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ハーレムヒロインたちは、主人公を探している  作者: まつり
第一章 ヒロインと荷物番さん
4/8

4話:フライドチキン

 ――討伐対象とは、予定よりも一日早く遭遇した。


 当然と言えば当然だ。

 天災級のリーリエの圧に曝露され、反骨精神を貫ける獣など、数えられる程度であろう。それは魔の大陸を除けば、の話だが。

 魔の大陸は想像を絶する戦力を有する魔物が跋扈すると聞く。優秀な冒険者が揃いやすいこの国も、魔の大陸に足を運ぶ者はほとんどいない。


 いずれにせよ、リーリエを含む三人の少女は、魔の大陸に挑戦する資格は充分にあろう。

 今もパーティーを先行するのは『砂原の黒蠍』団であるが、この行軍の功績は、間違いなく三人の少女たちによるものだ。


(だけど……なんかアイツら、おかしくねぇか?)


 そう。問題は、行軍の先頭に立つのが、『砂原の黒蠍』団だということ。

 通常のパーティーなら特段不思議ではないが、グラダスたちは戦闘以外の雑用を、全てファルラスに押し付けていた。その中には当然、道案内も含まれている。

 しかし今回の彼らは、まるでこの場所を通ったことがあるかのように、一度も迷うことなく目的地へ辿り着いたのだ。


「――」


 問題なのは、三人の少女がこれに全く無警戒であることだ。

 最前列を歩くリーリエは、軽薄な男二人の会話を適当に流し。エリカは男が苦手なのか、中列で此方の荷物の陰に隠れて気配を消し。マルティアは完全に集中力を欠いているようで、木の幹で眠る芋虫を口に放り込んでいる。


「――!?」


 ……ぇ、今、芋虫喰った!?

