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ハーレムヒロインたちは、主人公を探している  作者: まつり
第ニ章 ヒロインとショタさん
7/8

7話:≪勇者≫様は見つけてしまう

「異常繁殖したゴブリンの群れの討伐っぺ」


 依頼書を音読したマルティア。リテラシー皆無のリーリエに代わり読み解き、件の彼女は僅かに顔をしかめたまま。

 クレハ――と名乗った少年は、リーリエの顔つきを窺いつつ、縮こまって首を縦に振る。


「はい、そうなんです。ボクの住んでいる村……ラクラル村と言うんですが、近くの森でゴブリンの異常発生が確認されまして……正直、被害は農作物に収まっていないんです」


「それって……」


 小さな拳を握り、恨むように体を震わすクレハ。

 エリカがその先を問おうとするも、ゴブリンという醜悪な性質上、村民がどのような被害を受けたか――想像に難くない。


「話の内容は分かったわ。でも、分からないことがるのだけれど」


「はい、分かっています。何故、正式な依頼を踏まないか、ですよね?」


「ええ。本来、依頼というものはギルドが仲介して行うもの。それこそ、依頼の説明から案内までね。トラブルを避けるためにも、冒険者が依頼主の顔を知らないってのが往々にあると思うけど?」


「確かに、冒険者は野蛮な人が多いっすからねぇ。金銭トラブルでもあれば、結構面倒なことになると思いますよ」


「逆も然りっぺ。冒険者は権力者が相手だと、太刀打ちできないっぺ。前回の手柄横取りがいい証左っぺ。そういう意味でも、ギルドを介さない利益が一つもないっぺさ」


 冒険者と依頼主の仲介を行うギルド。

 一つの国に多数のギルドが並ぶ故、ギルドは熾烈なフォローサービス競争に発展している。


 その一環として、依頼主がギルドを介して依頼を送ると、依頼の説明、案内に加え、報酬の受け渡しなどは全てギルドが仲介するのだ。

 これにより金銭的なトラブルを避け、無益な争いを生まないようにしている。


 無論、デメリットもある。

 目立つのは依頼料の値上げ。達成報酬の値下げ。

 故に、寒村や貧乏人がギルドを介さず、直接依頼することも間々ある。だが、


「そいつらを食い物にする集団もいるくらいっぺ。正直、ギルドを介さない依頼は、止めた方がいいっぺよ? やり方分からないなら、教えてあげよっか?」


「い、いえ! 勇者パーティ様のお手を煩わせるわけには参りません……それに、これは公式で依頼をすることが出来ないのです」


「――?」


 小首を傾げる三人。クレハは「えっと……」と前置きをして、


「ゴブリンによる被害が発生した際、村長が領主様へ依頼書の提出を申請したのです。でも、何故か通らなくて……それに、次の日騎士様が着て、『ゴブリンは撲滅した』と宣言して、帰ってしまわれまして……」


「ぁぁ。騎士の面子がある分、アンタらの貴族が依頼の申請を拒んだって訳っすね」


「最低っぺ。これだから、貴族社会は嫌いっぺ」


「それは同感ね。でも……いえ、些末なことね」


 リーリエの脳裏に嫌な予感が引っ掛かるも、現状は特に気にする必要はないと割り切る。

 無論、小首を傾げる二人へ、懇切丁寧に説明するという気にはなれない。――この依頼、怪しい臭いがするからだ。


「背景は分かったわ。では、次は金銭的な話をしましょう。前金と達成報酬、貴方の村はどこまで渡せるのかしら?」


「その……前金が十万シスル、達成報酬が二十五万シスルで……」


「……ん? クレハ君だっけ? 君の村、何処にあるって言ってたっすか?」


「その……ラクラル村です」


「ふむふむ……って、前金の時点で交通費すらないじゃないっすか! 依頼として破綻してるっす!」


「っひぃ! ごめんなさいごめんなさい!!」


 この世界のレートは、ざっくり十シスル=一円だ。

 寒村からの依頼では達成報酬が少ないことなど往々にしてある。しかし、ここまで酷いのは、冒険者を最も長く経験するリーリエですら初めて。


 このレベルの話になると、そもそも、ギルドを仲介したところで受注者がいなかったであろう。


「悪いけど、他を当たって頂戴。こっちもお金がなくて苦労してるのよ。悪いわね」


「そんなぁ……」


 泰然と言葉を発し、席を離れようとするリーリエ。

 背中から悲痛な声が聞こえるが、耳を傾けるほど、自分は善人でないと割り切っている。

 仮に、自分が騎士団や戦士団に属しているのなら、国の栄誉のため、弱者に力を貸すことも吝かではない。しかし、今のリーリエは冒険者なのだ。

 自分の身は自分で守る。力を貸すのは、適正な報奨金を支払える依頼主のみ。


 勿論、クレハの境遇には一定の同情を示す。

 クレハが地図上で示したラクラル村は、この国の北方――郊外にあり、馬を乗り継いでも二週間は掛かるであろう。十歳にも満たない少年が、一人でこの国に訪れ、強者の手を借りようとする覚悟は熾烈なものであろう。


