム船のレンタル料金を出してくれた。お金には十分余裕があるけれど、ありがたい。特に不満もないので、一緒に港町を出発した。
王宮からの使者は、ハオという名前の好青年だった。年の頃は25歳くらい。腰が低く、笑顔がいい。
「今はメリス島まで定期便が出ていないし、どうしようかと思っていたんですよ。皆さんとご一緒できて良かった」
「うん。それは、わたし達もだよ。ハオさんが島の人達に今回のことを説明してくれるから、島長に怒られなくて済んで助かるよ」
「はははっ。ちょうど良かったですね」
ガーラム船は順調に進み、あっという間にメリス島に着いた。
桟橋にガーラム船を固定していると、すぐにオッサムさんが飛んできた。小屋から見ていたんだね。
「こんの、ガーラム泥棒が!!よくも、ぬけぬけと戻って来やがったな。覚悟しろよ。子供だからって、容赦しねえぞ!!」
どうやら、王宮からの使者であるハオさんは見えていないらしい。文官だからかな。でも、普通は恰好を見たらわかるよね。そうか。目が悪いのか。頭も悪いし、あちこち悪くて大変だね。
とうさまがわたしをかばうように前に立ち、オッサムさんと向かい合った。とうさまの方が背が高いので、見下ろす感じになる。




