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ハーレムヒロインたちは、主人公を探している  作者: まつり
第一章 ヒロインと荷物番さん
5/8

5話:ハーレムヒロインたちは、主人公を探している

「愚かだとぉ? ハハ! リーちゃんたち、結構ビビってんな? 現実を教えてあげるよ! この戦力差を見ても、勝てるとでも思ってるのかな!?」


 辟易するリーリエの息を聞き、グラダスはケタケタと嗤う。

 当然だ。怪鳥バルザックとの一戦では隔絶した戦力を披露したリーリエ。しかし、敵の総戦力は向こうの方が上なのは言うまでもない。


 三十人を超える山賊に加え、『砂原の黒蠍』団のメンバー三人。山賊個々の戦力は判然としないが、砂原の黒蠍は『B等級』。――すなわち、上位三十%に君臨する化け物集団だ。


「……それは置いておいて、何故、こんな下らないことをしでかすの?」


 圧倒的戦力差を示威されたリーリエ。しかし、彼女が発した言葉は、この場に似合わない言葉であった。

 一瞬だけグラダスは返答に詰まるも、すぐに悪辣とした表情で上塗りする。


「ああ、そうかそうか。それを言ってなかったな! ――美味そうだから。意味は分かるかな?」


 男たちが口笛で場を盛り上げ、少女たちの恐怖を幇助する。


「まぁ、その後は奴隷に沈めるけどよ? お前たちは大変だろうけど、俺たちは二度おいしいんだ。すまないが、俺と君の中なら、許してくれるよな?」


 首を傾げるグラダス。

 初めに挙動を見せたのはマルティアであった。輪郭富んだ体を震わせ、ゆっくりと頭を垂れる。弓道衣の隙間から覗いた実りが、男たちの視線を一気に集中させる。

 ――そして、マルティアは地面に頭を突っ込んだ。


「―――――!!!」


 土下座をするマルティア。

 ドッと、歓声が上がる。それは命乞いをするマルティアへの、明確な侮辱の嵐であった。


「……コイツらッ!」


 ファルラスは自分の戦力が貧弱であることも忘れ、怒気に身を任せ、携帯していたナイフを握る。

 自分の戦力では、奴らを打倒するのは不可能だ。もしかしたら、一矢報いることすら、夢のまた夢かもしれない。


 しかし、自分の吶喊が、戦列を切り崩す可能性はある。

 その隙をついて、勘のいいリーリエは撤退を選択してくれるはずであろう。

 本当に情けない人生だった。焦れた冒険者に慣れたはいいものの、現実の恐ろしさを思い知らされ、挙句の果てに不幸に愛され続けた人生であった。

 だが、最後に少女たちを助けられたのなら、まぁ、胸を張って死ぬことくらいは出来るであろう。


 恐怖を怒気で押しつぶし、決意を再確認するようにナイフを握り直すファルラス。

 刹那、マルティアがガバッと、土の中から顔を上げて、


「あま~~~~~い!!」


 と。

 まるで初めて恋を知った生娘のように。初めて愛を知った少女のように。

 蕎麦を彷彿とさせる吸い付きっぷりで、芋虫のような生物を呑み込んだ後。甘露に満ちた息を漏らす。


「マルティア……貴方、そんなにお腹が空いていたの?」


 その様子へ、リーリエがドン引きでマルティアを睨む。そんな彼女をまるで意に返さず、マルティアは頬袋になった右頬から、数匹の生物――虫を手に戻して、


「リーリエも食べるっぺ? 美味しいよ?」


「いえ、遠慮しておくわ。食欲ないから……いえ、今、食欲がなくなったから。……食べ物アレルギーになったから」


「――? そ? じゃ、エリカにあげるっぺ」


「ぎゃあ! 虫無理! ってか、口に入れた物を人にあげる癖、マジで止めた方がいいっす!」


「みんなで食べたら美味しいのに……ファルラス君は――」


「「それは本当にダメ」」