 しかし、リーリエにも譲れないものがある。

 それを直接言葉で表すのは恥ずかしい。婉曲に言ってしまえば、討伐依頼は常に危険と隣り合わせだ。

 敵が格下のゴブリンであろうと、イレギュラーが何処に潜んでいるかは、『魔の大陸』から帰還した今でも、全くと言っていいほど分からない。


「……ん? 待って、貴方……」


 刹那、リーリエの脳裏に電撃が走った。

 いや、すぐに気が付くべきだったのだ。彼の姿、彼の年齢、彼の服装――全ての答えが、初めから提示されている。


「リーリエ。受けてあげてもいいんじゃないっすか? 私たちの給料、もう少し滞納してもいいんで」

「私たち!? ……うぐ。でも、今回ばかりは仕方ないっぺ」


 さらに状況が状況だ。彼の覚悟を見て取ったのか、二人は半ば訴えるような双眸を送る。

 だが、リーリエの心情を突き動かしたのは、二人の表情ではなかった。


 ――この子、主人公適性が凄まじすぎるわッ!


 襤褸のせいで顔が良く見えなかったが、よくよく目を凝らすと、彼の主人公に対する適性の高さを感じ取れる。

 大きな瞳に、薄桃色の唇。肩は少女のようにか弱く、両手は股の手前でもじもじとしている。目上の女性に緊張しているのか、視線が交わる度、即座に顔を伏せてしまう愛くるしさまで備えていた。


「……分かったわ。今回の依頼、受ける方向で話し合いましょう」


「「ぁ、絶対に別の理由だな……」」


 呆気からんとする蝙蝠っぷりを発揮するリーリエ。腐れ縁の二人は、リーリエの目的が金でないことに、即座に気が付いた。


「ぁ、ありがとうございますッ! 勇者パーティのマネージャー様ッ!!」


「ぐはッ!」


 そこへクレハの不意のボディーブロー。リーリエはたまらず椅子から滑落する。


「わ、私の名前、リーリエ・アズ・ルシウスというの。リーリエよ、リーリエ。分かるでしょ?」


「り、リーリエさんですね! よろしくお願いいたします」


「ぁ、はい……」


 元気よく挨拶したクレハは、次に視線を二人へ向ける。

 彼の無垢な視線に気が付いた二人。マルティアが手を挙げて、


「私の名前は――」


「勿論知ってます! マルティア様に、エリカ様ですよね! お金が全然渡せなくて、申し訳ありません。 でも! ボクが沢山働いて、いつか絶対に返しますから!」


「それは殊勝でよろしいことだけど……なんで、私たちの名前まで知ってて、勇者様の名前は知らないんっすか?」


「……えっと、恥ずかしいことに、勇者様はみんな≪勇者≫様って呼んでで、ちゃんとした名前が分からないんですよね」


 そんな罠があったとは――。

 今まで英雄の証だと思っていた勇者の称号こそが、自身の名声を妨げいたのかもしれない。震えて声も出ないリーリエである。


「……ま、まぁ、今はそんな評価でも問題ないっぺさ! クレハ君がリーリエのお嫁さんになれば、万事解決っぺ」


「貴方たちもよ。私をリア充にしないで頂戴」


「状況的には、リア充よりもたちが悪いっぺ」


「――?」


 不安げに見つめるクレハ。

 汚れた前髪から覗く瞳は存外綺麗で、リーリエの中で爆睡する母性を僅かに触発。それを無視するように、リーリエは髪を払って、


「貴方、私のギルドに入りなさい。貴方を、ハーレムの主人公に任命してあげるわ」


「はーれむ?」


「いいっすねぇ。その単語をしらないだけ、超純真無垢っすよ」

「リーリエのお眼鏡に叶ったらしいっぺ。私たち、応援するっぺ!」


「いや、だから、貴方達も参戦するのよ? じゃないと、ただのリア充マネージャーになってしまうわ」


「そんなことはどーでもいいから、とんでもなく遠回りしていることに、気が付いて欲しいっぺ」


「あの……勇者様のパーティに入れば、ボクたちの村を救ってくれるのですか?」


 クレハの質問へ、リーリエは得意げに首肯。

 刹那、マルティアとエリカは彼の言わんとしたことに気付いたようで、「ぁ……」と息を漏らす。


「――ボク、未成年なんで、パーティには入れないです」


こんばんは。如何でしたでしょうか?


土曜日更新のつもりでしたが、普通に日曜日になってしまいました。毎日投稿の難しさを実感です……。


もしも『面白い』や『続きが気になる!』という方は、ブックマークを是非……ッ! 

広告の下の評価を☆☆☆☆☆→★★★★★にしてくれてもいいんですよ?

それでは!

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