 エルフ族は大食家であり偏食家と聞いたことがあるが、噂は本当だったとは。


「――着いたわね」


 後ろに視線を送っていたせいで、急に隊列が止まり驚くファルラス。あともう少し踏み込んでいたら、リーリエの背中に体当たりするところだった。


「へー。ぱねーな。結構雰囲気あるっていうか?」


 グラダスの感想へ、残念ながら同意せざるを得ない。

 先ほどまでは鬱屈とした森を歩いており、獣道を踏むように移動するしか手段がなかった。しかしこの空き地のみ、木が一本も生えていないのだ。


 まるで森を切り取ったかのように、円形の空き地が広がっている。

 中央には枯れ木が円形に積み重なっており、何者かの巣であることが、容易に想像がついた。


 問題は、その大きさだ。直径三メルはあろう。この大きさから想像するに、巣の主は五メルほどの巨躯を放つ計算になる。


「……バカに落ち着いているのね? 恐らく、巣の主はかなり強いわよ。 数人程度で太刀打ちできる相手じゃないと思うけど?」


「そりゃあ、君たちと一緒にいるからな! 力貰ってる的な?」


「そ。だと良いけどね」


 相変わらず無表情で、口のみが動くリーリエ。彼女はグラダスのサムズアップを事務的に流すと――空を、見た。

 同時、円形の空き地を照らしていた陽の光が、気分を害したように消える。空き地が不気味に暗くなると、次には強烈な衝撃が、横殴りにファルラスらを襲う。


 風だ。

 旋風が突如として舞い上がり、森全体を震撼させる。


「キヤアアアアアアアッ!!!!」


 刹那、甲高い鳥類の声が、耳朶を震撼させた。痛烈な風の衝撃が相乗的に上昇し、近くの木にへばりつく。

 情けない話だが、男全員は吹き飛ばされないよう、体を強張らせるよりほかなかった。


「おい! あぶねぇぞ!」


 三人の少女を除いて。

 強烈な体幹の持ち主なのだろうか。三人はまるで微風を受けているかのように、髪を靡かせるのみだ。


「はわわ。でっかいフライドチキンだっぺさ」

「生き物を調理後名前で呼ぶの、やめてもらっても良いっすかねぇ!? こんな仰々しい登場をしてくれたのに、可哀想すぎます!」

「関係ないわ。――生殺与奪の権限は、私たちが握っているもの」


 季節外れのポンチョを靡かせるリーリエは、口角を獣の如く引き裂いた。

 同時――魔獣が姿を現した。


 やはり巨躯だ。体長は五メルを越え、骨格は完全に鳥類のそれだ。

 しかし嘴は嫌に長く、酷く湾曲した爪は、掠るだけ致命傷を受けることが鷹揚に伺える。


「お、おい! こんなのクエストに当てはまらねぇ! 撤退だ!」


 リーリエたちへ叫ぶ。

 今回の依頼内容は、怪鳥バルザックの卵の奪取あるいは破壊。即ち、いかに親鳥に見つからぬよう、立ち回らなければならなかった。

 しかし、卵は全て孵っており、巣に残るは親鳥のみ。状況としては最悪そのものだ。


「問題ないわ。こういう結果になることは分かってたもの」


「な、何を言っている!? 不可能だ! たった三人で何が――」


 言い終える手前、自分で発言した違和感に気が付く。


「……アイツら、何処へ行った!?」


 グラダスたちの姿が見えない。

 怪鳥に臆し、逃げ出したか。


「逃げ出してはないでしょうね。罠のような気がしたけど……まさか、本当に変な事、企んでるんじゃないでしょうね?」


「何を言って……?」


「怪鳥バルザックの産卵時期は今じゃないんですよ。 ギルドも、依頼書を剝がすのを忘れてたんっすね」


「仕様がないっぺ。一日に数百の依頼書を捌いてれば、ミスの一つもするっぺ」


「そのミスを受けたのが私たちであるということが、不幸中の幸いね」


 僅かにため息を吐いたリーリエは、スカートから双手のナイフを取り出した。

 酷く歪な形のナイフだ。逆手持ちで構えるも、ナイフ自体が湾曲しているため、刃先が前腕に接触しそうになっている。


「剣技――≪神速≫」


 刹那、空気が弾ける音がした。

 リーリエの姿が一瞬で消え、元いた彼女の足元が爆散。中空に円形の衝撃波が見えたような気がした直後、巨大な肉塊がドサッと地面に落ちる。

 先まで強大な旋風を巻き上げていた怪鳥は、リーリエの鋭利な颶風によって、一瞬として肉塊へと変換された。


 頭は空地へ、体は森へと不時着する。戦闘は呆気なく、文字通り一瞬での決着となった。

 本来、怪鳥バルザックは正規の訓練を受けた戦士が、数十人で討伐するタイプの依頼だ。それほどの戦力をもち、なおかつ空を飛ぶ優位性を確立している魔獣を、一瞬で、快勝した少女リーリエ。


「……やっぱり、俺の勘は間違っていないかったのか?」


 ファルラスは乾いた喉に無理矢理唾を通し、震えた声で呟く。

 これほど隔絶した戦力を誇りながら、リーリエという少女は≪勇者≫パーティーの一味でしかないことが、更なる恐怖を幇助する。

 (恐らくマネージャーらしき立場であろう)リーリエ。それより高い位置に君臨する、マルティアとエリカ。二人の実力は、リーリエよりも上かもしれない。


「ば、ばけ――」


 化け物。そう呟きそうになって、慌てて口を閉じる。

 この世界でファルラスが不幸でいられるのは、間違いなく彼女たちのお陰だ。彼女たちが『魔の大陸』からの化け物を追い払っているからこそ、この国は平和が保たれている。


 そんな人たちに対し、化け物とは。確かにそうだが、それを口に出すのは、無礼が過ぎる。


「あ、ありがとう。助かった……」


「いえ、気にすることないわ。私たち、戦闘に関しては、極めて自信があるのよ」


「戦闘だけっすけどね。ってか、私たちの役目、何もなかったじゃないですか!」


 胸を張るリーリエへ、エリカが地団太を踏む。


「――いえ。これからよ」


「――?」


 獣の耳をしきりに動かすリーリエへ、一同が小首を傾げた。

 同時、ファルラスの危機感知能力が、人生最大の雄叫びを上げた。


 ――何かが潜んでいる。

 何者か、何人か、そもそも人間か。全く分からない。

 しかし、少なくともファルラスは人生を諦観してしまうほどの戦力差が、森の中に潜んでいる。


「――そろそろ出てきたらどうかしら? もう準備は終わったでしょ?」


「――へぇ。気が付いてたんだ。流石リーちゃんだな」


 木の陰から顔を覗かせたのは、『砂原の黒蠍』団だ。

 いつもの卑下た顔に、さらなる醜悪な表情を上書きし、三人の少女を見つめてくる。彼らの双眸から、何の目的があるのかなど、一目瞭然であった。


「お? それだけって顔だな。まぁ待ってろって。まだいるからさ!」


 グラダスが指を弾くと、ぞろぞろとフードで顔を被せた山賊が顔を出した。

 その数――三十を優に超す。


「――っひ!」


「心配する必要はないわ。想定内よ」


 絶望的な戦力差に尻もちをつきファルラスを、庇いだてるように間に入るリーリエ。

 そして一言。ため息を混ぜて、


「愚かね。あまりにも、愚かだわ」


如何でしたでしょうか?


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それでは、おやすみなさい

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