 リーリエとエリカが異口同音で重なる。

 マルティアは寂しそうに項垂れた後、長細い虫を、チュルルルと啜って呑み込んだ。


「甘いっぺ。生きててよかったっぺ……」


 この世の耽美を目の当たりにしたように、恍惚と頬を赤らめるリーリエ。

 あまりの反応に呆気からんとしていた男たち。しかし、即座に自分たちの目的を思い出す。


「――ッ! な、嘗めやがって! やっちま……あれ?」


 刹那、グラダスを除く、『砂原の黒蠍』団の全員が不可視の衝撃を受け、後方に吹っ飛ぶ。

 それを認知できたのは、強烈な光が迸り、追うように突風が吹いたからだ。


 ――弓だ。

 恐らく魔法で生成された弓が、男三人を貫き、体ごと後方へ吹っ飛ばしたのだ。

 動体視力では追えないので、結果と少女たちの武器を鑑みて逆算した形ではあるが。


 しかし、おかしい。

 少女たちの中で弓を装備しているのは、マルティア唯一人。しかし、先の彼女の凶行から、ファルラスはマルティアを注視していた。

 彼女は弓を引く動作も、ましてや武器を構える動作すら見ていない。


「……あれ? マルティアさんは?」


 先まで美味(?)な食事にありつき、幸せそうにしていた少女の姿が何処にもない。

 ファルラスが呟くと同時、男たちもその疑問に至ったようだ。


「うっし。では、私も行きますか。リーリエは、あの優男を頼むっすよ。正直、触るの嫌なので」


「団長と呼びなさい」


 マルティアの攻撃を号令に、エリカが抜刀する。

 刹那、再び光が迸った。森の奥底から飛んできた魔法の弓は、感知よりも早く結果をもたらす。男たちが回避をしようとする手前、既に弓が眼前にいる状態だ。


「っひぃ!」


 山賊たちはようやく、彼女の異常性に気が付いた。

 しかし、その時にはもう遅い。体を翻すときにはエリカが既に肉薄しており、剣術と体術を駆使し、即座に意識を刈り取っていく。


「な、なんだよお前ら! クソガキ三人だぞ!? とっとと倒せよ!」


 呆気なく倒されてゆく山賊。グラダスが叫ぶも、その甲斐空しく、次々と地面に倒れ込んでゆく。

 次第にグラダスの体は震え始め、彼一人になった時には、涙と鼻水で顔が潰され、見るも無残な姿になっていた。


「貴方達なら、当然こうなることも承知の上よね? 残念だけど、狩る側はこっちよ」


 悪魔が、ゆっくりとグラダスへ近づく。

 二本の湾曲したナイフを、逆手で構える少女。速度が売りの彼女がゆっくりと歩を進めるのは、グラダスに圧力を与え、弄るためか。


「男にも価値はあるのよ? 手始めに、耐久力を上げさせてもらうわ。薬物を投与して、十五時間は働いてもらう。体力を付けつつ、拷問で再生力を高めれば、立派な肉壁の塊。どう楽しそうでしょ?」


「いや……た、たすけて」


「貴方たちは大変だろうけど、私たちは二度おいしいの。悪いけど、俺と君の中なら、許してくれるわよね?」


 ペロリと、少女は刀身を舐める。

 それがグラダスの精神を崩壊させたのだろう。へたり込んだ彼は、至る所から体液を撒き散らし、生き恥を晒す。


「いやだ! いやだあああ! 死にたくない死にたくない! そ、そうだ……金! 金をやろう! 奴隷も斡旋する! 活きのいいやつをだ! だから、殺さないでッ!」


「あら? これだけ騒げるなんて、随分と活きが良いのね? 貴方に決めたわ」


「やだああああああああああああッ!!!」


 身を翻し、グラダスは脱兎の如く逃げる。だが、弓矢の如く疾走するリーリエを相手取って、逃げ切れるはずがなかった。

 一瞬で追いつかれたグラダスは、リーリエに脛を蹴られ、顔面から地面に転げ落ちる。


「――手始めに、大切な部分を潰しましょう」


「いやだあああああああああああああああッッッ!」


 グシャリ!

 リーリエの足刀が振り落とされ、地面が抉れる。リーリエの踵を挟むように男の両足があって――ほんの数センチ狙いが外され、グラダスは外傷を免れた。


「―――」


 しかし、あまりの恐怖に迷走神経反射を起こしたのだろう。

 グラダスは情けなく口角から泡を吹き、その場で意識を手放す。


「おお! 派手にやりましたね!」


「リーリエは鬼畜っぺさ。私みたいに、弓先を丸くして、意識を飛ばすだけで良かったっぺ」


「まぁ、これで彼らも反省したことでしょう。これは、私たちへの迷惑料よ。こっちもスッキリしたし、これでチャラにしてあげるわ」


 そして、リーリエの視線はファルラスへと向けられた。


「さぁ。どうする?」


「な、何がだ?」


「貴方達のパーティーは、このまま衛兵に差し出すわ。パーティーは解体。――貴方は無所属になるわね」


「「……ぁ。そういう目的が」」


 エリカとマルティアは合点がいったようで、ポンと両手を鳴らす。


「そのまま荷物係りをしてくれるのなら、私たちのパーティーに歓迎するわ。給料は安いけど……アイツらよりはマシな待遇が出来ると思うわ。――それに、貴方が勇気を絞って守ろうとしてくれたこと、ちゃんと知っているから」


 ――あれは、勇気などではない。

 微笑むリーリエへ、思わず首を横に振ってしまいそうになった。

 あれはただの諦観だ。人を守ろうとか、そんな殊勝なことを考えてはない。有終の美を飾るため、彼女たちを利用したに過ぎないのだ。


 それでも、リーリエの笑顔を、とても輝いて見えた。

 彼女の笑みを近くで見たい。そして、次こそ、彼女たちを本気で守れるような自分になりたい。


「そんな答え、初めから決まってるじゃねぇか」


 そう呟いて、ファルラスは大きな鞄を置く。

 その先の答えをリーリエも察したのだろう。彼女はしたり顔で、片手を差し出した。


「そう。では、よろしくね。ファルラス。歓迎するわ、私たちの――」


「――入れる訳ねぇだろ! 馬鹿!!!」


 ファルラスは、リーリエの手を弾いて、脱兎の如く逃走した。

 ――あほか! パンピーの俺が、あんな危ねぇ少女と関わってたら命が持たねぇ! それどころか、荷物番として、一生こき使われる!!


 『砂原の黒蠍』団は、良くも悪くも隙の多いパーティーであった。いつかこのパーティーは壊滅か解散し、ファルラスは晴れて自由の身になったであろう。

 しかし、リーリエの方は違う。彼女たちに隙はない。

 あんな化け物集団に身を委ねたら、一生こき使われるのがオチだ。まだ奴隷の方がましである。


 そして、ファルラスが逃走を選んで決定的な言葉。

 ――給料は安いけど。


「それを先にいう組織は、大抵無給! 俺の危機感知能力が、ビンビン反応した! 逃げるが正義!!」


 こうして、ファルラスは人生最大の速度で、リーリエたちから逃げていった。


*** **** ***


「おお~、逃げる逃げる。どうします? 追いかけますか?」


「追いかけないわよ、バカ。ここで後を追ったら、完全に犯罪者じゃない」


 泰然とするリーリエ。しかし、ケモ耳と尻尾が垂れ下がっている点が、彼女の心情を吐露している。


「けど、意外だったっぺ。あの流れでパーティーに入らない選択をしたのは、中々やべぇ奴の香りがするっぺさ。きっと、豪の者っぺ」


「残念だけど、彼にはハーレムの素質がなかった。ええ、それだけの話よ」


「無理矢理引き込もうとは考えないっぺ?」


 小首を傾げるマルティアへ、リーリエはしたり顔。


「当然。本気でハーレムをしたいと思うからこそ、ヒロイン全てを愛せるのよ。女の子に囲まれるだけが、ハーレムではないわ」


「……変に理想が高いっぺ。でもいいっぺさ! 今日は大きなフライドチキンが手に入ったっぺさ! 今日はお祭りっぺ」


「ぁ。あの鳥、毒あるっすよ?」


「ぎゃぺぇぇぇぇぇ!?」


 驚愕の事実にのけ反るマルティア。

 そんな軽口を交え、リーリエたちは帰路につく。最後、彼女は青息吐息で、自身の肩を揉んだ。


「……はぁ。寒い時代ね」


 ――ハーレムヒロインたちは、主人公を探している。


こんばんは。如何でしたでしょうか?

憂鬱な月曜日、私の小説が少しでも癒しになってくれれば、と、思っちゃったり。


もしも『面白い』や『続きが気になる!』という方は、ブックマークを是非……ッ! 

広告の下の評価を☆☆☆☆☆→★★★★★にしてくれてもいいんですよ?


それでは!

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